インフル、検査陰性でも油断禁物 症状あればマスクを
Dr.今村の「感染症ココがポイント!」

気になる感染症について、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんに聞く本連載。今回は流行期を迎えている「インフルエンザ」を取り上げる。インフルエンザは例年、1月末から2月上旬に流行のピークがあり、年末年始の休み明けごろから感染者が急増していく。すでに感染したという人でも、再び感染するリスクはある。流行最盛期に備えて、今あらためて知っておきたいことを伺った。実は検査で陰性であっても感染している場合があるという。
●インフルエンザは推計で年間1000万人が発症、1万人が亡くなっている
●高齢者や子どもは重症化しやすいので、特に予防が重要
●インフルエンザワクチンは重症化を防ぐもの。接種しても感染しないわけではない
●予防にはワクチンのほか、手洗い、マスクの着用が有効。特にマスクは、感染者や感染が疑われる人がつけると感染拡大の防止に効果的
●検査で「陰性」でも感染している場合もあるので、症状から強くインフルエンザを疑うときはマスクや手洗いで感染を広めない対策を
●治癒証明や陰性証明は望ましくない。インフルエンザと診断されたり、その疑いがあったりするときは、しっかり休める環境づくりが必要
年間1000万人が発症、関連死亡者は1万人
――インフルエンザが流行期を迎えています。
そうですね。東京都の第52週(2018年12月24日~30日)のインフルエンザ患者報告数も「流行注意報基準」[注1]を超えるなど、流行が広がりつつあります。地域にもよりますが、全国的に流行がピークを迎えるのは例年これからです。年末年始休暇で人の移動があったあとの今ごろは感染者が急増してくる時期なので、一人ひとりが感染しない、感染を広げないための対策を行うことが大切です。
――インフルエンザに感染する人は、毎年どのくらいいるのでしょう。また、インフルエンザが重症化するなどして死に至るケースはどの程度ありますか。
インフルエンザの感染者数はその年によっても違ってきますが、推計で1000万人程度とされています。インフルエンザに関連する年間の死亡者数は、やはり推計で1万人程度です。多くの人は自然に治りますが、決して侮ってはいけない病気です。
代表的な死亡原因は、インフルエンザによる肺炎と二次的に起こる細菌性の肺炎、インフルエンザ脳症など。肺炎は高齢者に、脳症は小さな子どもに多く見られます。ですから、重症化しやすい高齢者や子どもは特に、感染しないための予防策が重要になります。
ワクチンを接種しても感染することはある
――インフルエンザの予防にはどのような対策が有効ですか。
まずは、インフルエンザワクチンの接種ですね。季節性のインフルエンザには「A型」と「B型」があり、インフルエンザワクチンには1本にA型2種類とB型2種類の計4種類が入っています。ただ、インフルエンザワクチンを接種すれば、インフルエンザにかからないというわけではありません。ワクチンを接種していても、感染することはあります。
それは、インフルエンザワクチンは「かからないためのワクチンではなく、重症化を防ぐことが目的のワクチン」だからです。そのため、ワクチンを接種していても安心せずに、日常的な予防を心がけることが大切です。
――日常的な予防というと、手洗いやマスクということでしょうか。
そうです。インフルエンザの主な感染経路はくしゃみや咳(せき)による飛沫感染ですが、ウイルスが付着した物や環境を手や指で触れ、その手指で鼻や口、目を触ることでも感染します。ですので、こまめに手を洗うことが大切です。特に、顔に触れやすい指先をよく洗ってください。
インフルエンザをはじめ、多くの感染症(ノロウイルスなどを除く)にはアルコール性手指衛生剤も有効です。携帯サイズのものもあるので、そうしたものを外出時に持ち歩くのもいいですね。
インフルエンザにかかってしまったときや、感染を疑うときには、マスクをつけるようにしてください。感染した本人やリスクのある人がマスクをつけると、感染を広めるのを防げます。また、ウイルスが付着した物に触れた手で鼻や口を直接触ると感染するという話をしましたが、その意味で感染予防のためのマスク着用も一定の効果はあります。ただいずれにしても、マスクを外したあとは、手を洗う習慣をつけましょう。ウイルスが付いたままの手で鼻や口に触れてしまうと、感染するリスクがあります。
検査で「陰性」でも感染の可能性はゼロではない
――今の時期は風邪にかかることもあります。どのような症状があると、風邪ではなく、インフルエンザを疑いますか。
[注1]流行注意報基準:感染症発生動向調査による定点報告において、10人/定点(週)を超えた保健所の管内人口の合計が、東京都の人口全体の30%を超えた場合とされている。
インフルエンザの典型的な症状は次の4つです。4つの症状が全て見られるときには、インフルエンザに感染している可能性が高くなります。
1)突然の発症
2)38℃以上の発熱
3)のどの痛みや咳(せき)、鼻水など上気道の炎症による症状
4)筋肉痛や関節痛、倦怠感などの全身症状
感染からこれらの症状が表れるまでには、1~3日の潜伏期間があります。ですから、インフルエンザを発症した人と接触したことが分かったときには、数日間は症状に注意が必要です。

