1日1回は口内をリセット 歯磨きの常識を見直そう
回数より歯垢除去/歯磨き剤は十分な量を

「毎食後の歯磨きを」「歯が削られるから歯磨き剤は少なめに」――。歯磨きの常識とされてきたことが、必ずしもそうではないとわかってきた。虫歯や歯周病の予防に効果的な歯磨きのポイントを知っておこう。
日本人は歯磨き好きだ。厚生労働省の2016年歯科疾患実態調査によると、調査を受けた人の95%が歯を毎日磨き、77%は1日2回以上磨いている。にもかかわらず、65歳以上の人の虫歯は増加し、歯周病の指標となる「4ミリメートル以上の歯周ポケット」がある人も年々増えていた。
歯をしっかり磨いているのに虫歯や歯周病が増えている一因は、日々の歯磨きの方法にある。東京医科歯科大学大学院口腔(こうくう)疾患予防学分野の品田佳世子教授は「磨いているのと磨けているのは違う。こまめに歯磨きしているからと安心し、磨き残しが蓄積している人が少なくない」と指摘する。
不適切な方法で同じ箇所ばかり磨くと、歯と歯茎を覆うエナメル質の薄い部分が削れて中のセメント質がむき出しになる。虫歯や歯がしみる知覚過敏を起こすこともある。
「歯周病や虫歯を防ぐための歯磨きで肝心なのは回数ではない。1日1回は歯と歯の間や歯と歯茎の境目にある歯垢(しこう)を丁寧に落として、口の中をリセットすることが必要」と品田教授は強調する。歯垢の中で虫歯や歯周病の原因となる細菌が増えるのに約24時間かかるからだ。
食事に含まれる酸で歯の表面が溶けるため、食後すぐの歯磨きは避けた方がいいとの報告もある。しかし鶴見大学名誉教授の桃井保子氏は「唾液には溶けた歯面を修復する作用がある。普通に唾液が出る人は気にしすぎる必要はない」と指摘する。ただ、「唾液が少ない人は、酸味の強い食事をした後すぐの歯磨きは控えた方がよい」。

力を入れすぎないのも大事。「手の爪の生え際の部分で歯ブラシを動かして、痛くない程度の力にする」(品田教授)。歯ブラシをペンのように持つと磨きやすい。
歯垢をしっかり落とすために重要なのが、デンタルフロスや歯間ブラシなどの歯間清掃用具だ。歯ブラシのみで落とせるのは歯垢の約6割。フロスや歯間ブラシを併用すれば、8割ほど落とせる。
フロスを使うときは、「歯と歯茎の境目にフロスを入れ、中の歯垢をかき取ることが大切」(桃井氏)。歯と歯の間にフロスをジグザグ動かして通す。歯茎に到達したら、スッと進む範囲で、歯と歯茎の間までフロスを入れる。
次に、フロスを歯の表面に沿わせて歯垢をこすりとる。一連の動作を、フロスを入れた歯間の両側にある歯で繰り返そう。
歯磨き剤は歯を削るので少なめに使うよう勧められたことがある。桃井氏によると、最近の歯磨き剤に含まれる研磨剤が、通常の歯磨きで歯を削ることはないという。「フッ素(フッ化物)など歯磨き剤の薬用成分の効果を得るためには、十分な量を使った方がいい」と勧める。
フッ素には溶けたエナメル質を早く元に戻して歯質を強くし、歯垢の中で細菌が増えるのを抑える作用がある。それらの効果を得るには、15歳以上で約2センチメートルの長さの歯磨き剤が必要。歯質が未熟な子供は、高濃度のフッ素で歯の変形などが起こるので減らす。
歯磨き剤の効果を高めるコツもある。「歯全体に歯磨き剤を塗り広げてから歯を磨き、歯磨き剤を吐き出した後は少量の水で1回うがいする。その後は1~2時間飲食をしない」(品田教授)。夜寝る前に実践しやすい。
適切な歯磨きを毎日の習慣に取り入れて、歯と口の機能を維持しよう。
(ライター 武田京子)
[NIKKEIプラス1 2019年4月20日付]
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