最新医学研究で判明 ストレスが肌状態を左右する

「肌は心の状態を映す鏡」といわれるほど、ストレスの影響を受けやすい。ストレスはニキビ、シミなど多くの肌トラブルの発生と悪化にかかわることが国内外の研究で明らかになっている。そのメカニズムとともに、ストレスから肌を守るのに役立つ最新研究をレポートする。
ストレスホルモンの影響でニキビや肝班にも
ストレスが多いと肌トラブルが生じやすいことは古くから知られ、現在も続々と報告がある。
男女422人を対象にした米国の研究では、ストレス度が高い人は肌がかゆくなる掻痒症(そうようしょう)が多かった。フランスの研究では、ニキビがストレスの感じやすさと関連することが確かめられている。また、ブラジルの研究では、シミの一種の肝斑は不安な傾向と関連があり、ストレスフルな出来事の後の発生が4~7%の人に、悪化が26%に見られたと報告されている。


これらの肌トラブルはすべてCRH(コルチコトロピン放出ホルモン)を筆頭に次々放出される一連のストレスホルモンの影響によると考えられている。
例えばニキビは、CRHが誘導したMSH(メラノサイト刺激ホルモン)が皮脂を作る脂腺細胞を活性化するとともにCRHが炎症を生じさせた結果だ。一方、肝斑はMSHとその仲間のACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、CRHに活性化された交感神経が放出するアドレナリンの3つがメラノサイト(メラニン形成細胞)を活性化し色素沈着を促進したためと考えられている。
慢性ストレスが肌老化を進めることも判明。マウスを28日間ストレス状態に置いた実験で活性酸素による肌の酸化ストレスが増加。真皮のI型コラーゲンが減り、シワが増えたと報告されている。


(データ:Acta Derm Venereol;93,387-393,2013)
十分な睡眠、リラクゼーション、瞑想が肌の回復を促す
ストレスによる肌トラブルの予防・改善策としてまず挙げられるのが十分な睡眠をとることだ。米国女性60人を対象に、角層をセロハンテープではがす「テープストリッピング」により増加する経皮水分蒸散量が時間経過とともに回復する様子を調べた研究で、質・量ともに良好な睡眠がとれている人は肌のバリア機能が高いことがわかっている。よく眠れている女性は紫外線照射後の肌の回復やエイジングスコアにおいても睡眠に問題がある人より優れていたという。

睡眠が障害される睡眠時無呼吸症候群を治療して、よく眠れるようにすると、見た目が若返ることを確かめた研究もある。
ストレスを柔軟に受け止める態勢をつくる行動療法や精神療法も有効だ。心身の緊張をゆるめる筋弛緩法をテープストリッピングの前または後に20分間行った研究で、どちらのタイミングで行ってもその後のバリア機能回復率が高まることが確認されている。

腹腔鏡での胆のう摘出手術を控えた患者に手術前の3日間と術後7日間、1回45分間の精神療法を行うとともに自宅でリラクゼーションCDを聴くよう指導した研究では、患者のストレスが減り、術後の傷の治りが良くなったという。
呼吸と体の感覚に意識を集中させる瞑想の一種マインドフルネストレーニングを行い、ストレス下で肌に炎症を引き起こすクリームを塗布した研究では、炎症のサインである赤みの出現が抑えられた。

この研究グループは、インドの瞑想法ヴィッパッサーナなどに習熟した人と瞑想未経験者を比較した同様の研究を2016年にも発表。瞑想熟練者はストレス下で刺激のあるクリームを塗っても肌の赤みが出にくいことを再確認している。「心頭滅却すれば火もまた涼し」を実証したかのような研究成果だ。
アトピー性皮膚炎患者に自律訓練法、認知行動療法などのストレスマネジメントを行った8試験を分析した研究も、症状軽減やひっかき行動の抑制に効果があったと報告している。
(ライター 小林真美子)
[日経ヘルス 2016年10月号の記事を再構成]
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