午後遅いコーヒーは避けるべし 寝不足を加速させる
アリアナ・ハフィントン流 最高の結果を残すための「睡眠革命」(5)

カフェイン禁止時間は夕方よりずっと早くする必要?
飲食に関しては、何を取るかより何を避けるかが問題だ。もちろん、健康的な睡眠習慣を妨げる飲食のワースト1は、カフェインと糖分を一日中行き来することだ。これをすると、夜、疲れているのに妙にハイという状態に陥る。
ベッドからはい出て1日の仕事に立ち向かおうとする男たち女たちが、今日も半開きの目でつぶやく。「コーヒーを飲み終わるまでは話しかけないで」と。朝のこの一杯の重要成分であるカフェインは、私たちの目を覚まさせ、活力をよみがえらせてくれる。しかし午後遅く、あるいは夜になってカフェインを取ると、睡眠に深刻な影響が出ることがある。
夕食後にコーヒーを飲まないほうがいいと多くの人が知っているが、実際のところ、カフェインの作用は私たちが考えているより長く続く。ミシガン州デトロイトのウェイン州立大学とヘンリーフォード病院が2013年に行った研究によれば、就寝6時間前のカフェイン摂取でも睡眠が1時間短くなる可能性があるという。
研究者らは「カフェイン摂取によって睡眠が妨げられるリスクは、一般の人々にも医師にも過小評価されている」とコメントした。どうやら、カフェイン禁止時間は夕方よりずっと早くする必要があるようだ。
ホットミルクは睡眠の助けになるは本当?
では、よくいわれる「コップ一杯の温めた牛乳」など、睡眠の助けになりそうな飲み物はどうだろうか。
牛乳と睡眠との関係を示した研究は今のところないが、ベッドに入る前に牛乳を飲むことがリラックス習慣になっているなら(もしかしたら子どもの頃の記憶と関係があるかもしれない)、ぜひそうしたらいい。乳製品でおなかをこわす乳糖不耐症の人は、アーモンドミルクやココナッツミルク、あるいはカモミールティーを試してもいいだろう。何であれ、心を鎮めてくれるものであれば(ただし糖分を含まないもの)、寝つきをよくする助けになる。
牛乳にはカルシウムも含まれている。カルシウムは、マグネシウム、ビタミンBと並んで、睡眠の調節にかかわっている栄養素だ(カルシウム不足が睡眠障害にかかわっている場合もある)。だから、カルシウムを含む食べ物で眠れるわけではないが、睡眠のパーツとなる栄養素は取れるということになる。
同じことは、マグネシウム(ナッツ、種子類、葉もの野菜、バナナなど)、ビタミンB6(魚、豆類、鳥肉など)、アミノ酸の一つであるトリプトファン(ヒヨコマメ、海藻、卵白、カボチャの種、七面鳥の肉など)にもいえる。
またサクランボも、メラトニンを豊富に含んでいて、睡眠に役立つ可能性がある。ルイジアナ州立大学による2014年の研究では、コップ1杯のタルトチェリー(訳注*スミミザクラの実)ジュースを1日2回、2週間飲んだグループは、プラセボ(偽のジュース)を飲んだグループと比べて、一晩あたりの睡眠が平均85分長かったという。
寝る直前の「大食」はアウト

寝る直前に大食しないほうがいいというのは本当だろうか? 答えは「イエス」だ。
古くからあるこの知恵は正しい。逆流性食道炎がある場合は特にそうだ。推定で米国人の4割に見られるというこの病気の専門家、ジェイミー・カウフマンは、現代人の働き方を考えると、このことが大きな問題になりうると指摘する。
「患者を見ていて気づいたことだが、ここ20年ほどで、夕食の時刻が次第に遅くなっている傾向がある。労働時間が長くなっただけでも夕食の時間は遅くなっているのだが、さらに買い物や運動が拍車をかけている」
カウフマンによると、食事時間を早めることこそ逆流性食道炎を防ぐ「最重要の対処法」だ。また、彼女の患者の多くが、それによって睡眠時無呼吸の症状も軽くなったという。
食事を消化するには2~3時間かかる。だから、たとえ逆流性食道炎がなくても、夕食の時刻には注意を払うべきだ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神医学教授クリストファー・コーウェルによれば、遅い時間や普通でない時間に食事をすると、概日リズムが乱れて、そのため睡眠覚醒サイクルも乱れる可能性があるという。
