ブルーライトの目への影響 結局のところどうなのか?

スマートフォン(スマホ)が広く普及し、事務作業にはパソコンが欠かせなくなった現代。朝起きてから眠るまでに、あなたはどのくらいの時間、液晶画面を見ていますか。画面から発せられるブルーライトを気にしたことがあるでしょうか。
ブルーライトとは、380~495nm(ナノメートル[1ナノメートルは10億分の1メートル])程度の波長域の可視光線のことで、人間の目で見ることのできる光の中で最も波長が短く、紫から青色に見えます(波長が400nmより短くなると紫外線と呼ばれます)。太陽光にも豊富に含まれており、体内時計をセットする、気分を高揚させる、注意力を高める、といった利益をもたらしています。
一方でブルーライトは、LEDを使ったパソコンやスマホ、タブレットなどのディスプレイからも発せられており、昼夜を問わずこれを長時間浴びる生活が一般化しています。ブルーライトは、目に入るとほとんどが角膜や水晶体を通り抜け、網膜に達することが知られており、網膜への影響を心配する声もあがっていますが、ブルーライトが人間の目に特定の病気を引き起こすことを示した研究は、これまでのところありません。
米国では、2018年7月5日にScientific Reports誌に報告された論文[注1]をきっかけとして、ブルーライトによる失明の危険性に対する不安が高まっていました。これに対し米国眼科学会(AAO)は2018年8月、「スマホからのブルーライトは失明を引き起こさない」と題するメッセージを公開しました[注2]。
この一連の経緯を少し詳しく見てみましょう。
実験は基礎研究で人間の目への影響は不明
Scientific Reports誌に掲載された論文の概略は以下の通りです。
この論文の著者らは、網膜に存在し、光を受け取る分子である「レチナール」に注目しました。レチナールはビタミンA活性を持つ物質で、光刺激の受容に必須です。まず、培養しているがん細胞の培養液にレチナールを加えてブルーライトを照射する実験を行いました。すると細胞膜が変形し、酸化による損傷が起きて、細胞死が起こりました。培養液にレチナールを加えなければ、また、ブルーライト以外の波長の光を照射しても、そうした変化は生じませんでした。また、強力な抗酸化作用を持つ天然のビタミンE(αトコフェロール)を培養液に加えると、レチナールとブルーライトによる有害な作用は抑制されました。
これらの結果から著者らは、網膜に存在するレチナールがブルーライトを受けると、光感受性の細胞に細胞死を生じさせる可能性があると考えました。もしそうであれば、光感受性細胞は再生しないため、ブルーライトの害は蓄積されていくことになります。αトコフェロールは、年齢が若いうちはブルーライトによる細胞死を抑制するために役立つと期待されますが、加齢と共にαトコフェロールの量は減少するため、ブルーライトを長時間浴びている人は、徐々に加齢黄斑変性などの病気を発症し、視力の低下を経験するのではないか、と推定しました。
ただし、この研究は、がん細胞株やさまざまな培養細胞を用いた基礎研究であり、実際に人間の目への影響を調べたものではありません。また、タブレットやスマホから発せられるブルーライトが人間の目に入る状況を模倣した実験でもありません。得られたデータは、ブルーライトが目に悪影響を及ぼしうる仕組みの1つを示しましたが、そうした反応が、ブルーライトを浴びた人の目にも起こるかどうかはこの研究からは分かりません。
論文の上席著者であるAjith Karunarathne氏自身も、インタビューに対して「この実験結果は、ブルーライトを発するスクリーンを見続けると失明することは示していない」と断言しています。
こうした事実を踏まえ、同学会は、「ブルーライトを発するスクリーンを長時間見続けても、永続するダメージが目に及ぶことはないだろう」と明言したのです。では、ブルーライトは目の健康に何の悪影響も及ぼさないのでしょうか?
[注1]Ratnayake K, et al. Blue light excited retinal intercepts cellular signaling. Scientific Reports volume 8, Article number: 10207 (2018).
