連休で疲れを残さないコツ 変化はストレスと考える
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こんにちは、精神科医の奥田弘美です。前回「『変化疲れ』が五月病の原因に 注意すべきはこんな人」では、良くも悪くも「変化」が多かった人や大きかった人は、五月病発症のリスクが高いという話をしました。今回はその後編として、「変化ストレス」を数値化した非常に有名な指標である「ストレスマグニチュード(社会的再適応評価尺度)」(表参照)を紹介します。また、変化ストレスが大きい人にとっての、連休中やそれ以降の過ごし方の注意点についても見ていきましょう。
あなたはいくつ当てはまる? 変化が多い人ほどストレスは大きい
これはもともと1967年にアメリカの心理学者Holms氏とRahe氏が開発した有名な尺度[注1]を日本人向けにアレンジしたものです。2012 年11 月に神戸市民1000 人を対象に実施したアンケート調査をもとに数値化しています。数字が大きいほどストレス度合いが高いことを示しています。

このストレスマグニチュードを見ても、「睡眠習慣の変化」「仕事量の変化」「職場での責任の変化」「交友関係の変化」「転勤、単身赴任」「子どもの受験」などが60~50と中程度の点数になっています。また「自分の昇進・昇格」が37.9、「同僚の昇進・昇格」が37.6とほぼ同程度のストレス度合いになっているのも興味深いところですよね。
さてあなたは、このストレスマグニチュードの中でいくつの変化をこの半年以内に体験したでしょうか? たくさんの変化を短期間のうちに体験すればするほど、あなたの受けたストレスが高いことになります。そしてあなたの体と心からはエネルギーが消費され、心身ともに疲労しています。
[注1]Holmes TH,et al.J Psychosom Res. 1967;2:213-8.
この春「うれしい変化」が重なった人は特に注意
特に気をつけてほしいのが、この春に「昇進」「異動」「プロジェクトリーダーへの抜てき」「子どもの卒業・入学」「新居への引っ越し」などうれしい変化が一気に重なった方です。元来、日本の春は天候も日々大きく変化しますので、この時期、誰もが気温差によって自律神経が疲労しています(自律神経は気温差が5度以上の環境変化を繰り返すと、バランスが崩れやすくなるといわれています)。
さらに会社・学校関係が一斉に新年度に突入し社会的変化が重なるため、緊張度が知らず知らずに高まり、弱っている自律神経の疲労にさらに追い打ちをかけてしまいます。
しかしうれしい変化が重なっている方は精神的に高揚しているので、悲しい変化・辛い変化が起こった時に比べて疲労度を感じにくくなっています。そのためエネルギーが消耗していることに気づかず、「期待に応えて成果を上げよう」「家族のために頑張ろう」と無理を重ねる恐れがあるのです。
繰り返しますが今年の冬あたりから春にかけて多くの変化を経験した人ほど、「変化疲れ」が蓄積していることを自覚して、この連休中やそれ以降は次のような生活を心掛けてください。
「変化疲れ」から脱するため、連休以降に心がけること

●体に疲れを残すようなハードなレジャー、スポーツや遠方への旅行は慎む(すでに旅行を計画してしまっている人は、できれば出勤するまでに1日は疲労回復日を入れてください。それが無理ならば次の土日には予定を入れず、自宅で休息してください)
●心身がゆったりほぐれるような時間を意識してたくさん持つ
●時間に追われないでボーッと過ごす日をつくる(1日が無理なら半日でも!)
●新たに資格試験勉強を始めたり、禁煙やダイエットをしたり、新規の趣味を始めたりといった「自ら起こす新しい変化」はしばらく慎む
●他者との無防備なコミュニケーションが発生する交流サイト(SNS)や、時間を忘れて熱中してしまうゲームなどは、神経を高ぶらせ疲労が悪化するので控えめにする
つまり「変化に変化を重ねない」「リラックス時間を増やして緊張を緩める」「体を疲れさせない」過ごし方がポイントとなります。また当然ながら疲労を回復させる基本である睡眠をしっかり確保してください。できれば7時間以上の連続睡眠が理想です。少なくとも6時間睡眠は死守してください(詳しくは連載第3回目の記事「長時間労働はなぜ悪い? 医師が明かす睡眠不足の怖さ」を参考にしてください)。もちろん、普段から疲労回復度の高い良質なたんぱく質と緑黄色野菜などがしっかり含まれたバランスの良い食事を、きちんと食べることも大切です。
次回はこの疲労回復と食事について、より詳しくお伝えしたいと思います。お楽しみに。
【こちら「メンタル産業医」相談室】
第7回「『変化疲れ』が五月病の原因に 注意すべきはこんな人」
第6回「過労死は『好きで仕事をしている人』にも起こる 」

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