女性こそ肉食ダイエット!やせやすく、血管から若返る

熟成肉にグラスフェッドビーフ、シュラスコ──。そんなおいしい肉をこよなく愛する「肉食系女子」が急増中。貧血予防やダイエットだけでなく、長生きにも役立つ肉の、ヘルシーな魅力と食べ方を紹介します。
「女性こそ肉を食べるべき」というのは、桜美林大学名誉教授の柴田博さんだ。その理由として、「日本人女性のたんぱく質摂取量は一見足りているように見えて十分ではない」という。たんぱく質の約半分を大豆などの植物性たんぱく質でとっているからだ。「植物性たんぱく質は、アミノ酸のバランスが悪い。肉のたんぱく質はバランスが良く、体内で効率よく使われる」と柴田さんは主張する。
ほかにも、脂肪燃焼を促進するカルニチンという成分や、細胞の代謝に不可欠な亜鉛、コエンザイムQ10なども多い。牛肉や豚肉などの赤身肉には女性に不足しがちなヘム鉄が多く含まれるので、肉を食べることで貧血予防にもなる。
「肉を食べる機会が増えて、明らかに日本人の寿命は延びた。良質のたんぱく質摂取で、たんぱく質でできた血管や臓器が丈夫になったからではないか」と柴田さんは推測する。
医師で日本機能性医学研究所所長の斎藤糧三さんは、「ダイエットするときは、野菜だけでなく、肉を多めにとるといい」と話す。食べる量が減ると、筋肉が減りやすいからだ。筋肉量が減ると基礎代謝が落ち、やせにくくなる。「肉でたんぱく質をとって筋肉を維持することがダイエット成功のカギ。このとき、糖質摂取量を極力減らせば、体脂肪がエネルギーとして使われるようになる」(斎藤さん)
2週間~1カ月ほどこの「肉食ダイエット」を続けてやせやすい体になると、糖質摂取量を少し増やしても、脂肪を消費しやすい体を維持できるという。
女性が肉を食べるといい5大理由!
1.ヘム鉄が多く、貧血予防になる
定期的に月経で血液を失う女性は、鉄欠乏性の貧血になりやすい。貧血になると、全身の細胞が酸欠になる。貧血気味の人は、吸収のいいヘム鉄を多く含む牛肉をとるようにしよう。
2.代謝に必要な亜鉛を多く含む
亜鉛は、体内で酵素の働きを助け、細胞の新陳代謝にも不可欠な成分。不足すると味覚障害や皮膚の炎症などの原因にも。カキに多いという印象が強いが、実は牛肉にも多く含まれる。
3.アミノ酸バランスのいいたんぱく質がとれる
肉に含まれるたんぱく質は、体に必要な必須アミノ酸がバランスよく含まれ、血管や筋肉などの修復に効率よく使われる。体内への吸収もいい。
4.筋肉量が増え、基礎代謝が上がりやすくなる
筋肉量を増やすには、運動だけでなくたんぱく質補給が不可欠。筋肉を維持するにはたくさんのエネルギーが必要なので、筋肉量が増えれば基礎代謝も高まり、太りにくい体になる。
5.体内でアルブミンが作られる
アルブミンとは血液に含まれるたんぱく質で、肉をたくさん食べると増える。「アルブミンが少ない人ほど早死にで、寝たきりや認知症になるリスクが高い」と柴田さん。

