「いびき」が危ないのは肥満の人だけ、ウソ・ホント?

この記事では、今知っておきたい健康や医療のネタをQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。
(1)ホント
(2)ウソ
正解は、(2)ウソ です。
いびきは本人に自覚がないため、単なる「家庭内の騒音問題」と考えられがちですが、決して侮ってはいけません。
「いびきは、空気の通り道(気道)が狭くなったために、呼吸の際に気道の壁が震えている音。つまり、呼吸がしづらくなっている証拠です」と話すのは、御茶ノ水呼吸ケアクリニックの村田朗院長です。
気道の閉塞がひどくなると、やがて呼吸が止まって全身に十分な酸素が行き渡らなくなり、さまざまな弊害をもたらします。睡眠中に、無呼吸(10秒以上の呼吸の停止)または低呼吸(肺における換気量が通常の半分以下に落ちてしまった状態)が1時間に平均5回以上出現した場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)と診断されます。

いびきの原因は日本人特有の「平たい顔」だった!
気道が狭くなるのにはいくつかの原因があります。「太った人は首回りにも肉がつきますので、それが原因で気道が狭まり、睡眠時無呼吸症候群になるケースも多いです。しかし、睡眠時無呼吸症候群は肥満の人だけがなるもの、という認識は間違いです。小顔でやせ型の人にも、睡眠時無呼吸症候群は非常に多いんですよ」と村田院長。
村田院長によると、睡眠時無呼吸症候群の一番の原因は骨格。日本人を含む東アジア人は、基本的に頭部が上下に長くて奥行きが狭く、白人と比べるとペチャンコの顔をしています。「ヤマザキマリさんの人気コミック『テルマエ・ロマエ』では、現代日本人を『平たい顔族』と呼んでいましたが、まさにその通り。日本人は平たい顔だから、もともと顎が小さくて、気道が狭いのです」(村田院長)。
骨格の問題なので、細身の人でも、子どもでも、いびきや睡眠時無呼吸症候群は起こり得ます。「骨格の特徴は遺伝しますので、両親のどちらかがいびきをかく場合は、子どももいびきをかきやすい傾向があります。さらに今の若者は、昔よりもずっと顔が小さく顎が細くなってきていますので、なおさら舌が顎に入りきらず、気道が狭くなり、いびきをかきやすいのです」と村田院長は話します。
重症になると睡眠中にエベレスト並みの酸素不足に
睡眠時無呼吸症候群の人は、日中に強い眠気や倦怠感を覚えるため、居眠り運転などの重大な事故につながる危険もあり、日常生活で大きな問題となります(ただし、重症の睡眠時無呼吸症候群でもまったく眠気を感じない人もいます)。
村田院長によると、重症の睡眠時無呼吸症候群では、なんとエベレストに登ったときと同程度の酸欠状態(通常は98%程度ある血液中の酸素飽和度が60~70%台まで低下)になることもあるそうです。「いきなりこの状態に陥ると普通は失神してしまうのですが、睡眠時無呼吸症候群ではもともと眠っていて意識がないので、意識があるときには起こり得ないほど酸素飽和度が下がってしまうのです」(村田院長)。
こうした血液中の酸素不足や二酸化炭素の増加によって、身体に様々な負担がかかり、頭痛、狭心症、不整脈、高血圧、糖尿病などの合併症を引き起こします。長年いびきを放置してきた人が、ある日突然、睡眠時無呼吸症候群によって生じた致死性の不整脈などのため、突然死してしまう可能性もあるのです。睡眠時無呼吸症候群の患者が治療を受けずにいると、寿命が縮まるという研究結果もあります(He J, et al. Chest. 1988;94:9-14.)。
現在では、自宅で簡易検査を行うことも可能になっているので、いびきを指摘されている人は、一度睡眠外来などを受診してみることをお勧めします。
[日経Gooday 2017年5月22日付記事を再構成]
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