人生を変えた筋トレ 自分のために努力する楽しさ実感

日々の仕事に励みながら、筋トレやエクササイズに熱中する女性たち。都内のIT企業で働く阿部未来さんもそんな一人です。産後のダイエットのために筋トレを始めましたが、やがてビキニ競技のコンテストに出場するまでにのめり込んだといいます。その理由は何だったのでしょう。 詳しく聞きました。
産後の「洋ナシ」体形にがく然
学生時代から柔道、ソフトボール、バスケットボールなどさまざまなスポーツを経験し、体を動かすことは好きだったという阿部さん。就職して社会人になってからもジムなどに通うことはありましたが、2017年に出産を経験し、自身の体形の変化にショックを受けたことが、本格的にトレーニングに打ち込むきっかけになったそうです。
「体重が増えて、腰回りもふっくらして、まるで『洋ナシ』のような形になった自分の体を目にしたのは初めてのことで、がく然としました。そこでパーソナルトレーナーの仕事をしている知人から、トレーニング内容や食事習慣についてアドバイスを受けることに。近所の24時間営業のジムと合わせて、週2~3回程度のペースで体を鍛えるようになりました」
ダイエットが目的だったところから、鍛えた体の美しさを競い合うビキニ競技の世界に足を踏み入れると決めたのは2019年のこと。担当トレーナーに「出場してみないか」と誘われたときは「迷いもあった」と振り返ります。
「IT系のベンチャー企業に勤めていて仕事は忙しいですし、育児も抱えている。そんな自分が、果たして競技という『3本目の柱』をつくっても大丈夫なんだろうか、と。でも、競技者に誘われることなんてこれからの人生、二度とないだろうとも思ったんです。『あなたならできる』と言われたことに対して、『母親だから』『忙しいから』という理由で背中を向けたら、一生後悔するような気がして。思い切ってチャレンジすることを選びました」

筋トレで得られる「最高の感覚」
もともと、自分自身で目標を定めて、それに向けて努力を積み重ねていくことが好きなストイックな性格だと自任する阿部さん。毎日、子どもと一緒に午後9時半には就寝し、起床は午前3時半。朝食や身支度を済ませ、出勤前の1時間ほどをトレーニングに費やすという暮らしぶりを聞くと圧倒されてしまいますが、大切なのは「筋トレを『好きでいること』です」と強調します。

そのためにどんなことを心掛けているのか、教えてもらいました。
(1)食事は節制し過ぎない
競技者だと聞くと、食生活も常に厳しく節制しているとイメージしがちですが、コンテスト直前の1カ月を除けば、「決まりごとはザックリしたもの」なのだそう。「炭水化物はパンや麺より脂質の低いご飯を、たんぱく質を取るときには、脂質が多い豚肉より鶏の胸肉や牛肉の赤身をチョイス。おやつを取るときは、洋菓子ではなく和菓子やフルーツに。日ごろから気を付けているのはそれくらいです。自分の体や心にウソをつくと長続きしないので、1週間に1~2回は好きなものを食べる日も設けています」
(2)「自分のために頑張っている自分」を感じ、喜ぶ
トレーニングで体を追い込んでいく際には、「今の自分の限界」の一歩先まで踏ん張ることになるので、当然つらいときもあります。でも、仕事では「会社員として」、家庭では「母親として」頑張る阿部さんにとって、「自分のためだけに努力できる時間」はかけがえのないものだと感じているそう。「一歩踏ん張った先の爽快感は、トレーニングでしか得られない最高の感覚だと思います。その喜びをしっかり感じるからこそ、努力を続けることも可能になるのではないでしょうか」

「ストイック=自己否定」ではない
(3)自分に「ダメ出し」をし過ぎない
「どうしても三日坊主になる」「パーソナルジムに投資したにもかかわらず、継続できなかった」……。そんな人に対するアドバイスとして、阿部さんは自身の経験から「できないことを自分のせいにし過ぎないで」とも語ってくれました。「例えば、パーソナルジム。続かなかったのはトレーナーとの相性が悪かった可能性も高いです。そもそもパーソナルジムは『利用者が継続できるようサポートすること』がミッション。トレーナーの知識量やメソッドは正直、多種多様なので、詳しい人から情報を得るなどして『自分に合う人を探そう』という発想で動いたほうがいいと思います」
「ストイック」というと、強い精神力で自分自身を律したり、苦しいことに耐え抜いて根性を鍛えたりするイメージを持っている人も多いかもしれません。でも、阿部さんから伝わってくるのは「前向きなワクワク感」です。
「ストイックになるって、自分を否定することではないと思うんです。ダメな自分をしっかり受け止めて、理解する。だけど、『なりたい自分』は忘れない。『できる方法はあるはずだ』と自分を信じてあげながら、目標に到達するまでやり切る具体的な方法を考え続けることが大事だと思います」
仕事と筋トレの相乗効果も
体を鍛えるようになって実感しているもう一つの効果が、「仕事のアイデアも湧きやすくなったこと」だと阿部さんは話します。
「仕事と家庭の往復が中心になると、目の前のタスクに追われがちになって『ゆっくり考えるための時間』が取りにくくなります。でも、勤め先では今、新しい製品やサービスを世に送り出す新規事業開発の仕事を担当しているので、マーケティングの『数字だけ』を見ていても足りない部分があるんです。新しいアイデアは、デスクの前でウンウンうなって考えているときより、運動中の休憩時間など、頭がクリアになっているときのほうが浮かびやすい気がする。仕事と筋トレにはそんな意外な相乗効果も生まれています」

(取材・文 加藤藍子=日経doors編集部、写真 吉澤咲子)
[日経doors 2020年4月14日付の掲載記事を基に再構成]
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