脱水しやすい子供の熱中症予防 運動15分ごとに水分

気温が上がってきたこの時期、体がまだ暑さに慣れていないこともあり、熱中症のリスクが高まる。熱中症といえば高齢者は要注意といわれるが、実は子供もリスクが高く、その背景には子供特有の理由がある。済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科副部長の十河(そごう)剛さんに、子供の熱中症予防と水分補給のポイントについて聞いた。
子供は大人より脱水症のリスクが高い
熱中症とは熱によって生じるさまざまな体の不調の総称だが、その始まりは脱水症だ。高温の環境下で体温が上がり、その体温を下げるために汗をかくが、汗と一緒にナトリウムやカリウムなどの電解質も失われ、脱水症になる。さらに体液が失われ続けると、体は発汗にもストップをかける。すると体内の熱によって臓器にダメージが及び、めまいや頭痛、ひどくなると意識障害などが起こる。従って、熱中症予防の基本は、十分な水分と電解質をこまめに補給して脱水症を防ぐことだ。
子供の肌はみずみずしいことからも分かるように、子供は体重に占める水分の割合が高い。大人が約60%なのに対して、生まれたばかりの赤ちゃんは80~90%、年齢を重ねるごとに減ってくるが乳幼児は70~80%あるといわれる。一方で、子供は失われる水分も多く、入れ替わりのスピードが速いため、適切に水分を補わないと脱水症になりやすいという。
「通常、大人は汗などで体の外に出ていく水分量が多くなると、その分、尿量を減らして体内の体液の濃度を整えようとします。しかし、特に小さい子供はその機能が未熟なので、水分の摂取量が少ないと、出ていく量のほうが多くなって脱水に陥りやすいのです」(十河さん)
子供は熱による影響も受けやすい
また、子供は大人より身長が低く、地面からの照り返しによる熱も受けやすい上、体重に対する体表面積(皮膚の全表面積)も大きいため、体重に比べて熱を受ける部分が広いという特徴がある。子供の体はすぐに熱くなりやすいのだ。その上、熱を外に逃がす体の調節機能も未熟だという。
「子供は汗っかきというイメージがあるかもしれませんが、実際は逆です。汗をかいて気化熱で体内の熱を発散するという体温調節機能が未発達のため、うまく汗をかけず、体内に熱をためやすいのです」(十河さん)
子供と成人の体温調節機能を比較したある研究によると、
「子供は暑さに慣れるまでに大人よりも時間がかかる」
「発汗が始まる温度が大人に比べて高い」
「発汗速度が遅い」
「脱水によって体温調節機能が障害を受けやすい」
と報告されている[注1]。大人なら汗をかく温度になっても子供はうまく汗がかけず、熱による影響も受けやすいということになる。
[注1]Squire DL.Pediatr Clin North Am. 1990;37:1085-1109.
「熱中症かも?」と思ったときは
尿量の調節や発汗などの体の機能は、子供の年齢によっても違ってくるが、少なくとも年齢にかかわらず「子供の体は大人の小型版ではなく、機能は成人ほど発達していない」ということは肝に銘じておくほうがよさそうだ。さらに、子供は自分で異常を気づきにくく、なかなか訴えにくいという点にも注意が必要だ。
「遊びや運動に夢中になると、自分から水分をとるという行動も取れません。周囲の大人が配慮して、こまめに休憩や水分補給を促すことが大切です」(十河さん)
脱水状態を見極めるには、以下のようなサインに気をつけよう。
●尿量が減って、尿の色が濃くなる
●大量に汗をかく
●顔色が悪い
●何となく元気がない
●体が熱い
「熱中症かも?」と思ったときは、速やかに以下のような対応が求められる。
(1)涼しく風通しのよい環境へ避難する
(2)安静にして体を冷やす
(衣服を緩め、冷たいタオルやペットボトルなどを首やそけい部(足の付け根)に当てる。また、体全体に霧吹きをしてからあおぐと気化熱で早く冷やすことができる)
(3)水分・塩分・糖分を補給する
(熱中症になってしまったら経口補水液がベスト)
熱中症は重症度によってI~III度に分類される(表)。II度以上になると症状が重篤になるため、できるだけI度の段階で気づき、対処したい。

