元アメフト選手の9割で脳疾患 接触型スポーツで事例

引退したアメリカンフットボール選手から死後に提供された脳標本を分析したところ、およそ9割に「慢性外傷性脳症(CTE)」と呼ばれる病変が認められたことが、米国の研究で明らかになりました。
ボクシングやアメリカンフットボールなどの激しいコンタクトスポーツにおいて、脳振盪(のうしんとう)などの軽度の頭部外傷を繰り返し受けた人が発症する進行性の疾患。数カ月から数年以上の期間を経て、精神症状(抑うつ、攻撃性、自殺企図など)や認知機能の低下、パーキンソン病に似た症状などが出現する。CT検査などでは見つからず、死後の病理解剖でしか正確な診断ができない。
アメリカンフットボールのように、プレーヤー間の接触が多いスポーツは、長期的な神経障害、特に慢性外傷性脳症のリスクを上昇させる可能性があると考えられてきました。
頭部に外から加えられた衝撃によって、頭皮や頭骨、脳などに損傷が起こる頭部外傷(脳振盪を含む)を繰り返すと、慢性外傷性脳症を発症する危険性が高まります。いったん発症すると、慢性外傷性脳症は徐々に進行して、神経障害や認知症などの症状をもたらします。
米国では2008年に、コンタクトスポーツや、軍人としての任務の中で繰り返される頭部外傷が健康に及ぼす長期的な影響を調べるために、退役軍人医療システムやボストン大学などの協力の下、脳バンクが設立されました。慢性外傷性脳症を発症するリスクが高い生活を送っていた人々から、死後に脳の標本の提供を受け、研究することが目的です。
今回ボストン大学医学部のJesse Mez氏らが報告したのは、死後に脳の標本を提供した元アメリカンフットボール選手202人に関する分析の結果です。死亡時の年齢の中央値は66歳で、フットボールをプレーしていた期間の平均は15.1年でした。それらの選手一人ひとりについて、近しい親族を対象に、運動選手としてのキャリアや、頭部外傷の経験、死亡するまでに見られた症状に関する聞き取り調査を行いました。
レベルの高い選手ほど高率に慢性外傷性脳症と診断
202人中177人(87%)が、脳の変化の特徴に基づいて慢性外傷性脳症と診断されました。その割合は、レベルの高い選手ほど高くなっていました(表1)。

生前に認められた症状に基づいて、慢性外傷性脳症患者を軽症(44人)と重症(133人)に分けると、軽症患者の死亡時の年齢の中央値は44歳で、プレー期間の平均は13年、死因として最も多かったのは自殺(12人、27%)でした。
一方、重症患者の死亡時の年齢の中央値は71歳で、プレー期間の平均は15.8年でした。主な死因は神経変性疾患(認知症、パーキンソン病など)で、62人(47%)でした。
脳組織の分析では、慢性外傷性脳症患者全員の大脳皮質に、リン酸化タウ蛋白質(ptau)を含む神経原線維変化(NFT)が認められました。NFTの存在は、重症患者ほど広範囲に見られました。一部の患者の脳にはアミロイドβも存在していました。ptau、NFT、アミロイドβはすべて、アルツハイマー病患者の脳に認められることで知られています。
111人の慢性外傷性脳症症例について、さまざまな臨床症状に関する情報が得られました(表2)。症状が徐々に進行した患者が多く、軽症患者の23人(85%)と重症患者の84人(100%)が進行性でした。

米国では、格闘技やアメリカンフットボールなど、コンタクトスポーツの世界で著名なアスリートが、精神症状や認知機能の低下に悩んだ末に自殺を図り、死後の病理解剖で慢性外傷性脳症が判明したという事例が複数報告されています[注1]。また、こうした事実に気付き、警鐘を鳴らした医師の実話に基づく「コンカッション/Concussion」という映画が、ウィル・スミス主演で製作されています。
今回の解析では、特に米NFL(ナショナルフットボールリーグ)の元選手のほぼ全員が慢性外傷性脳症であり、多くが重症だったことから、レベルの高いコンタクトスポーツを長年にわたってプレーすることが、慢性外傷性脳症のリスクを上昇させる可能性が示唆されました。
論文は、JAMA誌(米国医師会雑誌)2017年7月25日号[注2]に掲載されています。
[注1] 高畑圭輔ほか. 頭部外傷の分子イメージング:慢性外傷性脳症(CTE)と頭部外傷後精神病(PDFTBI)を中心に. 高次脳機能研究. 2015;35(3):276-282.
[注2] Mez J, et al. JAMA. 2017 Jul 25;318(4):360-370. doi: 10.1001/jama.2017.8334.

[日経Gooday 2017年10月4日付記事を再構成]
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