また、症状が表れたばかりのときは、検査を受けても正しい診断結果が出ないことが多いので、12時間以上経過してから受診するようにするといいでしょう。
ウイルスが最も検出されやすいのは、発症後2~3日目とされています。ただし、その時期でも正しい診断率は高くても9割程度で、感染していても「陰性」の結果が出ることがあります。つまり、陰性と診断されても、症状から強く感染が疑われるときは、インフルエンザと考えて、マスクの着用や手洗いをするようにしてください。
――インフルエンザと診断されたときは、どのような治療が必要ですか。
インフルエンザは軽症なら、解熱剤などの対症療法でも自然治癒することが多いので、必ずしも抗インフルエンザ薬での治療が必要なわけではありません。
抗インフルエンザ薬での治療は、発症から48時間以内の開始が推奨されています。現在、一般的に使われているのは、以下の5つの薬剤です。いずれの抗インフルエンザ薬も、症状を軽くして発熱の期間を短くしたり、重症化するのを防いだりする目的で投与されます。即座に効果が表れるわけではないので、すぐに熱が下がらないこともあります。

「治癒証明書」は本来は不要
――通勤や通学など外出はどのくらいの期間、控えた方がいいでしょうか。
大人の場合は特に決まった基準はありませんが、子どもの場合は「学校保健安全法」で出席停止期間が定められています。それによれば、発症したあと5日を経過し、かつ、解熱後2日(保育所は解熱後3日)を経過するまでとされています。大人の場合も、これに準じて考えるケースが多いようです。
インフルエンザを疑うときや、インフルエンザと診断されたときは、外出を控えてゆっくり休むことが大切です。それが、本人の回復にも、周囲に感染を拡大しないためにも重要となります。
学校や職場によっては、医療機関で「治癒証明書」や「陰性証明書」の発行が求められることがあるようですが、医療機関で治癒や陰性の確認をするために検査をすることはなく、あくまでも熱がいつ下がったのかなどを、本人を信頼して聞くだけです。つまり、発症や解熱の時期を医療機関で証明することは一般的に難しいうえ、そういった証明書の発行は、医療従事者の業務の負担増や、体調が悪い中わざわざ病院に出向かねばならない患者本人の負担にもなります。厚生労働省も、医療機関に季節性インフルエンザの治癒証明書の発行を求めることは望ましくないとの見解を示しています。
治癒証明書の発行を求めるよりも、感染症にかかったときやその疑いがあるときには休みやすい環境を整備しておくことを重視してほしいと思います。
――最後に、1月中旬のこれからでもインフルエンザワクチンの接種は有効ですか?
インフルエンザワクチンは、接種してから効果が表れるまでに、2週間程度かかります。その期間を鑑みて、検討するといいでしょう。インフルエンザの流行ピークを越えても、通常は春先まで流行は続きます。従って、重症化しやすい高齢者や乳幼児、基礎疾患のある人、周囲に重症化しやすい人がいる人などは、これからでも接種しておくことが勧められます。
(ライター 田村知子)

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