ヘルプマーク知ってる? 外見で分からぬ「つらさ」
病状記載の「カード」も郵送・ネットで入手可能
難病や妊娠初期、精神疾患、人工関節など、外見では分からなくても援助が必要なことを表す「ヘルプマーク」と病状を詳しく記載する「ヘルプカード」。2012年から東京都が始めた取り組みは全国32都道府県に広がり、独自のデザインを配布する民間団体も出てきた。郵送やダウンロードで入手できるようになったが、まだ知らない人も少なくない。
「ヘルプマーク」は赤地に白い十字とハートマークのついた数センチ四方のカード。かばんなど見えるところにつける。身に着けている人には電車やバスで席を譲ったり、困っていたら声をかけたり、といった配慮を求めるものだ。

「ヘルプカード」は同様の意匠をつけた紙のカード。裏面には血液型や病状などを詳しく書き込め、倒れたときや病院への搬送時など周囲に病状を簡単に伝えられる。
普及に取り組むボランティア団体「全国ヘルプマーク普及ネットワーク」の代表、渋谷みち代さん(56)は自身も肺動脈性肺高血圧症という難病患者。人工呼吸器を手放せず、介助なしでは外出もできない。2年前に介助してくれたボランティアが精神疾患のためにヘルプマークをつけており、初めて知ったという。
「私も使ってみたい」と思ったが、当時はヘルプマークを郵送してくれる自治体は少なく、階段の上り下りが必要な地下鉄の駅や自宅から遠い役所の窓口まで行かなければならなかった。渋谷さんは「簡単に手に入れられる方法を作りたい」と普及ネットワークを立ち上げたという。
16年にウェブサイトを作って協力を呼びかけ、ヘルプマークの郵送サービスを始めた。寝たきり生活のなか、タブレット端末を使ってこつこつデザインしたオリジナルのヘルプカードを作成し、自由にダウンロードもできるようにした。印刷して折り畳めば手帳のように使える形式は特許も取得した。
「さまざまな地域や病状の人に届けたい」とまずは「ひこにゃん」や「くまモン」など各地のゆるキャラをデザインに取り入れたヘルプカードを作成。キャラクターものだけでなく、18年6月の大阪北部地震の際には障害を持つ避難者向けのカードも作成している。選べるデザインは現在、計40種類に増えた。
もともとヘルプマークとヘルプカードは東京都が12年から作成しているもの。人工関節をつけた都議会議員からの「統一的なマークを作ってほしい」という提案だったという。電車やバス内での配慮を求め、障害を持つ本人に限って都営地下鉄やバスの各駅、病院などで、約22万枚を配布してきた。
デザインの著作権は都が持つが、大きさなど一定のガイドラインに従って申請すれば、誰でも自由に作成、配布していいことにした。「普及ネットワーク」のような民間団体から、全国の自治体まで独自の取り組みをする団体は多い。
18年9月時点でヘルプマークは32の都道府県が配布しており、ヘルプカードは群馬県以外でオリジナルのデザインのものを入手可能だ。多くの自治体のウェブサイトからダウンロードできるようになり、ヘルプマークを郵送してくれるところも増えている。
課題は営利目的の利用だ。都の担当者は「あくまで無償なので、営利目的の利用は断っている。当事者以外への配布も控えて」とする。だが転売もあり、「オークションサイトの運営者と協議し、見かけるたびに削除をお願いしている」とするが、今も出品が確認できるサイトもある。
自身も透析患者の北海道腎臓病患者連絡協議会の苣木(ちさき)芳三事務局長(71)は毎日、かばんにヘルプマークとヘルプカードをつけて地下鉄で通勤している。札幌市内では約3万枚の配布にとどまるが、席を譲ってくれる人が増えてきたと感じている。
苣木さんは「多くの当事者にこのマークを使ってもらえれば、見えない障害への理解が広がるのではないか」と期待を込めている。
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認知度は半数以下 障害者、利用率も低迷
ゼネラルパートナーズ障がい者総合研究所の調査によると、ヘルプマークを知っている人のうち、利用したことのある障害者は22%にとどまる。「知っている」と回答した人も半数以下で、特に首都圏以外では少ない。障害を持つ当事者のヘルプマークの認知度や利用率の低さが浮き彫りになっている。
ヘルプマークが日本工業規格(JIS)に登録されたことを受け、同研究所が17年7月、障害者379人に対してアンケート調査をしたもの。
知っていると答えた人でも「利用したいと思わない」との回答が37%あった。理由として「利用時の周囲の反応が気になる」「認知不足で役に立たない」との回答が多く挙げられた。
同研究所は「ヘルプマークの認知を向上させるだけでなく、障害者に対する社会全体のまなざしも変えていく必要がある」と分析している。
(鈴木卓郎)
[日本経済新聞夕刊2018年11月7日付]
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