「我々は、スイッチさえひねればいつでも働けるという幻想を持っている。食事についてもそうだ。しかし我々の生物学的システムは(中略)概日リズムをもとに動いている」
私はかつて、プロジェクトを夜のうちに完成させようとして、エネルギー源を食べ物に求めていたことがある。体が切に求めていたのは睡眠だったのに。結局、脱水と胃もたれを感じてよく目を覚ました。もちろん、二人として同じ人はいない。だから自分を研究する科学者になったつもりで、自分の睡眠には何が最も適しているかを観察し、分析し、実験してみるのがいい。それはエキサイティングな試みだ。
辛い食べ物、脂肪分が多い食べ物もご法度
スパイスの効いた食べ物も、就寝直前には避けたほうがいい。胃もたれや膨満感を引き起こすことがあるからだ。オーストラリアの研究によれば、就寝前にタバスコとマスタードが入った食べ物を食べた人は、寝つくまでに時間がかかり、睡眠時間も短かった。このグループは、その食後に体温も上昇したという。これも睡眠の質の低下につながる要因の一つだ。
また、脂肪分が多い食品を取りすぎることも、睡眠の妨げになる。ラットの実験では、高脂肪食を取ると睡眠が分断されやすくなったという。これらのラットはトータルの睡眠時間が長くなったが、その余分の睡眠は主に日中に生じた。同じ研究で、高脂肪食と日中の過剰な眠気との関連も見られたという。過剰な眠気は肥満の人によくみられる症状だ。
食べ物と睡眠との関連性を理解すると、いくつかのつらい真実ものみ込まざるを得なくなる(カフェインを抜く、スパイスを避ける、脂肪分を減らすなど)。ハフポストのウェルネス担当編集者でサンタモニカ健康センターの設立者でもあるパトリシア・フィッツジェラルドによれば、「20年間の診察で患者たちから聞いた最大の敵は、深夜のアイスクリーム。断トツのナンバーワンよ」とのことだ。彼女は、アイスクリームだけでなく、就寝前には糖分自体を避けることを勧めている。
それから、これは科学的研究があまりないかもしれないが、睡眠前に「塩分の多い食べ物と怖い映画」という組み合わせは避けたほうがいいかもしれない。私には実体験がある。
当時8歳と6歳だった娘たちが、塩味の効いたポップコーンの大袋を手に『ゴーストバスターズ』を見ていた。大人にとってはコメディー映画だが、うちの娘たちにはまったく違っていた。その夜は大変だった。2人をようやく寝かしつけた時には深夜を回っていた。それ以来、塩分の多い食べ物と怖い映画はわが家の「寝る前はだめ!」リストに加わった。
アリアナ・ハフィントン流 最高の結果を残すための「睡眠革命」
第1回 ハフィントン氏 死を招く睡眠不足、世界最短は東京
第2回 「睡眠不足」悪事の数々 免疫低下、無力感、体重増も
第3回 睡眠不足は脳に重大な影響 「あとで取り戻せる」は嘘
第4回 短時間睡眠は時代遅れ 名だたるCEOが8時間宣言
「ハフィントンポスト」創設者、スライブ・グローバル社の創設者・CEO。2005年5月にスタートした『ハフィントンポスト』はたちまち評判になり、多数の読者を獲得。2012年にはピューリッツァー賞(国内報道部門)を受賞した。2016年8月に設立した新会社スライブ・グローバルは、人々の健康と生産性向上のため、最新の科学的知見にもとづくトレーニング、セミナー、eラーニング講座、コーチング、継続的サポートなどを世界各地の企業および個人に提供すると発表している。近著に『Thrive』(邦題『サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功』CCCメディアハウス)。最新刊『The Sleep Revolution』(邦題『スリープ・レボリューション』日経BP社)は米国で15万部のヒットに。
(訳 本間徳子)
[書籍『スリープ・レボリューション 最高の結果を残すための「睡眠革命」』を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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