正しい美肌ケア 知っている人は半分以下?
日経BPヒット総合研究所 黒住紗織

「これがいい」「これをすれば、キレイになる」という情報が氾濫している美容の世界。いったいどれを選んだらいいのか、何をしたらいいのか、迷ってしまうという人も多いだろう。日々、研究も進んでいるだけに、当時は「確かに正しかった」ことが、その後「間違っていた」ことが分かったり、「もっといい方法」が見つかったりすることはよくある。だから、若いころ教わった方法をいいと信じてそのまま続けていたり、人が良かったからと勧めてくれた情報をそのまま自分に当てはめて毎日続けていたりすると、実はかえって肌を痛めつけている、という悲しい事態に陥ることもあるのだ。
いま、あなたがいいと信じて行っている美容習慣のうち、「半分以上は間違っている可能性がある」。こう話すのは、皮膚科専門医の中でも美容皮膚科で長年診療をし、自らも肌にいいことを医学的、科学的根拠を基に、情報をアップデートしながら実践しているアオハルクリニック(東京都港区)院長の小柳衣吏子さん。
「私のやっている方法は、何か間違っているのかしら?」と心配になった人も、いるはずだ。そこで、小柳院長の話を基に、毎日のスキンケアの中から勘違いが多いお手入れ習慣の一例として、朝の洗顔の"正解"を紹介しよう。
まずは質問から。次の項目で、あなたがしていることはないだろうか?
2 ごしごしと念入りに洗っている
3 熱めのお湯で何度もすすいでいる
4 顔をふくときに、タオルでしっかりこすっている
1つでも当てはまった人は、毎日の洗顔で肌の乾燥を進めている可能性がある。肌の乾燥はシワや、肌のキメが荒れる原因になり、肌の老化に直結する。
では4つの洗顔法が正しくない理由を解説しよう。
朝のモコモコ泡洗顔は、「肌にとっての試練」

まず「1」の泡立て洗顔が乾燥を招くというのは――。
「朝、起きたばかりの肌は、化粧や汚れがついていないうえ、睡眠中に分泌された皮脂膜に覆われているため、肌にとっては負担のないいい状態」(小柳院長)だ。
何より皮脂膜は、肌を乾燥から守る「天然の保湿成分」とも呼ばれ、pH(ペーハー)バランスも弱酸性で、肌にとって理想的。こんないい状態にある朝の肌を、わざわざたっぷりの泡を立てて洗うと、せっかく肌の表面を守っている皮脂を取り過ぎてしまう心配がある。
モコモコ泡が立つ洗浄剤はアルカリ性成分であることが多く、本来弱酸性の肌には負担が大きい。というのも、肌がアルカリ性に傾くと、肌内部の水分を保つ機能が乱れ、角質細胞間脂質や天然保湿因子と呼ばれる成分が溶け出しやすくなるからだ。これが肌の乾燥を進めてしまう(下の図)。さらにアルカリ性に傾いた肌は、ニキビや肌荒れの原因になるアクネ菌やブドウ球菌などの悪玉菌がすみやすい環境になることも分かっている。
だから朝は、わざわざ洗浄剤を一生懸命泡立てる必要はなく、洗浄剤なし、または弱酸性やアミノ酸系の(これは、あまり泡が立たない)洗浄剤でさっと、洗うだけでいい。「発泡成分が少ないと本当に泡が立たず、慣れるまでは心もとないかもしれませんが、汚れを取るには十分ですし、何より肌が喜びます」と小柳院長。