斎藤さんが薦める肉食ダイエットのやり方
・肉を1日200~300g食べる
「1日にとりたいたんぱく質は、体重1kg当たり1.2~1.6g」と斎藤さん。これを肉に換算すると、体重50kgの人なら300~400g。実際には、肉以外からもたんぱく質をとると考え、200~300gに。一度に食べるより、数回に分けて食べたほうが吸収がいい。
・野菜とキノコを肉と同じ量とる
健康な体を維持するために、ビタミンやミネラル、食物繊維は不可欠。特にダイエット中は普段より意識してとるようにしよう。「葉野菜やキノコがいい。合わせて400gほどとっておきたい」(斎藤さん)。生野菜なら両手山盛り以上になる量だ。
・糖質摂取量を減らす
ダイエットには糖質摂取量を減らしたい。「糖質不足は脳のエネルギー不足を引き起こすという人がいるが、脂質を燃やしてできるケトン体も脳細胞のエネルギーになる」(斎藤さん)。ただし1食につき、ご飯50g(およそ3分の1膳)ならとってもいいという。
【肉の達人が伝授!簡単なのにジューシーな肉食レシピ】
[牛肉]安い肉でも火の入れ方次第でおいしくなる!
ステーキやローストビーフで大切なのは「表面に焼き目をつける」、「内側は温める」という2つのポイント。表面に焼き目をつけたら、肉表面の熱を肉全体に行き渡らせるイメージで、温かい場所で休ませる。厚い肉でも、同じ工程を何度か繰り返せば対応できる。火が通りやすい薄い肉は加熱しすぎに注意。
牛肉には脂肪燃焼を助ける成分が多い
英語では、牛や羊などの肉を"red meat"(赤肉)というが、実はこの赤い色、ヘム鉄とたんぱく質から作られる色素たんぱく「ミオグロビン」の色だ。このことからもわかるように牛肉には体に吸収されやすいヘム鉄が豊富に含まれている。
また、たんぱく質合成やエネルギー代謝に不可欠な亜鉛、脂肪燃焼を促進するカルニチンも多い。ダイエット効果が期待できるカルニチンの量は1日750mg。牛肉に換算すると約550gだ。しっかり量を食べることが、脂肪燃焼にもつながる。赤い肉には「うれしい言い訳」も含まれているというわけだ。
休ませて火を通す 薄いのにおいしいステーキ

[材料(1人分)] 牛ステーキ肉(常温に戻しておく)……200g 牛脂……適量 ニンニク(スライス)……1かけ分 塩……小さじ1/2 コショウ、ユズコショウ、ワサビなどを好みで……各適宜
[作り方]
1 フライパンに牛脂を入れ、弱火にかけ、ニンニクを入れる。色がついてきたら取り出す。
2 強火にしたら、塩の半量を肉の片面に振り、その面を下にして5~10秒焼く。その間に肉の上側に残った塩を振っておく。ひっくり返して5~10秒焼く。
3 アルミホイルを丸めてフライパンにのせ、その上に2の肉をのせて1分ほど休ませる。(下の写真)

4 肉をアルミホイルから下ろし、再び両面を5秒ずつ2回焼く。
5 肉を皿に盛り、1のニンニクのほか、コショウ、ユズコショウ、ワサビなど好みの調味料を添える。(1人分:870kcal)

肩ロース:うまみ成分が多いが、筋があるのでステーキにするときは丁寧に筋切りを。すき焼き、しゃぶしゃぶにも。173kcal、たんぱく質19.7g。
バラ:赤身と脂肪が層になっていて硬めの肉質。脂肪が多く濃厚な味で、シチューや煮込み、焼肉に。371kcal、たんぱく質14.4g。
サーロイン:形、香り、風味ともに抜群で、「サー(称号)」「ロイン(腰肉)」と呼ばれる。肉そのものを味わうステーキがお薦め。136kcal、たんぱく質22.0g。
ランプ:赤身の軟らかい肉質で、味に深みがある。たたき、ローストビーフをはじめどんな料理にも。121kcal、たんぱく質21.6g。
うちもも:最も脂肪が少なく、たんぱく質が多い。キメが細かく軟らかで、大きな切り身で使う料理に向く。132kcal、たんぱく質21.2g。
肩:脂が少なく、肉質はやや硬め。じっくり煮込むと軟らかくなるのでシチューやカレーに。130kcal、たんぱく質20.4g。
リブロース:赤身と脂身のバランスがよく、軟らかくコクがある。風味を楽しむにはステーキ、しゃぶしゃぶに。179kcal、たんぱく質21.7g。
ヒレ:キメが細かく軟らかいが、脂肪が少なく、加熱にコツが必要。カツレツ、ローストビーフに。133kcal、たんぱく質20.5g。
そともも:脂肪が少なく、キメがやや粗く硬め。薄切り、細切れにして、炒め物にするのがお薦め。127kcal、たんぱく質21.2g
Q.最近話題の「グラスフェッドビーフ」って何?
A.牧草だけを食べて育った牛肉のことです
「グラスフェッドビーフ」とは、放牧され、牧草のみで育った牛の肉のこと。日本の黒毛和牛やアメリカのアンガス牛など、穀物飼料で育てられた「グレインフェッドビーフ」と比べて脂肪が少なく、n-3系脂肪酸や抗酸化作用のあるビタミンE、β-カロテンなどを豊富に含むものが多い。
[豚肉]脂にもうまみが凝縮!
豚肉は「ゆっくり加熱」がお薦め。急激に温度を上げると、筋線維内の水分が絞り出され、硬くなってしまう。牛肉より高い温度まで上げたいので、豚肉ならではの「加熱」と「休ませ」加減を覚えたい。国産の豚肉なら内部温度70度前後まで加熱すれば問題ないが、お年寄りやお子さん向けにはよりしっかり加熱を。

