冬に気になる濃い体臭 ネバつく汗と衣類ケアで撃退
ストレス解消のルール

「ニオイの季節は夏」と思いがちだ。だが、冬に悪臭を感じると、ニオイが気にならない時期なだけに周囲へのインパクトも大きい。かくいう健康ジャーナリスト結城未来も、以前から衣服の中で蒸れたニオイがひそかに気になっていた。どうやら、寒い季節にはニオイを濃くする条件がそろっているようだ。陥りがちな寒い季節の「濃縮臭」ストレスを解消するためのルールを五味クリニック(東京・新宿区)の五味常明院長に教わった。
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きっかけは、デスクのO女史のこんな一言からだ。「オフィスで仕事をしていると、冬なのにワキが臭っているような気がしてならないんです。着こみ過ぎで汗をかいているからでしょうかね!?」
正直、ドキっとした。私は他人が驚くほどの寒がりだ。常に体を温める高機能インナーを探し回っている。最近は厚手タイプを愛用中。外ではヌクヌクの体で歩けるが、正直に言うと暖かい室内では体が蒸れて不快な時もあった。O女史の言葉で、自分も気づかぬうちに蒸れた体から汗くさいニオイを放ち、周囲に悪いイメージを持たれているのではないかと気になりだした。そういえば以前の記事「夏に強まる体の『サビ臭』 たっぷり野菜と睡眠で撃退」の取材では、「高温多湿の夏の方がニオイを感じがち」と聞いたのだが、低温乾燥の冬にもニオイは問題になるのだろうか?
――五味院長「冬は別の意味でニオイが目立つ季節です。確かに、高温多湿の夏になるとニオイ分子は水の分子と一緒になることで拡散し鼻の中に飛び込むので、ニオイを感じやすくなります。ただ、冬は『ネバつく汗』や衣服に潜む『付着臭』によって、濃い『濃縮臭』を放つ条件がそろってしまっているのです」
冬にはニオイが濃くなるとは驚きだ。「ネバつく汗」というのも気になる。
――五味院長「私が調べたところ、夏に比べて冬の汗に含まれるナトリウムは倍以上で、カリウムやイオンなどのミネラル成分も多いことが分かっています。そのため、『ネバつく汗』になりますし、微量に含まれるアンモニアの濃度も高まるため、不快なニオイになりがちです」
つまり、こういうことらしい。汗の原料は血液だ。汗腺は血管から血液をくみ取り、そこから体にとって大切なミネラルなどをろ過して血管に戻し、水分99%の「サラサラ汗」を体外へ出す。この汗自体は無臭だ。ところが、冬は汗をかきにくいので汗腺も活躍の機会が減る。使わないと汗腺のろ過機能は低下。すると、汗をかいた時にうまくろ過されずに残ったミネラル成分などが次の汗に含まれてしまうので、濃いニオイの「ネバつく汗」になるということらしい。
――五味院長「さらに、この季節には衣服を着こみますよね。ネバつく汗は衣服の下で皮脂やアカと混ざり合います。これをエサにした細菌が濃いニオイ物質を発生。重なった衣服の中にこもることで、ますますニオイ濃度が上がり、不快な『濃縮臭』になるわけです」
着こんでいる衣服の下で悪臭が育っているとは、あまり想像したくはない。でも、どうやらひそかに感じてきた「不快な蒸れ」と「ニオイ」の正体は衣服内で着々と育った「濃縮臭」らしい。
実は私、飲食店などでコートを脱ぎ着する際、コートから嫌なニオイが散らばるのを感じて慌てたことがある。
――五味院長「コートの場合は、洋服に染みつく『付着臭』ですね。夏服は洗濯する回数も多いですが、冬服は頻繁には洗わない素材が多いので、体からの汗によるニオイやタバコ・排気ガスなどの外で付着したニオイが層のように染みこんでしまいがちです」
どうやら、冬は「ネバつく汗」と「付着臭」の連携プレーで強烈な「濃縮臭」を放ってしまうようだ。これは、すぐにでも対策が必要だ。「濃縮臭ストレス」解消のための撃退ルールを教えていただこう。
冬の濃縮臭撃退ルール(1) 運動や入浴で「ネバつく汗」対策

――五味院長「寒い季節こそ、積極的に体を動かして汗をかく汗腺トレーニングをしましょう。速足で通勤するだけでも、汗を効率的にかけます。20分以上は歩きましょう。歩きながら手のひらを『グーパー』と閉じたり開いたりを繰り返せば、血行がよくなり効果もアップしますよ」
寒い日に体を丸め縮こまって歩くのではなく、「汗腺トレーニング」を意識して通勤をすれば、勢いもそのままに出社後も積極的に仕事に臨めそうだ。
――五味院長「夜はじっくりと湯船につかって入浴し、汗をかくように心がけてください」
冬の濃縮臭撃退ルール(2) 「濃縮臭」にミョウバンスプレー

――五味院長「汗のニオイが気になるなら、ミョウバンスプレーを活用してみてください。アルカリ性の汗に対して酸性のミョウバンをかけると中和するので、消臭剤になります。夏は体全体で汗をかきますが、冬は部分汗。ワキなどのこもる部分で汗をかきやすい。入浴後など気づいた時にワキだけにミョウバンスプレーをかけたり、コットンやタオルに含ませてワキを拭き上げたりするのもよいでしょうね」
ミョウバンスプレーの詳細は「毎日シャンプーNG・塩活用… 頭の臭い、これで解決」の記事も参照していただきたいが、硬水500ミリリットルにミョウバン25グラムを投入すれば簡単に作れる。
――五味院長「実は、結城さんのように保温性の高いインナーのニオイ対策に悩む人は多いんです。着る前にインナーのワキの部分にミョウバンスプレーなどの消臭剤をかけておいて、乾かしてから着れば有効な消臭対策になりますよ」
消臭剤は夏に限らず、冬にも大いに活躍するようだ。
冬の濃縮臭撃退ルール(3) 毎日の衣服ケアで「付着臭」対策
――五味院長「衣服に染みついたニオイもなんとかしましょう。ニオイ分子は水溶性なので、基本的には洗濯で落ちます。洗濯後にしっかりと乾かせば、繊維の網目に引っかかっているニオイ分子を振り落とせます」
冬物のセーターやコートなど、頻繁に洗濯ができないものは、どうすればよいだろうか?

――五味院長「アイロンのスチームや霧吹きなどを衣服に吹きかけてみてください。水溶性であるニオイ分子を水蒸気に付着させることができます。続いてドライヤーの風を衣服に当てれば、ニオイを吹き飛ばせます」
ドライヤーの風で繊維に残っているニオイを吹き飛ばすだけなら簡単なうえ、生地を傷めない。
――五味院長「衣類に消臭スプレーをかけるのも有効です。汗のニオイが気になるなら酸性のミョウバンスプレー、アカや皮脂は酸性ですので、このニオイが気になるならアルカリ性の重曹スプレーといったように、目立つニオイに応じて使い分けるとよいです」
重曹スプレーを作るなら、硬水500ミリリットルに対して重曹大さじ3杯を混ぜて作るのが目安だ。
――五味院長「夏は『体のニオイ対策』が重要ですが、冬のニオイには『衣類のニオイ対策』が肝になります。日頃のケアを忘れずにしてください」
どうやら、「寒い寒い」と言って洋服を着込み縮こまってばかりいては、あっという間に体が「濃縮臭の発生源」になってしまうようだ。ニオイは健康のバロメーターであり自分のイメージを左右するものでもあると心に留めて、しっかりとニオイ対策をしなければいけない。


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