生活習慣病治療の支援アプリ続々 血圧など手軽に記録
生活習慣病の治療や予防を支援するスマートフォン(スマホ)のアプリが増えている。高血圧症や糖尿病の患者が日々の血圧や血糖値を測定してアプリに入力。手軽に記録を続けられる。医師や専門職がつぶさに把握することで、適切な薬の処方や、きめ細かい健康指導につながる。医療機器の一種として保険適用を目指す動きも出てきた。

「朝晩の血圧は毎日パソコンで記録していたが、スマホアプリで簡単になった」。高血圧症を治療中の川崎市の会社員、村田恭夫さん(58)はこう語る。
使っているのは健康管理アプリのWelby(ウェルビー、東京・中央、比木武社長)が開発した、Welbyマイカルテ。かかりつけ医のはとりクリニック(同市)から薦められた。
医師に提供するために、これまでパソコンに記録したデータから数十分かけてグラフを作成していたが、アプリなら瞬時にグラフにできる。体重も記録でき、高血圧の改善につながるよう、これまで以上に食事に気を配るようになった。
日々の記録は医療機関も共有する。はとりクリニックは1年前にアプリを導入し、50人ほどの患者が使っている。各患者が記録した血圧値などは医師もパソコンで確認できる。
羽鳥裕院長は「高血圧の患者の通院頻度は3カ月に1度。アプリで患者の状態をこまめに把握できる」と話す。高血圧症の患者への薬の処方を減らしたうえで「血圧がピークの期間だけ追加で服薬してもらうといったきめ細かい診療につながる」という。
このアプリではスマホで撮影した食事の画像も記録できる。糖尿病患者にとっては血糖値のコントロールは重要で、食事療法は欠かせない。アプリを通じて管理栄養士が患者の日々の食事内容をチェックし、指導に生かす事例もある。
調剤薬局大手の日本調剤は、服用した薬などを記録するお薬手帳アプリ「お薬手帳プラス」を開発。会員数は30万人超で、紙のお薬手帳の機能に加え、血圧や血糖値なども記録できるのが特長だ。
服薬の履歴に加え、日々の血糖値や血圧の推移といった情報を患者から得られれば、医師から処方された薬や用量が適切か、薬のプロの目線で確認しやすくなる。

「たばこを吸いたい衝動は薬だけでは抑えられない」と話すのは東京都台東区に住む男性会社員(45)。喫煙には決まった場所や時間などで吸いたくなる「心理的依存」があるためだ。
禁煙は数年前にも挑戦したが1カ月で断念。今回は1年以上続いている。ニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」の効果だ。男性は2017年10月から始まったこのアプリの治験に参加。アプリを通じて「たばこを吸いたくなったらガムをかみましょう」といったアドバイスを受けたという。男性は「心理的依存をアプリで克服できた」と話す。
アプリを開発したのが医師でもある佐竹晃太社長が立ち上げたスタートアップ、キュア・アップ(東京・中央)。佐竹社長は「アプリを通じて患者に応じたアドバイスを出し、心理的にフォローする」と話す。単なる励ましではなく、禁煙治療を担う医師の知識やエビデンスに基づき介入する仕組みだという。
同社は18年12月でアプリの治験を終えた。医療機器として販売するための承認を申請する方針で、20年春の保険適用を目指している。禁煙治療を始めてから半年後の禁煙継続率は平均で約40%。アプリを使うことで60%にまで高めることが期待できるという。
治療や予防を支援するアプリを活用する最大のメリットは、医師や専門職による患者への介入を増やせる点にある。次の通院までの空白期間を埋めることができるうえ、患者の状態をこまめに把握することで医療の質も高める。佐竹社長によると、生活習慣病だけでなく、鬱病などの精神疾患やがんなどでもアプリを活用した治療法が出てきている。「アプリは薬剤、医療機器に次ぐ第3のツールになるはずだ」と話す。
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根気続かず1割治療中断 自己管理の支援不可欠
生活習慣の改善には根気が要る。糖尿病は患者とその予備軍を合わせて約2千万人。自覚症状が少なく治療への意欲を失いやすいため、厚生労働省の研究班の調査では患者の約1割が治療を中断してしまう。
健康保険組合などが40~74歳までの被保険者を対象に実施する特定健診(メタボ健診)の受診率は5割強。メタボリック症候群などと判定された人のうち、実際に生活習慣の改善を促される特定保健指導を最後まで受けた人の割合は2割にも満たない。政府が掲げる2023年度までに45%という目標は遠い。
生活習慣病を治療したり予防したりするには、医師や専門職による介入だけでは不十分と言えそう。スマホアプリなど自己管理を支援するツールが役立つ余地は大きい。
(新井惇太郎)
[日本経済新聞夕刊2019年1月30日付]
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