口腔ケアで健康長寿 歯周病対策も早めに
「食べる力」機能別にチェック

「まずすぼめて『うー』と言ってください。次は『いー』。大きくはっきりやるのがコツですよ」。東京都墨田区が2月に開いた高齢者向けの口腔ケアの講演会。講師の歯科衛生士の指示に参加者は熱心に鏡を見つめながら口を動かした。
講師を務めたライオン歯科衛生研究所の小川清夏さんによると、口腔機能を高めるには、口の周りの筋力、かむ力、飲み込む力、口の清潔度を高めることが重要だそうだ。「まずどの機能が落ちているのかチェックして、それに応じたケアをすると効果的」
例えば、固いものが食べにくくなった人はかむ力が落ちている可能性があるため30回以上かむといい。「最初の5口だけは30回かむなど、続けられる範囲でやればいい」(小川さん)。かみごたえのある根菜を多く取り入れたり、食材を大きめに切ったりすることもかむ回数を増やすコツだ。
口臭が気になる人は清潔度が落ちているかもしれない。歯ブラシを歯に真っすぐあて軽い力で小刻みに磨く。歯間ブラシを使うのもよい。入れ歯の場合は洗浄剤を使う前と後にブラシで掃除するのがポイントだ。

啓発サイトも
詳しく知りたい人には訪問歯科診療支援のデンタルサポート(千葉市)が運営するサイト「はじめよう!やってみよう!口腔ケア」も役立つ。介護職向けの普及啓発のため立ち上げたサイトで登録会員には歯科関係者が多いそうだ。わかりやすく解説されているので理解しやすい。

口の健康を保つと、ご飯をおいしく食べられたり楽しく会話ができたりして社交的、活動的な生活につながる。それだけでなく、食べ物が気管支などに誤って入る誤嚥(ごえん)性肺炎を予防できるといった効果もある。一方、歯の周りに炎症が起きる歯周病は糖尿病や心臓病、肥満などさまざまな全身疾患と関連があるといわれている。歯周病の菌は血液に侵入して増殖するため、血流に乗って全身に病気を起こす危険があるのだという。
「口腔機能の維持にはそもそも健康な生活習慣が大事」。東京医科歯科大学の遠藤圭子准教授はそう指摘する。歯だけ磨いていればいいわけでないという、耳の痛い話だ。遠藤准教授は「年齢にかかわらず、歯磨きなどのセルフケア、バランスの良い食事、定期的な健診がポイント」とする。
定期的に健診を
急に生活習慣を変えるのは難しいが、今何かしようと思い立った人には歯科健診がおすすめ。「誕生日などに受診すると自分で決めてしまうとよい」(遠藤准教授)。ただ、純粋な予防のための受診だと私費になってしまうため自治体が実施する健診を利用するのも手だ。土曜に開催する自治体も増えているという。
神戸製鋼所の健康管理センターで歯科医長を務める大山篤さんも定期的な受診を強く勧める。大山さんらがインターネットで一般の退職者に実施した調査では自分の健康で後悔していること(複数回答)は「歯の定期健診を受ければよかった」が33%で最多。「たばこをやめればよかった」(22%)などを引き離した。
大山さんは「退職前後に歯を悪くしてから歯の大切さに気付く人も多い。手の施しようがあるうちに受診を」と訴える。
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通院できない高齢者は 訪問診療も選択肢
介護が必要になり自分で口のケアがうまくできなくなったらどうしたらいいだろうか。デンタルサポートのベテラン歯科衛生士、城明妙さんは「通院できなくても来てくれる先生がいることを知ってほしい」と訴える。
訪問診療を手掛ける歯科医はまだ少なく、東京都内で全体の1割程度。診療できる内容も備えている機材などによって異なるので、まずはケアマネジャーと相談してみるとよい。口の中の状態は家族でも気付きにくいものだ。むせたり食べるのが遅くなっていたら、入れ歯が合っていないことが原因かもしれない。
患者が嫌がり口を開けない場合も多いそうだが、ケアの効果を誰よりも実感するのも本人。「口の中、気持ちいいね」「ごはんがおいしくなったよ」。城さんにはこんな声が多く寄せられているという。
(竹本恵)
[日本経済新聞夕刊2016年3月3日付]
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