スマホで首が痛い 30秒肩甲骨ほぐしで「カメ首」撃退
ストレス解消のルール

カメのように首と頭を前に突き出し、甲羅のごとく背筋を丸めた「カメ首」姿勢による苦しみは、テレワーク生活をやめても続く。だからと言って、放っておいても治るものではない。以下は、外出自粛や巣ごもり生活の後遺症ともいえる「カメ首」ストレスを解消するためのルールだ。前回の「カメ首ストレス解消のルール」では、「首」の痛みを和らげる1から3までのルールについて取り上げた。今回は、「カメ首ストレス解消」の仕上げとして、肩から背中にかけて上半身の痛みを和らげ、精神面でも前向きになれるヒントを健康ジャーナリストの結城未来が昭和大学医学部整形外科の客員教授 平泉裕医師に教わった。
1.頭も肩も体の前にあってはいけない。頭は体の真上、肩は体の後ろにあるものと心得よ
2.「40秒首ほぐし」で首コリ撃退にいそしむべし
3.「40秒首筋トレ」で首や頭を持ち上げ、「カメ」から「ヒト」の首に戻るべし
4.「30秒の肩甲骨ほぐし」で背中から「甲羅」を取り去るべし
5.「20秒の脇伸ばし」で縮こまった体を伸ばし、呼吸とココロを楽にすべし
ルール4 「30秒の肩甲骨ほぐし」で背中から「甲羅」を取り去るべし
「首ほぐし」と「首筋トレ」で垂れ下がった首を持ち上げ、頭を正常な位置に戻すことはできるが、カメからヒトに戻るには、どうやらこれだけでは足りないらしい。「背中が張ってつらい」「ひどい肩コリや首コリ」といったカメ首症状は、カメの甲羅のごとく固まった背中からもきている。じつは諸悪の根源は「コリ固まった肩甲骨」なのだ。
――平泉医師「肩甲骨には、僧帽筋(そうぼうきん)や広背筋などの上半身を動かす大きな筋肉が重なりつながっています。『カメ首』姿勢では、背中が丸まり肩甲骨が外側に広がったまま固まってしまっているケースがほとんどです。肩甲骨につながっている筋肉も正常に収縮しなくなりますので、血行も悪化。肩コリや首コリを引き起こしてしまうのです」
背中の羽のような骨・肩甲骨の動きをしなやかにすることは、上半身の健康につながり、カメ首ストレス解消のキメ手になるようだ。そこで、30秒でできる「肩甲骨ほぐし」。
バスタオルかタオルを用意しよう。肩の柔らかさによって、無理をしない程度で持つ幅を変える。
(1)5秒かけて息を吸いながら頭上にタオルを持ち上げる。

(2)5秒かけて息を吐きながら頭上から後ろを通してタオルを下ろし、5秒キープ。縮こまった胸(大胸筋)が広がるのを感じながら、意識して肩甲骨を引き寄せる。

(3)5秒かけて息を吸いながら(1)の姿勢へ。5秒かけて息を吐きながらゆっくりと背中を前に倒して5秒キープ。背中の筋肉が伸びるのを意識しながら肩甲骨を広げる。

(1)~(3)を3往復
――平泉医師「肩甲骨の開閉を繰り返すこのストレッチで、固まった肩甲骨のしなやかな動きを自然に取り戻せます。同時に、僧帽筋や広背筋など肩から背中にかけての筋肉も柔らかくなりますので、肩コリや背中の痛みも解消できます。
私も早速やってみた。タオルを下ろす際には腕がこわばっていたので、少しずつ様子を見ながら腕を下げる。ヒジを背中側にしぼって肩甲骨を閉じるように意識をすると、鉄板のように固まった背中がほぐれていくのを感じられた。少しずつタオルを持つ幅を狭めていくと、さらに体がほぐれる。5秒キープの際に呼吸を止めがちなので、息を吐き続けるように注意しよう。
ルール5「20秒の脇伸ばし」で縮こまった身体を伸ばし、呼吸とココロを楽にすべし
――平泉医師「同様にタオルを使って、片腕ずつ伸ばす動作も行ってください。体幹側屈ストレッチによって脇を広げる体操です」
(1)タオルの両端をつかんだまま、前に伸ばす。
(2)タオルを自分に引き寄せながら左腕を頭上に真っすぐ上げ、右手は下げてタオルを引っ張る。息を吐きながら10秒キープ。脇(肋間筋)や胸(大胸筋)が伸びるのを感じよう。

(3)同様に、息を吸いながら右腕を頭上に上げ、左手はタオルを下に引っ張る。息を吐きながら10秒キープ。
(2)と(3)を交互に5回ずつ。息を止めないように注意して行おう。
――平泉医師「片方の腕を頭上に上げてタオルを介して反対方向へ引っ張ることで、硬直した肩甲骨のインナーマッスル・前鋸筋(ぜんきょきん)と、呼吸にも関わる肋間筋(ろっかんきん:肋骨の間にある筋肉)を伸ばすストレッチです。これを行うことで、肩甲骨の可動域をさらに広げられます。同時に、『カメ首』姿勢で縮んだ胸郭や脇の肋骨部分を広げる効果もありますので、肺を大きく使えて呼吸もしやすくなります」
私もやってみた。「肩甲骨ほぐし」の後なのでスムーズに腕を上げられたが、いきなり「脇伸ばし」から入ると、五十肩のように肩がコリ固まった人にはハードルが高いかもしれない。だが、「30秒の肩甲骨ほぐし」→「20秒の脇伸ばし」という流れで取り組むと、無理なく体の前側に残っていたコリがとれて姿勢もよくなる。確かに呼吸も楽になったような感じもするが、「体のコリ」と「呼吸」は関係があるのだろうか?
――平泉医師「縮こまっていた筋肉がほぐれて肩甲骨や肋骨の動きがよくなると、胸郭が膨らみやすくなり酸素を多く取り込めるようになります。すると、コっている筋肉や脳の代謝が良くなり血流も改善。痛み物質も洗い流されるので、筋肉の痛みが緩和されるのです。さらに、血流がよくなることで脳の働きも改善し、精神活動が活発になることも期待できます」
確かに、深く呼吸するたびに、体だけでなく心のコリもほぐれる気がする。「カメ首」の苦しみからの完全脱却に最適だ。
――平泉医師「『カメ首』を放っておくと、頭を支えている頸椎(首)の関節と筋肉が不良姿勢のまま固まってしまい、痛みが常態化してしまうケースが目立ちます。そうなると、今度は脳に行く血流が悪くなるので、仕事中の集中力が低下して、ひどい場合には精神的にうつ状態も引き起こしてしまいます。『カメ首』で顔の表情が曇っていたときと、姿勢が良くなって笑顔が戻ったときの表情をぜひ比較してみてください」
時には「生きるのもつらくなる」くらいの痛みを伴う首や肩のコリ。背中の甲羅をやわらかな羽に変える「カメ首ストレスの解消」は、顔を上げ軽やかに前進したい今の気分に合っている。
(イラスト 平井さくら)


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