糖やたんぱく質の代謝に不可欠なビタミンB1が多い
豚肉に豊富に含まれるビタミンB1は、免疫機能の維持や、糖やたんぱく質の代謝に不可欠な成分だ。特に、白米や甘いものをよく食べる人、お酒を多く飲む人は不足しやすい。成人女性の1日推奨量(*)は1.1mg。豚ロース肉で約140gに相当する。ただし、ゆでると約半分が湯に流出してしまうので、ゆで汁をスープにするなどして無駄なく使いたい。
脂質代謝に必要なビタミンB2、皮膚や神経を健康に保つナイアシンも多く、脂質にはコレステロールを下げるリノール酸やオレイン酸も豊富に含まれる。脂身ごとおいしくいただこう。
*『日本人の食事摂取基準(2015年版)』18~49歳の女性の推奨量
ゆでて調味料に漬けるだけ!なんちゃって絶品チャーシュー

[材料(2~3人分)]豚バラ肉(ブロック)……300g 醤油……100ml 酒……100ml ショウガ(すりおろし)……小さじ1 香菜、白髪ネギなど……各適量
[作り方]
1 鍋に肉の重量の8~10倍の湯を沸かし、常温に戻した豚バラ肉を塊のまま入れる。すぐに蓋をして火を止め、そのまま常温になるまで置く。
2 醤油、酒、ショウガを混ぜて煮切り、調味液を作る。
3 1の肉を取り出し、2の調味液と一緒に調理用保存袋に入れ、空気を抜いて口を閉じる。
4 30分ほど漬けおいたら、肉を取り出し5mm幅に切る。香菜、白髪ネギなど好みの野菜を添える。(1人分:450kcal)

肩ロース:赤身の中に脂肪が網状に入り、キメはやや粗く硬めだがコクがある。筋を切ってから調理すると軟らかく仕上がる。ショウガ焼きやソテーに。157kcal、たんぱく質19.7g。
ロース:キメ細かくなめらかな肉質で、うまみの多い脂肪がほどよくついた上質な部位。ローストやチャーシュー、カツに。150kcal、たんぱく質22.7g。
バラ:濃厚な味わいで、ベーコンに使われる部位。赤身と脂身が交互に層になっていることから三枚肉とも呼ばれる。角煮やチャーシューなどに。395kcal、たんぱく質14.4g。
そともも:比較的どんな料理にも合うが、中でも赤みの強い部位はキメが粗いので、薄切りにして炒めるか、煮込み料理に使うといい。143kcal、たんぱく質21.4g。
肩:キメがやや粗くやや硬め。脂肪が多少あり、薄切りや角切りにしてシチューやポークビーンズなど煮込む料理にするといい味が出る。125kcal、たんぱく質20.9g。
ヒレ:キメ細かく軟らかで、脂肪が少なく、ビタミンB1を多く含む。カツなど油を使った料理に向く。加熱しすぎるとパサつくので注意。130kcal、たんぱく質22.2g。
もも:高たんぱく、低脂肪でビタミンB1を多く含む。キメが細かく、ローストポークやソテーなど、肉そのものの味を楽しむ料理に。128kcal、たんぱく質22.1g。
※カロリー、たんぱく質量は肉100g当たり(データ:『日本食品標準成分表 2015年版(七訂)』より)
Q.豚肉は中が赤いと食べられないの?
A.火が通っていても赤身が残ることも
スーパーで売っているような普通の豚肉なら、最低でも中心温度が70度になるよう加熱すれば大丈夫。見た目がロゼ色でも火は通っている。肉は高温で加熱すると硬くなるので、おいしく食べるには温度管理がカギとなる。ただし、イノシシ肉など野生のジビエ肉は75度で1分以上の加熱が必要。
[鶏肉]カロリー控えめでダイエットの強い味方
牛や豚に比べて低たんぱく、低脂肪の鶏肉。とりわけ脂の少ない胸肉やささみは、加熱することでパサつきやすくなる。加熱すればある程度の水分が肉から出るのは避けられないこと。そこで、大事なのが下準備。「塩や砂糖など保水性のある調味料と一緒に水を肉にもみこむ『加水』をしておくと、加熱してもパサつきにくくなる」(松浦さん)。ヨーグルトの上澄み液ホエーや調味液に漬けておくのも加水になるという。加熱するときは、温度を上げすぎないのもしっとりジューシーな鶏肉を食べるポイントだ。

