発酵博士の食生活に学ぶ 腸によい食事のとり方
ここまで分かった 発酵食品(5)

これまで4回にわたり発酵食品について解説してきたが、実際に発酵食品をどのように取り入れればいいのだろう。発酵食品の専門家である東京農業大学名誉教授の小泉幸道さんに、自身の日々の食事と、発酵食品のとり方のコツについて聞いてみた。
味噌、納豆、カツオ節、酢、ヨーグルトは毎日
世界には1000種類以上の発酵食品があるといわれている。「その土地の気候や風土に育まれた食品と微生物が出合い、発酵食品は生まれます。発酵食品には歴史と科学、技術の積み重ねが刻まれています。発酵によりもたらされる限りない恩恵に感謝をしつつ、健康な毎日を送りたいものです」(小泉さん)
私たちは日本独自の発酵食品に加え、世界各国の発酵食品を手に入れることができる。いろいろな物を選べるだけに、何を食べればいいのか迷ってしまう。そこで、発酵食品の専門家である小泉さんの食生活について聞いてみた。
「朝食はごはん、味噌汁、納豆(カツオ節入り)、焼き魚、スティック野菜の甘酢漬けが定番です。このスティック野菜の甘酢漬けは毎食食べます。昼食は何でも食べますが、家にいるときはパン食。夕食はごはんか麺類ですが、意識して食べ過ぎないように注意しています。また、ヨーグルトやリンゴ酢ミルク(後述)は昼食時か夕食時にとっています」(小泉さん)
小泉さんは、「味噌、納豆、カツオ節、酢、ヨーグルトは毎日必ずとること」と、「野菜で食物繊維をたっぷりとること」を心がけているそうだ。「これらの発酵食品は手に入れやすく、高い健康効果が期待できるものです。今、食べていない人はぜひ取り入れてみてください。しかし、苦手なものを無理して食べることはありません。好みのものから始めましょう」(小泉さん)
小泉さんは発酵食品の中でも長年「食酢」の研究を行ってきたため、酢のとり方に詳しい。そこで、酢を使ったレシピを教えてもらった。
◎「小泉流スティック野菜の甘酢漬け」

【材料(作りやすい分量)】
キュウリ…200g
大根…200g
にんじん…100g
漬け汁
|リンゴ酢または黒酢…150mL
|砂糖…70g
|塩…小さじ2
【つくり方】
野菜はそれぞれ1cm角・4.5cm長さのスティック状に切り、漬け汁の材料を合わせて漬ける。一晩おいてから食べる。
「1回作れば2~3日食べられるので、手軽に酢を取り入れるのに便利」(小泉さん)。酢にはさまざまな健康効果があるので(第3回「味噌・納豆・酢 伝統発酵食の健康効果と食べ方のコツ」参照)、毎日取り入れたいが、料理に取り入れるのは難しいという人もいるだろう。そんな人にはドリンクもおすすめだという。
◎「小泉流リンゴ酢ミルク」
グラスにリンゴ酢大さじ1を入れ、ハチミツ大さじ1、牛乳120mLを加えてかき混ぜる。
◎「小泉流リンゴ酢ジュース」
グラスにリンゴ酢大さじ1を入れ、オレンジジュース180mLを入れて混ぜる。リンゴジュースやぶどうジュース、トマトジュースなどで代用してもいい。
「リンゴ酢ミルクはヨーグルト飲料のような飲み口です。牛乳を酢と組み合わせることでカルシウムの吸収率がアップします」(小泉さん)。記者も飲んでみたが、リンゴ酢ジュースはリンゴ酢とオレンジジュースの違った酸味がミックスされてとても飲みやすかった。
ヨーグルトを食べるコツは?
小泉さんも1日1回はヨーグルトを食べているが、「整腸作用を求めてヨーグルトをたくさん食べているのに、便秘が改善しない……」、そんな悩みを持っている人も多い。そこで、ヨーグルトを食べる際のコツについても伺ってみた。
「ヨーグルトを食べていても、食事全体のバランスが悪ければ整腸作用はあまり期待できません。せっかくヨーグルトを食べるなら、同時に食物繊維やオリゴ糖をとることも大事です」(小泉さん)
ヨーグルトを食べると生きた菌を腸に届けることができる(第1回「ヨーグルトと納豆 微生物が生きてる発酵食品の魅力」参照)。このように、生きたまま腸に届いて増殖し、体に良い影響を及ぼす微生物をプロバイオティクスという。「プロバイオティクスとは、生物同士の共生を意味するプロバイオシスを語源としたものです。これは、自分がもともと持っている腸内細菌によい菌をプラスして健康になるという予防的な考えから生まれました」(小泉さん)
一方、プロバイオティクスの働きを助ける物質をプレバイオティクスという。「これは、自分がもともと持っている善玉菌や、ヨーグルトなどで取り入れた善玉菌のエサとなり、結果的に腸内の善玉菌を増加・活性化させる食物繊維やオリゴ糖のことを指します」(小泉さん)
プロバイオティクスとプレバイオティクスを同時にとろう
プロバイオティクスとプレバイオティクスでは、整腸に対するアプローチが違う。「違うからこそ同時にとると非常に効果的です」(小泉さん)。ヨーグルトを毎日食べているならプロバイオティクスについては、とれている。その場合、あとは、腸内細菌の働きを助けるプレバイオティクスを意識しよう。

食物繊維は穀類、芋類、豆類、海藻、きのこ、こんにゃく、野菜などに含まれている。また、オリゴ糖はタマネギ、ごぼう、アスパラガス、キャベツ、ネギ、大豆、ハチミツ、バナナ、牛乳などに含まれている。
発酵食品は体にいい。しかし、その良さをもれなく享受するには、発酵食品の働きを助ける食品もしっかりとるなど、ベースの食事をおろそかにしないことが大切だ。
「世界中にたくさんの発酵食品があり、食卓を豊かにしてくれています。いろいろな発酵食品を楽しみながら、健康や美容に役立ててください」(小泉さん)
【ここまで分かった 発酵食品】
第2回「乳酸菌は生きて腸に届く?ビフィズス菌との違いは? 」
第3回「味噌・納豆・酢 伝統発酵食の健康効果と食べ方のコツ」
第4回「大人気の甘酒、カツオ節も発酵食品 その健康効果は?」

(ライター 村山真由美)
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