時間栄養学で判明 3食の理想の比率は「3・3・4」

年齢や運動量にあったカロリーと、バランスのよい栄養の摂取を心がける人は増えてきた。さらに最近、いつ何をどのように食べるのがより健康によいのかを調べる研究が活発になっている。生体のリズムを調整する体内時計の働きに着目した「時間栄養学」の考え方が広まってきたからだ。最新の成果から、どんな食べ方が体によいと分かってきたのだろうか。

女子栄養大学の香川靖雄副学長は、生体のリズムを生む時計遺伝子の研究をもとに時間栄養学を早くから唱えてきた。「健康に一番よい食べ方は何か」と聞かれると、必ず「毎日朝食をとること」と答えている。
理由は明確だ。体内時計の周期は約25時間で24時間より少し長く、朝の日光を浴びてリセットしている。目覚める前に覚醒を促すホルモンが出て体温が上昇し、カロリーと栄養をとろうと内臓などの働きが徐々に活発になる。朝食は日光とともに一連の活動を支えリズムを整える。香川副学長は「朝食をとらない人はとった人に比べ、勉強や運動の効率が悪くなりがち」と強調する。
朝食を抜いても違いは無い――。そう考えている人に対し、香川副学長は「食べる習慣を身につけると、本人が違いに気付く」と説得する。
朝食をとらない生活を続けると、生活習慣病にかかりやすくなることも分かってきた。米国の追跡調査では、毎日朝食をとる人は朝食を週に3回までしかとらない人に比べ、糖尿病を発症するリスクが2割ほど低い結果が出た。朝食を抜くと1日の血糖値の上下動が激しくなり、調節機能が徐々に低下する原因が考えられている。
神奈川県厚木保健福祉事務所は新入社員や大学生に向け「朝食を必ずとろう」と呼びかける。分かりやすいパンフレットをホームページで紹介する。保健福祉課の栗原幸子主査は「まず1品から。食べるきっかけを作りたい」と話す。
これまで生活習慣病の予防に力を入れてきたが「若い時から心がけていればよかった」との意見が多く届き、朝食の重要性に目をつけた。文部科学省が2006年度に「早寝早起き朝ごはん」運動を始め、小中学校で朝食をとる生徒の割合が増えた。継続して訴えていくという。

次に、3食の比率はどうすればよいだろうか。時間栄養学的にはカロリー比で朝昼晩を3・3・4にするのが適切なようだ。
昼食は短時間で軽く済ませてしまいがち。それでも構わないが、早稲田大学の柴田重信教授は「晩の高カロリーな食事はできるだけ避けよう」と説いている。
体は夜間の方が栄養をよく蓄積する。昔から「夜食は肥満のもと」といわれる原因だ。朝食に比重を置くためにも遅い時間帯の食事は禁物で、朝食と晩ご飯は12時間以内に収めるのが目安だ。晩の比率を高くしないよう早めの時間帯に分けて食べる方法もある。

接待や会食などがあると毎日規則正しい生活をおくれるとは限らない。しかし柴田教授は「1~2日ならあまり心配しなくてもいい」と話す。
海外旅行で時差が気にならなくなるように体内時計は1週間程度の時間をかければ調整可能だ。逆にいえば1~2日のリズムの乱れは、もとの生活に戻せば解消できる。運動も生体リズムの調整に役立つ。うまく組み合わせるとよいだろう。
夜間の警備など時間帯がずれた人も、そのリズムに合わせた食事をすればよい。問題は断続的に時間帯が移動するシフト勤務だ。柴田教授は「なくす社会にしていくべきだ」と訴えている。
住民の健康を追跡する世界各地の調査と動物実験などから、同じ栄養やカロリーを摂取しても、時間帯の違いで健康に差が出ることが分かってきた。糖尿病など生活習慣病の発症リスクを左右する要因とみられ、食事指導にも考え方が取り入れられるようになった。
(編集委員 永田好生)
[日本経済新聞夕刊2017年5月11日付]
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