消える「お守りホルモン」 閉経後、元気に過ごすには

カラダが大きく変化して次のステージが始まる更年期。閉経するとエストロゲンという「お守りホルモン」がなくなり、病気のリスクも高まり、「日ごろの生活習慣の積み重ねで大きな差が生まれる」といいます。「イーク表参道」副院長で産婦人科医の高尾美穂さんに聞きました。元気に動ける70代を迎えるために今できることは?
閉経後は病気のリスクが増える
―― 閉経を迎えれば毎月の煩わしい生理もなくなるわけですよね。更年期のホルモン変動さえ乗り切れば、その後はむしろ過ごしやすくなるのではないでしょうか?
高尾美穂さん(以下、敬称略) 確かに生理はなくなる分、ラクかもしれませんが、閉経後はさまざまな病気のリスクが増えるんです。卵巣から分泌されるエストロゲンは妊娠や出産に関わるだけでなく、女性のカラダを守る「お守り」のような存在。閉経後の女性は、骨や血管の病気のリスクが高まります。

よく知られるのが骨粗しょう症です。肌と同じように骨も新陳代謝で生まれ変わりますが、エストロゲンは骨吸収(古くなった骨を壊す働き)を緩やかにして骨からカルシウムが溶け出すのを抑制しています。だから、骨吸収と骨形成(新しい骨をつくる働き)のバランスが取れて丈夫な骨でいられるんですね。しかし、エストロゲンが分泌されなくなると、骨吸収の働きのほうが盛んになり骨密度が低下。ちょっとした転倒が骨折につながりやすくなります。
エストロゲンには血管のしなやかさを保つ働きもあります。男性は高脂血症・動脈硬化・高血圧といった心血管系疾患が年齢とともに増加しますが、女性はエストロゲンが分泌されている間はこれらの病気のリスクがかなり低く抑えられています。しかし、閉経後には男性並みに病気のリスクが高まるんです。
病気のリスクを下げるためにできること
―― こうした病気になるかならないかの分かれ目とは?
高尾 もともとの骨量や食生活によっても骨の状態は個人差が出ます。また、成長期に無理なダイエットをしていた人は若くても骨粗しょう症のリスクは高い。心血管疾患なら食生活や運動習慣も関わります。これまで多少無理をして働いてきたキャリア女性は、エストロゲンが分泌されているうちは何事もなく過ごせたはず。閉経後こそ生活習慣の積み重ねが心身に直結してきます。
閉経前の人なら、エストロゲンが正常に分泌されている状態をきちんと保つことが大切です。生理が不順になったり止まったりした状態をそのままにすれば、それは骨や血管に影響を及ぼすということ。既に閉経した人は「カラダを守ってくれていたバリアが弱まっている」という意識を持つことで、健康的な習慣を一つでも始めることができるのではないでしょうか。
仕事の効率を高めるためには?
―― 人生100年時代といわれるようになり、閉経はちょうど人生の折り返し時期。人生の後半戦を元気に過ごしていくために、何をしたらいいでしょうか。
高尾 オススメは、自律神経と上手に付き合う術を身に付けること。自律神経には交感神経と副交感神経の二つがあり、活動時には交感神経が、休息時には副交感神経が優位になります。それを上手に切り替えられるのが理想ですが、ストレスが多いと交感神経の働きが常に優位になるため、カラダの血管が収縮して血流量が減り、内臓の機能低下や冷えにつながりやすくなります。
実は、交感神経も副交感神経も高い状態にできるんですよ。「集中状態にあるけれど、ある程度リラックスしている」状態が最もパフォーマンスを発揮しやすい。
コントロールするのは簡単です。ぎゅっと握りしめている手に気付いたらほどいてみる、それだけ。立っている状態から力を抜いて座るだけでも副交感神経の働きが高まります。
会社でもできる、手軽な「呼吸法」
手軽なのが呼吸です。緊張やストレスを感じたら、大きく息を吐いて。「ため息をつくと幸せが逃げる」なんて言いますが、むしろ副交感神経優位な状態をつくれて健康にいい(笑)。心拍数を測定できるアプリを利用すると、呼吸によって心拍数が変化するのが分かりますよ。意識的に体にギュッと力を入れた後、すっと力を抜くのもおすすめです。
アロマ、音楽、犬や猫に癒やされることもいいですね。常に緊張を強いられる管理職の女性は、副交感神経を高める自分なりの方法を見つけてみてください。
肩書にとらわれない「サードプレイス」を持つ
高尾 職場でも家でもない「第三の場所」を持つことも大切です。私の場合は週に4日通うジムが自分のサードプレイス。医師としての自分ではない、フラットな付き合いができる仲間がいる場所を持つことで、日々の元気や刺激をもらえています。

管理職としての自分、妻としての自分、あるいは母としての自分……。そうした肩書にとらわれない、一人の人間同士の付き合いができる仲間や居場所を、忙しいキャリア女性にこそ持ってほしいですね。さらに、その場所で運動習慣が身に付けば、一石二鳥。
いい生活習慣を積み重ねていった先の70歳と、行き当たりばったりに生きていった70歳では、体の内側も外見にも大きな差が生まれます。今こそ、セカンドステージを健やかに美しく生きるための習慣を見直してみませんか。
(取材・文 中島夕子)
[日経ARIA 2019年5月13日付の掲載記事を基に再構成]
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