ピロリ菌に感染、治療は飲み薬1週間 9割以上が除菌
しっかり対策ピロリ菌(下)

胃がんの原因とされるヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)に感染しても、多くは無症状のままだ。前回「子や孫の胃がんリスクを下げる 夫婦でピロリ菌検査」に引き続き、今回は感染していた場合の除菌療法について説明する。保険適用されており、3種類の飲み薬を1週間服用すればよい。
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ピロリ菌を除菌すれば胃がん発症リスクを大きく下げることができる。かつてピロリ菌除菌の保険適用は、症状が進んだ胃潰瘍や十二指腸潰瘍などにしか認められていなかった。しかし、2013年に「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」が新たに適用となり、ピロリ菌への感染が確認されれば胃潰瘍といった疾患にかかっていなくても、健康保険で除菌治療が受けられるようになった。胃内視鏡検査で胃の状態をチェックし、胃がんがないことを確認したうえで治療を開始する。

除菌は飲み薬で行う。胃酸の分泌を抑える薬剤と2種類の抗生物質を1日2回、1週間飲み続ける。もし、除菌が失敗しても最大2回まで健康保険の中で行うことが可能だ。2015年以降、ボノプラザン(商品名タケキャブ)という胃酸を強力に抑える薬が選択肢に加わった。それまで用いられてきた胃酸分泌抑制薬より効果が強いため、除菌効果が高いと考えられている。1回目の除菌での成功率が上がり「90%以上の人は一次除菌のみで治療が終了する」(東海大学医学部の鈴木秀和教授)。
ただし、除菌治療を行うことで胃がんをはじめ種々の胃疾患のリスクは減ることが証明されているものの、ゼロにはならない。特に高齢者など、ピロリ菌に感染してから長期間経過している場合は、除菌に成功してもすでに胃粘膜の萎縮が進んでおり、そこから将来的に、がんが発生する恐れがある。
そのため除菌後も定期的に胃内視鏡などの画像検査でチェックすることが、胃がん予防・早期発見には重要だ。現在、日本ヘリコバクター学会が除菌後の胃がん発症について長期的な調査を手がけている。

なお、「妊娠中の除菌は、薬の安全性が完全には保証できないため避けるべき。子どものためにも、妊娠前に検査と除菌を済ませておくのが望ましいのでは」(鈴木教授)。感染者を早期に拾い上げる目的で、中学生に検査を行う自治体もある。
特に高齢者に多く見られる、慢性の痛みに鎮痛薬を常用しているケースも「そうした薬を飲み続けながら除菌治療も行うと、胃粘膜の状態が急変し出血しやすくなる場合がある。一度休薬して行うなど、除菌のタイミングは医師と相談してほしい」と鈴木教授はアドバイスする。
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ピロリ菌検査、中学生を対象に行う自治体が増加

ピロリ菌に感染していたら、早期に除菌するほど胃がんの予防効果が高い。さらに、義務教育中は検査を一律でしやすいため、中学生を対象にピロリ菌の検査を実施する自治体が増えている。2016年度には佐賀県が、県内の中学校に通う中学3年生全員を対象に検査を導入した。
検出方法は成人と異なり、苦痛を伴わない尿検査で行うところがほとんど。陽性の場合は呼気検査を行い感染が確定すれば除菌治療を薦める。15歳未満では胃がんを発症するリスクは少ないため、一般的に内視鏡検査はせず除菌治療が受けられる。

(ライター:渡邉真由美、構成:デジタル編集部 中西奈美)
[日経ヘルス2019年6月号の記事を再構成]
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