立ってデスクワークしてみた 30分のうち数分でも効く


"痛勤"ラッシュから解放され、在宅勤務の快適さを実感した人は多い。一方で座ったままの姿勢で腰痛などに悩まされる人も。注目を集める"立ち仕事"を記者(29)が体験してみた。
立ち仕事が注目を集めるのは、「座り続けることが健康に良くない」からでもある。早稲田大学教授の岡浩一朗さんによると、人間の筋肉の約7割が下半身に集中し、座り続けると下肢の筋肉が衰える。糖や脂肪などの代謝が落ち、肥満や血糖値の上昇につながるという。
また、ふくらはぎの筋肉などが衰えると下半身の血液を上半身に戻す血管に負荷がかかり、高血圧などになりやすい。「一日単位では大したことがなくても、何年間も続くと健康を損なうリスクが高まる」(岡さん)
同じ姿勢で座り続けると、肩こりや腰痛にもなりやすい。こうした短期的な身体への負担は在宅勤務で記者も実感していた。
では、どれくらいの頻度で立ち仕事をすればいいのか。岡さんは「まずは定期的に立つことを習慣化することが大切で、30分の間に数分立つ時間をつくるだけでも効果は大きい」と指摘する。目安として、仕事の4分の1の時間を立ってするといいそうだ。
岡さんのアドバイスをもとに約1週間試してみた。45分間の座り仕事と15分間の立ち仕事を繰り返した。運動不足が続いていたためか、初日は足の甲やかかとに疲れがたまった。3日もたつと、立ち仕事に慣れて30分以上続けても苦にならなくなった。

仕事の効率アップにもつながった。座り仕事の時間は取材テーマの検討や記事の構成、執筆などじっくり取り組みたい仕事に充てた。一方、立っている時間は上司や同僚とのメールや電話など要領よく進めたい仕事をこなした。制限時間を意識することで、いつも以上にメリハリをつけた仕事ができたと実感した。
立ち仕事でも、目線の高さを変えることで進捗状況が変わった。資料を見比べる作業などは、広い視野で見られる腰の高さの机に書類を置いた。パソコンと"にらめっこ"するときは目線の高さに持ち上げるなど立ち仕事に変化を加えた。10日間続けると、朝の寝覚めが良くなったほか、首や肩腰など上半身の疲れも軽減された。
もっとも単純に立つだけだが、仕事の内容で場所を変えたり、ノートタイプのパソコンを持ったりするのは手間がかかる。そこで"援軍"になるのが昇降式のデスク。お笑いコンビ、オードリーの若林正恭さんが、昇降机を購入してネタ作りなどに利用しているとインスタグラムに投稿するなど注目されている。通販サイトなどでは1万円以下で購入できる製品もある。

オフィスでの利用が広がっているのが、オカムラの電動昇降デスク「スイフト」。楽天など全社的に導入している企業もある。会議室や作業場所を共有するコワーキングスペース運営のコミュニティコム(さいたま市)社長の星野邦敏さんも愛用者の一人。「長時間パソコン作業をしても疲れにくいなど、メリットを実感している」(星野さん)
昇降机を新たに置くスペースがない場合は、高さを調節する簡易デスクを利用する手もある。オランダメーカーの製品で日本ポステック(東京・渋谷)などが販売する「レビテイト」は、使わないときは畳める。記者も買ってみて活用できた。


昇降式デスクと親和性の高いイスも登場している。プロダクトマーケッティングサービス(福岡市)は身体の傾きを容易に変えられる「バランスシナジー」を販売。身体を常に動かしている状態になるため腰痛などになりにくく、立ち仕事と組み合わせることで身体の負担が減るという。
立ちながらのデスクワークは、北欧など海外では日常的な光景だ。日本では立った状態での仕事は横着と見る風潮があるのかもしれない。一度トライしてみてはいかが?
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学校や塾でも立って学ぶ時間
立ち仕事のハードルとなるのは、じっと座っていることが美徳とされる慣習かもしれない。自らを振り返ると小学校のころからじっと座って学ぶよう訓練されてきた。

だが、教育現場でも立って学ぶ時間を取り入れる学校や塾が登場している。千葉大学教育学部付属中学校は、オカムラの学校向け昇降机を導入。コロナ禍が落ち着いたら、アクティブラーニングをできる教室を整備し昇降机を設置する計画だ。副校長の三宅健次さんは「子供たちが主体的に対話しながら学ぶときにはスタンディングデスクが効果的」と話す。
オカムラが大学などと連携した研究では、子供の集中力向上につながったという。子供のころから姿勢をこまめに変える習慣がつくと、日本人の健康増進などにもつながるかもしれない。
(荒牧寛人)
[NIKKEIプラス1 2020年6月27日付]
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