「3」の洗う湯の温度にも肌の老化を進める落とし穴がある。
寒い季節は特に温かくて気持ちがいいと感じる熱めのお湯で朝の洗顔をする人も多いだろう。しかし熱い湯は皮脂を取り過ぎてしまうため、前述と同じ理由で乾燥を進めてしまいかねない。
洗顔は、体温より低い「ぬるめの湯」で洗うのがポイント。実感として「冷たくない水」というくらいの32℃、33℃くらいの湯温なので、冬場は少々頼りないかもしれないが、しっとり美肌のためにはこれが一番いい。
少し話がそれるが、入浴中にシャワーを直接顔に当てて洗う人も多いだろう。冬は特にシャワーの湯温を高めに設定することが多いが、こちらにも注意が必要だ。もちろん熱い湯を使うことによる乾燥は顔だけでなく、全身でも同様に進んでしまう。だから、お風呂から上がったらのんびりとくつろぐ前に、まず顔を含め、全身の保湿を徹底する。これが風呂上がりの肌の乾燥リスクを抑える基本ケアだ。
実際、小柳院長も入浴後には顔だけでなく、全身保湿を徹底して実践しているという。「全身の保湿ケアをできるだけ面倒に感じないよう、家のあちこちに意図的にボディークリームを置いて、いつでも気づいたときにボディー保湿ができるよう、工夫しています」(小柳院長)
話を朝の洗顔に戻そう。
「2」の顔をごしごし洗うことの問題は何だろう。
強い力で摩擦すると、肌の一番表面にある角層と呼ばれる、水分の蒸散を防いでいる細胞が無理やりはぎとられてしまい、肌のバリアー機能が低下してしまう。角層の厚さは約0.02mmと食品用ラップほどの薄さだが、これが「アカ」としてはがれ落ちる前に肌のガード役として働いてくれている。
肌の細胞は、奥の層から徐々に外側に向かって、新しい細胞に生まれ変わっていて(ターンオーバー)、一番外側にある角層も十分に下の細胞が成長したら、自然とアカとなってはがれ落ちる。しかし、ごしごし洗いなどで早くはがすことで、未熟な細胞が、一番外側に押し出されてしまう。角層が作られる過程で、肌を守る保湿因子や脂質などの保湿成分生み出されるが、未熟な細胞だとこうした保湿成分の産生力が十分でないため、肌の乾燥やくすみが進んでしまう。
そして「4」のタオルの使い方。摩擦に弱い薄い肌が水でぬれた状態になれば、さらにそのダメージが大きいことは分かるはず。だから洗顔は、こする、摩擦するという強い動作を避け、そっと優しく、が基本だ。同じ理由で、洗った後にタオルでごしごしと水分をふき取ったり、拭ったりするのもNG。「タオルを肌に当てて、そーっと水分を吸い取る」ことが大切なのだ。
乾燥は、「見た目の老化」も進めてしまう
肌を老化させる元凶が乾燥だということはお分かりいただけただろう。さらに乾燥は、見た目の老化にも直結する。乾燥した肌ではキメが薄くなり、配列が乱れて、カサカサでくすみや毛穴が目立つ肌になってしまうのだ。
キメとは、生まれつき肌に刻み込まれた凹凸。肌を拡大すると、キルティング加工のようにキメが肌表面を覆っているが、老化のほか、乾燥、摩擦、紫外線などが複合的に重なり、炎症を起こすことで凹凸がだんだん薄くなり、最後にはつるんと突っ張った状態になってしまう。
突っ張った状態は、つるつるして一見きれいなように思えるが、実はそれは違う。キメが細かいと、その凹凸によって光を乱反射させ、肌が美しく見える。写真でいう、いわゆるソフトフォーカス効果だ。だが、「キメがなくなると毛穴も、ニキビもクリアに見えてしまい、肌の老化が強調されてしまう」(小柳院長)。こうした面からも、乾燥は老化の大敵なのだ。

スキンケア習慣の中で朝の洗顔一つを取り上げただけでも、このように多くの思い込みや間違いが潜んでいる。夜の洗顔、紫外線対策、保湿の仕方など、ほかの美容の基本習慣の中にも、チェックして見直したい項目はたくさんある。
2016年12月に発売した書籍『美肌の王道』(日経BP社刊)では、小柳院長が日々実践している方法をさらに詳しく紹介している。よかったら手に取っていただきたい。
美容も健康も、毎日の生活と密接に関係し、日々積み重ねることだけに、エビデンスのある正しい情報をいかに得るかどうか、で結果が違ってくる。何より「ウエルエイジング」を目指して、働く女性の代表である小柳院長自らが日々実践している方法が紹介されているので、安心して取り組みやすいだろう。
小柳院長の持論は「肌をケアすることは、幸せスパイラルの入り口」。その意味は、自分の肌を大切にケアしてきれいになれば、自分に自信が持てるようになり、人生に積極的になれる。そうすると人も集まってくるし、自分ももっと前向きになり、さらにきれいになろうとケアを続けるようになる、というわけ。スキンケアは今日からできて、簡単に気分を上げられる生活習慣。こうした視点でスキンケアと付き合うことこそが、幸せスパイラルに入るための「美肌の王道」なのだ。

日経BPヒット総合研究所主任研究員。90年、日経BP社入社。『日経レストラン』『日経ベンチャー』などの記者を経て、2000年より『日経ヘルス』編集部。その後『日経ヘルスプルミエ』編集部 編集委員など。女性の健康、予防分野の中で、主に女性医療分野を中心に取材活動を行う。女性の健康とワーク・ライフ・バランス推進員。共著に『女性ホルモンの教科書』(日経BP社)がある。
日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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