「食べ過ぎたら運動」が鉄則 内臓脂肪落とす筋トレ

体の健康を保ち、いつまでもパワフルに働くには、正しい運動と食事、そして休息のバランスが取れた生活が必要だ。そこで、著名なフィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一さんに、遠回りしない、結果の出る健康術を紹介してもらおう。今回は、内臓脂肪を運動で落とす方法について。
多くの病気を引き起こす可能性のある内臓脂肪
最近、テレビの健康情報番組や雑誌などで、「内臓脂肪」が話題になることが増えてきた。内臓脂肪といっても、内臓に脂肪が直接付着するのではなく、胃や腸の周りにあって臓器を固定する働きをしている、ひだ状の腸間膜(ちょうかんまく)に蓄積され、これが増えるにつれて、おなかがポッコリと出てくる。
夏の暑い時期に、中国人の男性がTシャツをたくし上げて、お腹をはだけさせる「北京ビキニ」がネットなどで話題になった。そのニュースで映し出された男性のおなかこそが、内臓脂肪によって前にポッコリ突き出たものだった。もちろん、日本人の中高年の男性でも、同様にポッコリ出ている人はたくさんいる。
内臓脂肪には、食事から摂取したエネルギーが余った場合に、一時的に蓄積しておくという役割がある。だが増え過ぎると、糖尿病や脂質異常症を引き起こしたり、動脈硬化が進む恐れがある。これがメタボリックシンドローム、いわゆるメタボで、日本語では「内臓脂肪症候群」と呼ばれる。
フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんは、「内臓脂肪型の肥満になりやすいのは男性です。女性の場合は、女性ホルモンの働きで、余ったエネルギーは皮下脂肪として蓄積されることが多く、皮下脂肪型の肥満になりやすい傾向があります」と話す。
男女ともに年齢を重ねるにつれて基礎代謝が減っていく。さらには運動する機会も減り、日常生活の活動でも体を動かすことは少なくなる。つまり、消費エネルギーが少なくなるので、内臓脂肪を含めた体脂肪全体が増えていくことにつながるのだ。
「女性でも、加齢によって女性ホルモンの分泌が減ってくると、内臓脂肪がつきやすくなるので気をつけなければいけません」(中野さん)
中野さんは著書『女性が医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』で、女性が皮下脂肪を運動で減らす方法について解説している。それでは、内臓脂肪を減らすにはどうすればいいのだろうか?
第1段階は、まず食事の見直し
「実は、内臓脂肪は皮下脂肪よりも落としやすいんです。フィジカルトレーナーとしては、体を動かすことで内臓脂肪を落としてほしいのですが、そもそも内臓脂肪がつきやすいような、摂取エネルギー過多の食生活を送っていると、それでは追いつかないかもしれません。ですから、まずやっていただきたいのは、食事の見直しです」(中野さん)

食事を見直すといっても、極端に食べる量を減らしたりする必要はないという。「急にきつい食事制限を始めても、長続きしないですよね。そうではなく、普通の食事を普通にとればいいのです」(中野さん)
例えば、お茶碗1杯のご飯に、魚や肉などの主菜、それに野菜類の副菜、汁物といった、伝統的な和食などがお勧めだ。こうしたバランスの取れた食事を1日に3食とればいいというわけだ。
「ご飯をどんぶり一杯食べたり、ラーメンとチャーハンをセットにして食べたりするから問題なのです。間食も、チョコレートを1箱食べるから太るのであって、これを『3粒』などに減らせばいいと思います。お酒にしても、ワインやビールを1杯くらい飲んだところで、内臓脂肪がすぐに増えたりはしません」(中野さん)
食べ過ぎたときだけ運動をプラス
アルコールも間食も、節度を守ればOKだと思えば続けやすい。しかも、ときには羽目を外してもいいと中野さんは言う。
「ラーメンとチャーハンをセットにして食べたいときもあるでしょう。ケーキを食べたり、飲み会でお酒を多く飲みたいときもあるはずです。そんなときこそ、運動の出番なのです」(中野さん)
中野さんによると、食べ過ぎたり、飲み過ぎたりしたら、翌日にでも運動することで、消費エネルギーを稼ぐことが大切だという。また、食事後、30分から1時間以内に、以前の記事でも紹介した「血糖値を下げるエクササイズ」を行えば、余った糖分を運動で使うことができるので、結果として脂肪がたまるのを防ぐことができる。
「食事を見直し、食べ過ぎたときなどに運動する、というのが内臓脂肪を落とすための第1ステップです。このステップで『お腹が凹んできたな』と実感できるようになると、やる気が出てくると思います。そうしたら、次の第2ステップで、本格的に運動を取り入れましょう」(中野さん)
10~15分の筋トレを毎日行う
脂肪を落とすための運動というと、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動を思い浮かべる人も多いだろう。だが中野さんが、この第2ステップでお勧めするのは、10~15分の筋トレを毎日行うこと、だと言う。
有酸素運動で脂肪燃焼を狙うなら、30分~1時間などの時間が必要になる。一方、筋トレなら、10~15分でも十分にエネルギーが消費でき、また筋肉量を増やす効果も期待できる。
「運動に慣れておらず、筋肉量が少ない人ほど、筋トレをしてほしいですね。筋肉量が増えれば、それだけ基礎代謝も上がり、普段からエネルギーを消費しやすい体質になります。特に大きな筋肉が集中する、下半身の筋トレを行うと効率がいいでしょう」(中野さん)
【下半身筋トレの例:フロントランジ】

筋肉量を増やすためには、週に2、3回、筋トレを行うといい、とも言われている。だが中野さんは、内臓脂肪を落とすためには、毎日10~15分の筋トレを習慣化することのほうがいいと主張する。
「筋トレの間隔を72時間は空けなければならないという考え方もありますが、それは高い負荷で限界まで追い込むトレーニングをしている場合です。内臓脂肪を減らすという目的であれば、運動に慣れてない人ほど、短時間の筋トレを毎日行う習慣を身につけることのメリットが大きいでしょう」(中野さん)
さらに、短時間の筋トレを毎日行うことで、膝などの関節の病気を予防する効果も期待できるという。
「筋トレで膝などの関節を曲げ伸ばしする運動を日常的に行うことで、変形性関節症の予防になることがわかっています。関節が痛むようになると、体を動かすのがおっくうになり、さらに内臓脂肪がたまってしまうので、短時間の筋トレを習慣的に行ってそれを防ぐことは大きな意義があります」(中野さん)
日本人は、先進国の中でも、1日のうち座っている時間が長いというデータもある。座りすぎは、内臓脂肪型の肥満や、変形性膝関節症などにつながる恐れがある。短時間の筋トレを毎日行うことで、内臓脂肪を減らすとともに、関節の病気を予防して将来のロコモティブシンドローム(運動器症候群)のリスクも減らしていこう。
(ライター 松尾直俊、イラスト 内山弘隆)

[日経Gooday2019年10月16日付記事を再構成]
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