不調の原因、体内時計の乱れ 起床後の食事でリセット

私たちの体に備わる「体内時計」のリズムの乱れは、心身に様々な不調を引き起こす。その要因の一つとなるのが、不規則な食事だ。「いつ、何を、どれくらい食べるか」を意識した食習慣を身につけたい。
ヒトの体には1日のリズムを刻む「体内時計」が備わっている。体内時計は睡眠、体温、血圧、ホルモン分泌といった生理機能を制御する役割を担っている。
体内時計は脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部分にある「主時計」と、内臓や筋肉など全身の組織に存在する「副時計」がある。1日24時間周期で生活をしているが、体内時計の周期はそれよりも少し長い。そこで、毎日リセットして、24時間周期に合わせる必要がある。この調整を行っているのが、光と食事による刺激だ。
脳の主時計は、起床後に目の網膜を通して光を感知するとリセットされる。同時に、全身の副時計にもリセットするように指令を出す。一方、副時計は起床後に食事をすることでもリセットされることが分かってきた。体内時計を基に「いつ、何を、どれだけ食べるか」を考える時間栄養学の研究が進んだ成果だ。

早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信教授は「体内時計の乱れは肥満や睡眠障害、抑うつ、アレルギー疾患、がんのリスクを高めることも分かってきている」と話す。柴田教授らの研究グループが食事管理アプリ「あすけん」の利用者約3万人に、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛中の生活習慣の変化を調べてみたところ、「遅寝・遅起きになり生活リズムが夜型化した人は、体重が増加し、睡眠の質も低下する傾向が見られた」(柴田教授)という。

体内時計を整えるには、起床後1時間以内に食事をとることが重要だ。「朝食(ブレックファースト)は本来、睡眠中の断食を破る最初の食事を意味する」(柴田教授)もの。起床後の食事を抜くと、副時計はその後にとる食事を1日の始まりと認識するため、脳の主時計とズレが生じて、体が時差ボケの状態になってしまう。
時間栄養学に基づく食事・睡眠指導を行う古谷彰子さんは、「食事はその人の活動時間に合わせて朝・昼・夜と3食とり、朝は体内時計を動かす食材を、夜は動かしにくい食材を選ぶといい」と助言する。体内時計の動かしやすさは、血糖値の上げやすさと捉えると分かりやすい。
朝食は活動を始める2~3時間前にとる。仕事を9時に始める人なら6~7時だ。米やパンなど穀類(糖質)とたんぱく質を中心に。和食ならご飯に焼き魚、豆腐の味噌汁、洋食ならツナやチキンのサンドイッチ、ヨーグルトなどを組み合わせるといい。「卵かけご飯、パンとチーズに牛乳など、簡単なものでも構わない。まずは食べることが大事」(古谷さん)

夕食は朝食から逆算して10時間は空ける。かつ、就寝の2~3時間前に済ませたい。仕事を朝9時に始める場合は夜9時までだ。糖質は控えて、根菜やきのこ類などの食物繊維を中心にとる。主食にご飯を食べたい場合は量を減らす。「ジャガイモなどのイモ類のでんぷんは体内時計を動かしにくい。夜の主食代わりにおすすめ」(古谷さん)
昼食は朝食と夕食の間に、好きなものを野菜と一緒にバランスよく食べる。
食事の量は朝・昼・夜が4・3・3の比率になるバランスが理想的だ。「多くの人は2・3・5になっている。せめて3・3・4にしたい」(古谷さん)
生活リズムや食生活が乱れがちな人は、起床後に食べる習慣をつけ、体内時計をしっかりリセットすることから改善してみるといいだろう。
(ライター 田村知子)
[NIKKEIプラス1 2020年10月31日付]
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