インフルエンザの鼻ホジホジ検査 本当に必要か?

こんにちは。日本のお薬事情について、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思っている、やわらぎクリニック副院長の北和也です。
早速ですが、インフルエンザが流行してますね~。そこで、インフルエンザの診療について考えてみたいと思います。みなさん、こんな受診経験はないでしょうか?
患者さん 『昨日の晩から寒気がして、夜中に熱が39度まで上がってきたんです。ふしぶしも痛いし、鼻水もせきも出るんです。先日、職場の同僚もインフルエンザで休んでいました…』
医師 『なるほど。そしたら、インフルエンザの検査しときましょか~』
(鼻にホジホジ…10分後)
医師 『検査結果は陰性ですね~。インフルエンザと証明できなかったので、また明日にでも来て下さい。陽性になるかもしれませんから』
患者さん 『は、はぁ。インフルエンザじゃないんですか?』
医師 『その可能性はあるでしょう。しかし、明日検査しないとはっきり言えませんので』
(翌日、つらい体を引きずって再受診し、2度目のホジホジ…10分後)
医師 『思った通り、インフルエンザA型! やはり私の目に狂いはなかったようです。とりあえずインフルエンザに効くお薬出しときますからね』
患者さん 『ありがとうございます! 診断書が必要なら書いてもらえますかね?』
医師 『OKですよ。また取りにきて下さいね。お大事に』
インフルエンザ流行シーズンによくある診療風景ですよね。でも、よくよく考えるとちょっと変じゃないですか? いかがでしょう?
「何がおかしいんだ! とっても親切な先生じゃねぇかコノヤロー!」という方もおられるかもしれません。
でもでも、よく考えてみて下さい。
インフルエンザの診断は鼻ホジホジの結果次第!?
この患者さん、検査キットが初日陰性、2日目陽性でしたよね。そうなんです。検査キットは万能ではないのです。
「初日は早く来すぎて陰性になってしまったからでは?」…確かにそうです。インフルエンザは、症状が出てから半日ほど経過してからでないと検査キットが陽性になりにくいようです。
でも、問題はそこではないのですっ!

そもそも、インフルエンザの流行期に、明らかにインフルエンザの典型的症状(寒け・発熱、ふしぶしの痛みに加えて、のど・鼻・せき症状)があれば、インフルエンザの可能性が非常に高いと思いませんか?
つまり、鼻をホジホジする前から、初日の段階で明らかにインフルエンザの可能性がめちゃめちゃ高いんです!
初日の時点で、検査が陰性であろうがなかろうが、インフルエンザなんですね。それは、患者さんも医師も、うすうす気付いていたはずなんです。
インフルエンザの診断をしたのは、検査キットではなくて、ほかでもない医師や患者さん本人だったというわけなんです。
…ということはですよ、必ずしも検査キットは必要ないのかもしれないんです。
じゃあ検査キットってなんなんだ?
では、あの鼻をホジホジする検査キット、あれはなんなのでしょう?
「症状が出てからすぐに検査しても陰性になるなら、1日たってから受診したらよいのでは?」と思っていらっしゃる方もおられます。
しかし、1日たったら必ず陽性になるのかというと、そうでもないんです! 実は、本当のインフルエンザの人が、実際に検査陽性となる割合は10人中6~7人程度で、本当にインフルエンザだったとしても3~4人は陰性に出てしまうわけです(偽陰性といいます)[注1]。
これだけでもびっくりしますが、反対に、インフルエンザではない人のなかにも、ごくごくたまに陽性になってしまうこともあり得ます(偽陽性といいます)。
検査って絶対的なものではないんですね~。
つまり、インフルエンザ診療における検査キットというのは、医師のインフルエンザの診断を助ける(診断精度を高める)ための道具に過ぎず、絶対視してしまうと、誤診すら起こしてしまうリスクがある、ということなんです。
だから、明らかにインフルエンザっぽい時にホジホジするのではなく、インフルエンザかどうか微妙だけどしっかり診断しておきたい(あるいは除外しておきたい)という時にホジホジするのが、理にかなった使い方といえます。
逆にいうと、明らかにインフルエンザっぽいときは、医師は検査キットなど使わずに、インフルエンザとして対応してもよいということなんです!
明らかにインフルエンザなときに鼻をホジホジされて、涙を流しながらたまに鼻血がにじんでいるなんて、ちょっと悲しくないですか?
医師である自分としては、同じ医師に対して、「検査キットを信じすぎるんじゃない! みんな、もっと自分を信じるんだっ!」とよく思ってしまいますが、便利な検査が手元にあると、つい、検査しないと気が済まない習慣がついてしまうんですね~。
噂によると診察券を渡した瞬間に、鼻に検査キットを差し込まれる医療機関もあるそうです(ウソです)。
…とはいえ、患者さんの立場からいうと、検査する・しないも結局は医師次第。「先生、つらいからホジホジの検査しないで。インフルエンザってことにしておいて」とは言いにくいかもしれません。それに、検査キットの使い方や診断のし方が気になっても、口をはさみにくいかもしれません。そんな時はこのページを印刷して、医師に相談してみてください。検査キットの使用を要望する患者さんが次から次へとやって来るために、いくら説明しても埒(らち)があかなくなり、やむを得ず使い続けている医師も中にはいるのです。
「インフルエンザの検査をしてもらってきて!」と職場や学校の先生から言われることもあるかもしれませんが、上述の通り、全然理にかなっていないのです。
最後に言います。
「インフルエンザの流行期に典型的なインフルエンザ症状(急に出てきた、せき・鼻・のどの症状+寒気+ふしぶしの痛み+高熱)があれば、検査をしてもしなくてもインフルエンザとして扱うべし!」
注意)本記事は、医療否定を訴えるものではありません。くれぐれもご注意いただければと思います。
やわらぎクリニック副院長。2006年大阪医科大学卒。府中病院急病救急部、阪南市民病院総合診療科、奈良県立医科大学感染症センターなどで主に総合診療・救急医療・感染症診療に従事。手足腰診療のスキルアップのため、静岡県は西伊豆健育会病院 整形外科への3カ月間の短期研修(単身赴任)の経験もあり。現在は、やわらぎクリニック(奈良県生駒郡)副院長として父親とともに地元医療に貢献すべく奮闘中。3姉妹の父親で趣味は家族旅行。編著に「今日から取り組む 実践!さよならポリファーマシー」(じほう)
[日経Gooday 2016年12月13日付記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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