「染色体で余命が分かる」はウソ? ホント?

この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)ホント
(2)ウソ
(3)それだけでは判断できない
正解は、(3)それだけでは判断できないです。
テロメアが短くなると細胞は分裂しなくなる
テロメアは、細胞の染色体の末端にある特殊な構造物で、その長さを見ると人の寿命が分かるなどといわれることがあります。
そもそも、テロメアの本来の役割は、染色体を保護し、染色体同士がくっついたりするのを防ぐことにあります。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなっていき、ある程度まで短くなると細胞はもう分裂できなくなります。そのため、「老化の回数券」などと呼ばれることがあるわけです。実際、赤ん坊のテロメアは長く、老人のテロメアは短いといわれます。

日本基礎老化学会理事も務める京都大学医学部附属病院(京都市左京区)地域ネットワーク医療部准教授の近藤祥司さんは、「そもそも染色体とは、ゲノムDNAにヒストンなどのたんぱく質がくっついて小さく折りたたまれたもの。DNAには4種類の塩基に遺伝情報が書き込まれています」と説明します。
4種類の塩基とは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)。DNAの上にはこの4種類の塩基があり、その並び方によって、すべての遺伝情報が伝えられます。
哺乳類の場合、DNAの末端部分は「TTAGGG」という6個の塩基のセットがいくつも続く形になっています。この6塩基のリピート部分がテロメアです。「ここには遺伝情報が入っていない。つまり、なくなっても大丈夫なようにできているんです」(近藤さん)
細胞が分裂するときDNAがコピーされますが、完全にコピーすることはできず、末端の部分だけ欠けてしまいます。この欠ける部分がテロメアです。染色体として見ると、細胞分裂する度に末端部分のテロメアが欠けて、短くなっていくことになります。
「テロメアが一定以上に短くなると、染色体同士がくっついたり、染色体がちぎれたりすることで、異常な染色体ができてしまう。そのため、あるレベルまでテロメアが短くなると細胞は分裂しなくなります」(近藤さん)
テロメアが短いと動脈硬化が進んでいる
テロメアの長さは血液中の白血球やリンパ球で調べることができます。テロメアの長さは、ある程度は年齢に比例しますが、個人差が大きく、年齢が同じでもテロメアの長さが同じとは限らないのだそうです。
では、テロメアを見ると、その人があと何年生きるか分かるのでしょうか? 気になるところでしょう。
「血管年齢のように、テロメア年齢という表現はできるかもしれません。ただし、細胞の老化はテロメアの長さだけでは決まらない。活性酸素による酸化ストレスなど、他の要因もありますから」と近藤さんは話します。
つまり、テロメアの長さは「細胞の老化度」を見る一つの尺度にはなりますが、それだけで「あと何年生きられます」などと単純に寿命を判断することはできないわけです。
とはいえ、テロメアが短いということは、それだけ細胞が老化しているとはいえるでしょう。実際、「テロメアが短い人は動脈硬化が進んでいることが多い、といった報告はいくつもあります」と近藤さんは話します。テロメアが短い人はがんになりやすい[注1]、テロメアが短いと心疾患と脳血管疾患のリスクが高くなる[注2]といったことも確認されています。
単純に数値化はできないとしても、細胞の老化度を示すテロメアの長さは、その人の寿命とも無関係ではなさそうです。
その気になればテロメアは「若返る」?
一方で、「最近の研究から、運動などの生活習慣によってテロメアが伸びることが分かってきました」と近藤さんは話します。
「テロメラーゼというテロメアを伸ばす酵素があります。これがあれば細胞が分裂してもテロメアは欠けない。生活習慣を改善することでテロメラーゼが活性化され、テロメア寿命を延ばすことができるんです」(近藤さん)
ちなみに、精子や卵子を作る生殖細胞やiPS細胞(人工多能性幹細胞)はテロメラーゼが活性化しているため、何回分裂してもテロメアが短くならないのです。
同じ平均年齢51歳の集団で、若い頃から運動習慣のある人たちとない人たちの白血球を調べた研究があります。それによると、運動している人たちのほうがテロメラーゼ活性が高く、テロメアも長かったという結果が出ています[注3]。
カリフォルニア大学予防医学研究所のディーン・オーニッシュ所長は、35人の男性のうち10人にライフスタイルの改善を指導しました。低脂肪で野菜や果物の多い食事、週5回以上の有酸素運動、ストレス管理など、トータルで「健康的な生活」をしてもらいました。そして、5年後に採血してテロメアの長さを測ると、何もしなかった人たちが3%短くなっていたのに対し、指導を受けたグループは逆に10%長くなっていたそうです[注4]。つまり、「努力でテロメアを伸ばすことができるんです」と近藤さんは指摘します。
[注1] PLoS One. 2011;6(6):e20466
[注2] BMJ. 2014 Jul 8;349:g4227
[注3] Circulation. 2009 Dec 15;120(24):2438-47
[注4] Lancet Oncol. 2013 Oct;14(11):1112-20
(日経Gooday編集部)
[日経Gooday2018年3月19日付記事を再構成]
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