[注2]American Academy of Ophthalmology. No, Blue Light From Your Smartphone Is Not Blinding You. Aug 20, 2018.
体内時計を狂わせ、スムーズな寝つきを妨げる
同学会は、今回の声明の中で、ブルーライトが体内時計を狂わせ、入眠を難しくすることを示した研究の結果も示しています[注3]。
これは、米ハーバード大学などの研究者たちが2015年に報告した論文で、就寝前数時間の読書において、タブレットで電子書籍を読んだ場合と、紙の本を読んだ場合の、体内時計に及ぼす影響を比較しています。この研究では、「電子書籍を読んだグループの方が、寝入るまでに要する時間が長く、夜の眠気が少なく、メラトニンの分泌量が少なく、体内時計に遅れが生じ、翌朝の目覚めが悪い」という結果が得られました。したがって、ブルーライトを発する電子機器の就寝前の使用は、睡眠の質や健康状態、翌日の能力に影響することが示唆されました。
同学会は、「寝る前に液晶画面を見ることを控える、またはブルーライトをカットするフィルターを装着するといった対策が、一部の人々には利益をもたらす可能性がある」としています。
もう1つ同学会が心配しているのは、液晶画面を見続けることにより起こりうる目のかすみや乾燥、疲れです[注4]。原因の1つは、まばたき回数の減少にあります。ある研究は、通常は1分間に15回のまばたきが、デジタル機器のスクリーンを見ている間は、半分から3分の1に減ってしまうことを示しています。
同学会は、目の乾燥や疲れを予防する方法として、以下のようなアドバイスをしています。
●グレア(ぎらぎらとまぶしい光)を低減するマットなフィルムやスクリーン・フィルターをディスプレイに貼る
●20分に1回ずつ、20フィート(6.1メートル)以上離れた場所にある何らかの対象物を20秒以上見る(20-20-20ルール)ようにして、目を休ませる
●目の乾きを感じたら人工涙液を点眼する。加湿器の使用も考える
●周囲の明るさに比べスクリーンが明るすぎると、目への負荷が高まる。目の疲労を軽減するために、部屋の照明を調節する、スクリーンの輝度を下げる、画面のコントラストを上げるといった工夫をする
●コンタクトレンズ使用者は目の乾燥が起こりやすいため、メガネを使用する時間をつくって目を休ませる。連続装用コンタクトレンズを使用していても、眠る間はレンズを外す。レンズは常に清潔に保つよう心がける
●目のかすみ、充血や涙目が続く場合、また、まぶしさや痛みを感じる場合には、眼科医を受診する
日本のブルーライト研究会もコメントを発表
なお、日本のブルーライト研究会は、米国眼科学会の発表後にネットニュースなどに報道された「ブルーライトは視力に影響しない」という記事に対し、以下のような要旨のコメントを発表しています。
「スマホの光が『加齢黄斑変性』や『網膜色素変性症』のような疾患リスクになるかの臨床データはまだそれだけの期間(数十年)の研究がないためわかりません。しかし、夜に近距離でブルーライトを見続けることは、睡眠、体内時計の点から決して体によいとは言えません。(中略)長期の健康を考える上で、使用時間に配慮する、ブルーライトを軽減するメガネやフィルター等を用いることは、それをしない30年と比較して推奨に値する選択肢と考えます」[注5]
既にほとんどの日本人が、液晶画面を見ずには日常生活が成り立たない状態にあると思います。まずは、画面を見ている時のまばたきの回数に注意してみませんか。上述したアドバイスを記憶し実践すれば、目の疲労が減るかもしれません。
[注3]Chang A, et al. PNAS. January 27, 2015 112 (4) 1232-1237; published ahead of print December 22, 2014.
[注4]American Academy of Ophthalmology. Computers, Digital Devices and Eye Strain. Mar 1, 2016.
[注5]ブルーライト研究会「ブルーライトは視力に影響しない」というネット等の報道について

[日経Gooday2018年12月5日付記事を再構成]
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