「100歳以上の長寿には小食が多い」 ウソ・ホント?

この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。
(1)小食の人が多い
(2)しっかり食べている
正解は、(2)しっかり食べている です。
厚生労働省が2017年9月に発表したデータによると、現在日本には100歳以上の高齢者が全国に6万7824人います。47年連続の増加で、前年から2132人増えています。
慶應義塾大学医学部では1992年から、百歳以上生きる人(百寿者)の医学調査を行っています。当時の百寿者は4000人程度しかいませんでしたから、四半世紀ほどの間に、16倍以上に増えた計算になります。一昔前は、100歳というとかなりの長寿という印象でしたが、最近では珍しくなくなりつつあります。
こういった百寿者の人たちはどんな食生活を送っているのでしょうか。「粗食がいい」「健康のためには腹八分目」あるいは、「カロリーを制限すると寿命が延びる」という話もあるので、長生きする人は少食の人が多いように思っている方も少なくないと思います。
70代からは、しっかり食べて筋肉や骨を維持することが大切
長寿者の医学研究を行っている慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター講師の新井康通さんは、「百寿者はむしろしっかり食べています」と話します。
「百寿者の食事を調査したデータによると、低栄養に陥っていない百寿者は、体重当たりの摂取カロリーが80代の高齢者と同レベルです。活動量が多い人ほど摂取カロリーも多い。元気な百寿者はしっかり食べている、といえるでしょう」(新井さん)。
新井さんは、「確かに、動物実験では、摂取カロリーを制限すると寿命が延びることが証明されています。この結果は、昔からよく言われる『腹八分目で病知らず』という健康アドバイスとうまく合致することもあって、健康長寿の秘訣のように広く知られているのでしょう」と話します。
もちろん、食べ過ぎは肥満につながり、肥満は糖尿病などのメタボ系疾患を招きます。それが寿命を縮める要因となります。肥満を避けるために、腹八分目を心がけるのは大切なことです。
「ただし、これは60代ぐらいまで。それ以降は、むしろしっかり食べて筋肉や骨を維持することの方が重要なのです。カロリー制限の目的は、体脂肪を減らすこと。でも実際は、筋肉や骨も同時に弱くなります。通常、筋肉と骨は加齢とともに減っていきます」(新井さん)
「60代ぐらいではまだ丈夫なので、脂肪を減らすことを優先させるべきですが、70~80代以降になると、筋肉と骨格系の衰えの方が死活問題になってきます。個人差はありますが、70代ぐらいになったら頭を切り替え、『やせないようにしっかり食べる』ことを優先した方がいいのです。栄養素では、たんぱく質をきちんと食べることが大事です」(新井さん)
このように、従来は想像できなかった長寿社会になると、昔ながらのアドバイスが当てはまらない部分が出てきます。新井さんは、「もちろん百寿者には肥満の人はほとんどいませんので、若いころから食べ過ぎる習慣はなかったと思われます。でも、小食でもない。とりわけ高齢になってからは、むしろしっかり食べたほうがいいと、覚えておいてください」と話します。
寿命の上限はどこにある?
平均寿命が延び続け、百寿者の数も年々増え続けていると、人間の寿命はどこまで伸びるのかも気になります。
新井さんは、「日本人の平均寿命は、今なお右肩上がりで伸び続けています。生物としての寿命の限界がどこかにあるだろうとは思いますが、それがどのあたりなのかを、過去の人口統計などから予測するのは困難です」と話します。
これに関して興味深い報告が出ています。2016年10月に、科学雑誌ネイチャーに「最高齢記録は1990年代以降伸びていない」という論文が掲載されたのです(Nature. 2016;538:257-259.)。「ギネスブックに載っている人類の最高齢は、122歳。97年に亡くなったフランス人女性ですが、これは一人だけ例外的に飛び抜けた記録です。それ以外の記録は概ね115歳あたりにとどまっていることから、『最長寿命は115歳ぐらいが限界だろう』と結論付けています」(新井さん)
(日経Gooday編集部)
[日経Gooday 2018年2月5日付記事を再構成]
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