鶏胸肉には抗疲労作用のある成分も
リーズナブルで高たんぱく、低カロリーの鶏肉。アミノ酸バランスがよく、肌荒れに効果のあるビタミンAやコラーゲンを豊富に含むことからも、ダイエットに美容にと女性人気は高い。
鶏肉には、抗疲労作用があると機能性表示食品にも使用されているカルノシン、アンセリンというペプチド成分(イミダゾールジペプチド)が含まれる。大阪市立大学大学院の研究によると、イミダゾールジペプチドの摂取で、運動後の疲労感の改善が認められたという。
うまみ成分のイノシン酸も豊富な鶏肉。おいしくて手ごろで体にもいい「食卓の味方」だ。
加水と低温調理でしっとり ヘルシーサラダチキン

[材料(2~3人分)] 鶏胸肉……1枚(300g) 水……50ml 粗塩……小さじ1
[作り方]
1 ボウルに水と粗塩を入れて塩水を作り、鶏胸肉を入れ、肉が塩水を完全に吸うまでもみこむ。
2 鍋に1の鶏肉を皮を下にして入れ、肉がしっかり隠れるくらいに水(分量外)を入れ、蓋をせずに弱火にかける。
3 鍋の底に細かい気泡がたくさん出てきたら蓋をして火を止め、そのまま10分置く。
4 蓋を取って再び弱火にかけ、5分加熱したら火を止める。そのまま自然に冷めるのを待つ。好みのサイズに切って皿に盛る。
Memo ポイントは「弱火」。気泡が浮いてくるまで温度が上がってしまったら差し水で温度調整を。湯が濁って鍋底が見えないときは、鍋のふちにアクが集まるくらいが目安。鍋底は温度が高くなるので、皮と脂肪がある皮目をクッションにする。(1人分244kcal)

胸:高たんぱく、低脂肪で、抗疲労作用のあるアミノ酸を多く含むことで注目の部位。味にクセがなく淡白なので唐揚げや照り焼きなどに。145kcal、たんぱく質21.3g。
手羽先:翼の先端部分。肉はほとんどついていないが、ゼラチン質や脂肪が多く濃厚な味で、唐揚げやスープ、カレー、煮物に合う。226kcal、たんぱく質17.4g。
もも:よく動かす部位のため、肉質はやや硬め。比較的鉄分が多い。コクがあり、骨付きのものはカレーやシチューなどの煮込み料理に向く。204kcal、たんぱく質16.6g。
ささみ:語源は笹の形に似た形状。鶏肉で最も脂肪が少なく高たんぱくな部位。抗疲労成分も多い。あっさりした味なのでサラダやあえ物に。105kcal、たんぱく質23.0g。
手羽元:翼の胸に近い部位で、肉が多い。肉質は軟らかく、炒め物やロースト、揚げ物などに向く。骨付きのものは水炊きにするといいだしが出る。197kcal、たんぱく質18.2g。
砂肝:硬い食物を砕いて消化しやすくする胃の一部で、鉄分やコラーゲンを多く含む。コリコリとした食感で、焼き鳥や唐揚げのほか、ゆでてあえ物にも。94kcal、たんぱく質18.3g。
※カロリー、たんぱく質量は肉100g当たり(データ:『日本食品標準成分表 2015年版(七訂)』より)
Q.鶏肉は生で食べても大丈夫なの?
A.実は豚肉より加熱が必要です
鶏肉には、解体の工程でカンピロバクター菌という食中毒菌が付着するリスクがつきまとう。東京都健康安全研究センターの研究では、この菌は65度×30秒相当の加熱をしないと死滅しないという。内部にも入り込む可能性があるので、表面だけの加熱ではNG。中までしっかり加熱すること。


松浦達也さん

(ライター 松浦達也、堀田恵美、料理&レシピ作成 松浦達也、スタイリング 久保田朋子、写真 福岡拓)
[日経ヘルス 2017年4月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。