危険なダイエットの末路 20代女性に広がる栄養失調

飽食の日本で、20代女性の5人に1人が栄養失調――?! 耳を疑うかもしれないが、これは特別な人のことではなく、普通に日本で仕事をして暮らしている若い女性の話だ。先進国の中で痩せた女性の割合が最も高いのが日本。肥満は健康にとってよくないことは知られているが、実は、痩せ過ぎも大きな害をもたらす。栄養不足は女性自身の美容を損ない、健康を害するだけでなく、いつか子どもを産みたいと思っている女性にとっては、その子の将来にも大きな影響が及ぶことが分かってきた。
先進国の中で、日本は若い女性の栄養状態が最悪
世界中のおいしい食べ物が集まっていて、いつでも買える。社会的には食べられる食品を捨てる「フードロス」が問題となっている日本――。そんな飽食の日本で、静かに広がっているのが20代、30代女性の栄養失調だ。
若い女性の摂取カロリーはなんと、食べるものが不十分だった終戦直後よりひどい水準なのだ。昭和25年(1950年)の日本人の全国平均は2098kcal/日(以下同)。それに対し、平成29年(2017年)の20代女性のエネルギー摂取量は1694kcal、30代も1685kcalで、平成27年(2015年)日本人の食事摂取基準による推定摂取エネルギー必要量の1950~2000kcal(身体活動レベルが普通の20~40代)に対して、平均300kacl/日ほど不足している。
実際、日本は世界的に見ても痩せ過ぎ女性の比率が高く、先進国の中で最も痩せが多い国となっている(グラフ1)。

痩せているかどうかは、体重(kg)を身長(m)で2回割った体格指数、BMIで算出する。一般にBMI18.5未満が「痩せ」。グラフ1のように、BMIが18.5未満の全女性の割合は、米国、カナダ、北欧諸国、ヨーロッパ諸国が5%以下であるのに対し、日本は10%近い数字になっている(2016年)。20代に限ればその数字はもっと上がり、20.7%。30代でも16.8%(平成28年国民・健康栄養調査)が「痩せ」に属する。
20代女性の体形は、戦後から90年ごろまでは身長が大きく伸びたが、体重の増加量は身長ほどではないため、結果として平均のBMIは終戦後の1950年の22よりも下がって20.9となっている(グラフ2)。

栄養不足は「なんとなく不調」美容トラブルの原因
こう聞くと、気になるのが自分のBMIだろう。あなたは自分の数値を知っているだろうか。まずは計算をしてみよう。
もし、あなたの身長が160cm(1.6m)で体重が45kgなら、体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)は45÷1.6÷1.6=17.57となり、BMIは17.57。この場合、BMI 18.5を下回っているから、「痩せ」となる。
体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)= BMI______
BMI 18.5未満:痩せ過ぎ。もう少し栄養とカロリーを摂取しよう
BMI 18.5以上~25未満:普通体形
BMI 25以上:肥満。摂取カロリーを減らし、運動などで消費エネルギーを増やそう
20年前に実施した平成20年(1998年)の国民・健康栄養調査で既に、20代の女性は細身の体形(平均BMI 20.7)にもかかわらず、「今より4.4kg痩せた体形が理想」だと答えている。この傾向は現在も変わっていない。痩せる必要がないのに痩せようとしている人や、本当は太ったほうがいいのに、食事制限をするなどして痩せる努力をしている人が多いかうかがえる。
では、BMI 18.5未満のような痩せ過ぎた体は、健康にどのような影響があるのだろう? 実は痩せ過ぎは「不調だらけ」な体調をもたらし、見た目に関してもトラブルの多い状態をつくり出す。
食べる量を必要以上に減らすと、体温は低めになり、疲れやすくなって、活力が落ちる、集中力が低下するなどの症状が起きることなどは、女性の痩せと代謝について考察した論文でも紹介されている(※1)。食べている量自体が少ないので、栄養が不足し、「筋肉や血液、髪や肌をなどの細胞をつくる材料も足りず、組織を円滑に回すための栄養源も不足する。その結果、髪やツメはもろく、ぼろぼろになり、艶もなく、肌色も悪く、カサカサと荒れたり、吹き出物が出やすくなってしまう」と話すのは、医療ガバナンス研究所研究員で内科医でもある山本佳奈医師。体重が減り過ぎると、月経が不順になったり、止まったりしてしまうことは、多くの研究結果が明らかにしている。
あなたも、無理にダイエットをしたときに、月経が不順になったり、体調が崩れたり、冷え性になったり、肌が荒れてしまった経験はないだろうか。これらの「なんとなく不調」は、栄養不足も原因の一つであることを知っていてほしい。
※1:肥満研究、24,11-15,2018
痩せようとして食事制限などをすることには、もう一つの問題がある。隠れ肥満だ。見た目はスリムなのに、筋肉に比べて体脂肪ばかりが増えてしまっている隠れ肥満が、痩せている女性の間に増えていることが、東京・丸の内の働く女性の健康調査を実施した「まるのうち保健室」の報告書(※2)でも指摘されている。
隠れ肥満は、カロリー制限をすることで筋肉が落ちたところに、ダイエットのリバウンドで食べてしまったものが脂肪となって蓄積してしまった状態。隠れ肥満の女性は、筋肉が落ちてしまった高齢者のような体の状態なので、若いのに既に筋肉スカスカの「寝たきり予備軍」状態になってしまっている可能性もあるのだ。
※2:2016年度 まるのうち保健室報告書 働き女子白書(三菱地所・ラブテリ)
若いのに筋肉スカスカ、生まれてくる赤ちゃんにも影響
痩せ過ぎによる栄養不足は、あなた自身の見た目や健康を損なう大きな要因というだけでは済まないことがわかってきている。

妊娠した女性が栄養不足の状態だと、出生体重が2500g未満の低出生体重児になりやすくなる。そして低出生体重児は、2型糖尿病になるリスクが正常体重の子どもに比べて高くなるなど(※3)、生活習慣病をはじめとした病気のリスクが高まることが分かってきているのだ。
栄養不足と赤ちゃんの健康については、別の回で解説するが、まずは「いつか赤ちゃんを産みたい」と思っている人は、日ごろから栄養不足にならないように意識して食べるものを選んでほしい。
では、妊娠したい人が目指したいBMIはどのくらいなのだろう。
「米国の看護師を対象に行われた大規模な調査の結果、妊娠しやすいBMIは20~24ということが分かった。米国より痩せている人が多い日本人の場合、まずはBMI 20~22を目安と考えるといいのではないか」と低出生体重児の問題を考える日本DoHaD学会の代表幹事、福岡秀興氏(産婦人科医)はアドバイスする。
痩せたいと思って食事制限をしている人で、近いうちに妊娠をしたいと考えている人は、未来のあなたの赤ちゃんのために、今よりもう少しだけふっくらしてみることを考えてみてほしい。
※3:BMJ 2015; 351 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.h3672(Published 21 July 2015)
(文 黒住紗織=日経BP総研メディカルヘルスラボ、ヘルシー・マザリング・プロジェクト)
[nikkei WOMAN Online 2018年10月1日付記事を再構成]
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