気付けばネガティブ思考 脱却に役立つABCDE理論って
後ろ向き思考のクセを直したい(前編)

人にはそれぞれ、物事の考え方や受け止め方にその人なりの傾向や癖があります。そうした思考の癖は、その人の育ってきた家庭や職場環境、受けた教育や人間関係、成功・失敗の経験などから形成された価値観などに左右され、十人十色です。ただそれを将来に向けて変えていくことは可能です。特に、物事の悪い面にばかり着目しがちな人は、「ABCDE理論」と呼ばれる手法を身につけることで、徐々に物事を多面的に捉えられるようになります。
「悪い思考の癖」を自問自答で修正していく
ABCDE理論は、臨床心理の権威である米国のアルバート・エリス博士が提唱した認知療法の一つです。ABCDEは、それぞれ次のような意味を示します。
A=Activating Event(出来事や外部からの刺激)
B=Belief(受け止め方、認知、解釈)
RB=Rational Belief(合理的な良い思考)
IB=Irrational Belief(非合理的な悪い思考)
C=Consequence(結果)
D=Dispute(反論、または「Dialogue」として自問自答)
E=Effect(効果や影響)
Aの出来事は現実に起きた事実で、変えることのできないものです。この事実をどう捉えるかは、Bの受け止め方次第です。
Bの受け止め方には、合理的な思考(Rational Belief=RB)と非合理的な思考(Irrational Belief=IB)があります。合理的な思考はストレスを生みにくい「良い思考」、非合理的な思考はストレスを生みやすい「悪い思考」といえます。このBの受け止め方は、自分で変えることができます。つまり、事実を変えることはできないものの、受け止め方=認知は変えられるのです。
認知のしかた(B)によって、Cの結果は良い方向にも悪い方向にも変わります。そして、自分の思考をストレスを生みにくい良い思考へと切り替えていくために、DとEのプロセスがあります。DはオリジナルではDispute(反論)と定義されていますが、日本人にはきつく感じる印象があるため、私はこのDをDialogueのD、つまり自分との対話、自問自答と置き換えています。Dによって、Eの効果や影響が生まれます。
つまり、出来事(A)に対して、悪い受け止め方(B/IB)をしたことによって、不安やストレス、怒りや不満といったネガティブな感情を持ったときに(C)、自分の受け止め方を自問自答して(D)、多面的に捉えて良い受け止め方(B/RB)に修正すると、適切な感情や行動が生まれる(E)…というのがABCDE理論の一連の流れです。
ABCDE理論の過程は、その人の性格やその場の状況に応じても変わってきますが、分かりやすい例を挙げてみましょう。
A(出来事)
上司に提出した報告書のミスを指摘された。
↓
B(受け止め方)/ IB
上司は些細なミスでもすぐに指摘する。これくらいのミスは誰にでもあることなのに、私ばかり注意を受けているような気がする。
↓
C(結果)
自分ばかり注意する上司に対して怒りを覚え、「私を嫌っているのではないか」と不安にもなる。
↓
D(反論、自問自答)
上司は本当に私のミスばかり指摘しているだろうか。ミスがあれば、ほかの人でも同じように指摘しているのではないか。私がミスを指摘されるのは、それだけ不注意なミスが多いせいかもしれない。
↓
E(効果や影響)
上司からミスについての注意は受けるが、私の仕事の能力や人格そのものを否定されるような叱り方はされていない。まずは不注意によるミスをなくすように努力してみよう。
ABCDE理論は時折、ネガティブなことをすべてポジティブに反転していくものだと思われることがありますが、決してそうではありません。どのように捉えてみてもポジティブになれないときは、前向きにあきらめるように受けとめる場合もあるでしょう。ABCDE理論はあくまでも、事実を客観的に俯瞰(ふかん)し、それまで一面的だった受け止め方を、多面的に捉えていくための手法なのです。
ABCDE理論を活用して物事を多面的に捉えるようになるために、読者の皆さんにお勧めしたいのは、日記をつけることです。私も「メンタフダイアリー」というABCDE理論を応用した日記のフォーマットを考案していますので、後編では、そのフォーマットに沿って日記の書き方を紹介しましょう。
渡部 卓(わたなべ たかし)さん
帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表、産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ。1979年早稲田大学卒業。米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。複数の企業勤務を経て、2003年会社設立。職場のメンタルヘルス対策、ワークライフコーチングの第一人者として活動する。著書に「折れない心をつくる シンプルな習慣」(日本経済新聞社)など。
(ライター 田村 知子)
[日経Gooday 2017年1月16日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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