日本救急医学会のデータ[注2]によると、重症度IIIの熱中症で救急医療機関に搬送されるのは60歳以上が半数以上を占めるが、I度での搬送例は10~19歳が圧倒的に多く、その大半はスポーツをしているときだ。実際には、搬送まで至らずに済んでいる軽症例も多くあると考えられる。軽度の熱中症であっても、少し休んで体調が回復したからといって、その日のうちに運動に復帰するとあとで重症化する危険性もあるため、「重症度にかかわらず、熱中症にかかったら運動は中止すべき」と覚えておきたい。
「この年代はクラブ活動などの運動中に救急搬送されるケースが多いようです。いまだにスポーツドリンクを持ってきてはいけないと指導している学校もあるようですし、周囲との関係や規則を優先しなければならないこともあって、なかなか自分から運動中に自分で休憩を取りづらく、無理をしてしまうこともあります。いつでも適切な水分・電解質補給ができ、熱中症を防げる環境を大人が整えてあげてほしいと思います」(十河さん)
激しい運動時は15分おきに水分補給を
では、具体的にどのような水分・電解質をどのくらい、補給すればよいのだろうか。
[注2]Heatstroke STUDY2012最終報告
1日に必要な水分量は、体重1kg当たりで考えると、おおよそ新生児で100mL、学童で60~80mLと、成人の30~40mLよりも多い。 ただし、「夏場に運動していると、スポーツドリンクを2L飲んでも、熱中症になってしまうこともあります」と十河さんが言うように、必要な水分量は体重やその日の体調、季節などによっても変化するため、一概に何mLと決めず、状況に応じて判断する方がよいそうだ。
暑さに慣れていない時期、激しい運動をするとき、炎天下で活動するときなどは、15分おきを目安に、飲みたい量を飲むのが基本。真水ではなく、ナトリウムやカリウムなどの電解質を含んだ水分を飲むことも大切だ。
「汗には塩分が含まれていますから、発汗で失われた塩分を補わなければ、体液の塩分濃度が薄まってしまいます。その上で真水を飲むとさらに体液を薄めることになりますから、本能的に真水は飲みたくなくなるようです。特に、真夏の運動時など脱水のリスクが高いときは、スポーツドリンクでも明らかに塩分が足りません。できれば経口補水液か、スポーツドリンクの中に塩化ナトリウム(塩)のタブレットか塩を溶かしたものを飲むことをお勧めします」(十河さん)
500mLのスポーツドリンクの場合、目安として0.5~1gの塩を加えると、経口補水液の塩分濃度に近づけられるという。塩化ナトリウムのタブレットに置き換えると、製品にもよるが、1錠当たり0.45gの食塩を含有するものなら1~2錠溶かせばよい。ただし、「塩分チャージ用」をうたうサプリメント・食品の中には塩分含有量が少なく糖分が多いものもあり、そうしたものは激しい運動時の塩分補給としてはあまり意味がないという。
運動する前にある程度水分・塩分を確保しておき、運動中もこまめに補給する。そして、運動後にも失われたナトリウムなどの電解質を含めてしっかり補給して元の状態に戻すことが大切だ。
水分補給は食事を含めてバランスよく
日常生活でも、汗を多くかくようなときはスポーツドリンクや経口補水液を選ぼう。また、麦茶にはカリウムやリン、マンガンが含まれるがナトリウムは入っていないので、梅干しなどを追加して塩分を補給するのもよい。
「夏場、スイカに塩をかけて食べる習慣は、スイカの水分・カリウムとともにナトリウムもとれるので、理にかなっていると思います。塩分を含む味噌汁や冷や麦、野菜や果物からも電解質がとれますから、食生活全体からきちんと必要なものを補給する工夫も大事です」(十河さん)
運動もせず、それほど発汗が多くないのにスポーツドリンクなどのイオン飲料を日常的に飲み過ぎると、糖分のとり過ぎで血糖値が上がり、利尿作用で尿が増えたり、肥満などのリスクにもつながったりするため注意したい。イオン飲料はあくまでも運動時の発汗などで失われた水分・電解質を補うものと考えよう。ジュースも同様に糖分の過剰摂取に要注意だ。
十河さんいわく、「熱中症対策は先手必勝」。暑い環境にいて水分を失った後に何らかの症状が起こった場合は、熱中症を疑う。自分で判断するのが難しい場合は「こども医療でんわ相談」(♯8000)などに相談するといい。
「子供の熱中症を防ぐには大人の配慮が不可欠です。せめて重症に至る前のI度の段階で気づいて対処したいものです」(十河さん)
もちろん、その前に脱水症に陥らないよう、日ごろの水分・電解質補給を徹底することが第一であることは言うまでもない。
(ライター 塚越小枝子)

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