「休んでもだるい」 多い感染症、不眠はうつ病疑え
「ただの疲れ」以上なら総合診療科へ

体がだるい――。休養しても回復しない疲労感や倦怠(けんたい)感は、深刻な病気の前触れや症状の1つかもしれない。「だるさ」はほとんどの病気で感じるだけに、それだけで原因を特定するのは難しい。適切な治療のためには他に症状はないかよく考え、診療科を選びたい。総合診療医に見極め方を聞いた。
だるくて仕方ないとか体が重いという経験は誰にでもあるだろう。睡眠不足や過労など、思い当たる生活習慣の乱れがあれば心配無用だ。しっかり休養すれば回復する。でも、いくら休んでも疲れが取れなければ、何らかの病気が潜んでいる可能性がある。医師の診察や検査が必要になる。
千葉大学医学部付属病院・総合診療科の生坂政臣教授は「だるさを訴える人には、まず、不眠かどうかを尋ねる」と話す。寝付きが悪かったり、夜中に頻繁に目が覚めたり、必要以上に朝早く起きたりする場合は「うつ病を疑う」という。

ほかにうつ病の特徴としては「抑うつ気分がずっと続き、趣味を楽しんだり、飲みに行ったり、という気分転換ができなくなる」と大阪医科大学付属病院・総合診療科の鈴木富雄教授。
だるいと一口に言っても、うつ病のように精神的なものだけではない。体の臓器や器官の病変が引き起こす倦怠感を忘れてはいけない。
免疫反応の結果
圧倒的に多いのは感染症。風邪やインフルエンザだけでなく急性肝炎や結核にかかると非常にだるくなる。鈴木教授は「細菌やウイルスを排除しようと、サイトカインという物質が体の中に増える。この免疫反応がだるさの原因」と説明する。
実はこのだるさは「エネルギー保持のため備わった体の働き」(鈴木教授)。だるいと、寝るなどして体を休ませ、細菌やウイルスに対抗するためのエネルギーを温存できる。インフルエンザは発熱、急性肝炎は皮膚や白目が黄色くなる黄だん、結核はせきと体重減少、寝汗などを伴う。
ホルモンの異常、いわゆる内分泌系の病気もだるさを生じやすい。代表は甲状腺ホルモン量が多くなりすぎる甲状腺機能亢進(こうしん)症。バセドウ病が知られる。生坂教授は「食欲があるのに痩せてくる。イライラする。手が震える。汗をかきやすい」といった特徴を指摘する。
喉が異常に渇くとか尿量の増加で病気に気づくことが多い糖尿病も、実はだるくなる頻度が高い。膵臓(すいぞう)から出るホルモンのインスリンが少なかったり、うまく働かなかったりで、血液の中のブドウ糖を細胞に取り込んでエネルギー源にできないためだ。
だるさのほかに吐き気や食欲不振が伴うなら、慢性副腎皮質機能低下症が考えられる。左右の腎臓の上にある副腎から分泌するステロイドホルモンが慢性的に少なくなる病気だ。鈴木教授は「副腎機能が衰えると、だるいどころか血圧が下がり、命に関わることもある」と警告する。
全身のさまざまな器官に慢性的に炎症が起きる膠原(こうげん)病もだるさが出る。膠原病とは関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などを総称する。「関節痛や皮膚の湿疹を伴えば、これらの病気を疑う」(鈴木教授)

肺の炎症も注意
だるいうえ、階段を昇るなどで息切れする場合は、心臓か肺の病気かもしれない。全身に血液を送る心臓のポンプ機能、あるいは酸素と二酸化炭素を交換する肺機能が衰えている可能性がある。「下半身にむくみがあれば心臓、咳やたんが出れば肺」(生坂教授)といった症状が出やすい。
「なかでも最近問題視されているのは慢性閉塞性肺疾患(CОPD)」と生坂教授。たばこの煙などを長期間吸うなどで肺に炎症が起きる病気だ。呼吸困難や全身のだるさが続くという。
一方、血液や画像検査でどの臓器や器官にも異常が見つからず、うつ病でもないのに、何もできないほど猛烈にだるい状態が長期に続くという訴えがある。「慢性疲労症候群の可能性が高い」と生坂教授。発症原因が解明されていない厚生労働省の指定疾患だ。
ただの疲れとは思えないだるさが続くようなら、病院の総合診療科などを受診し相談を。深刻な病気のサインを見逃さないようにしよう。がんなど悪性腫瘍は進行するにつれ、だるさが増していくとされる。鈴木教授は「増殖するがん細胞が大量のサイトカインを出すのに加え、臓器の機能不全や栄養不良も引き起こすため」と話す。
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薬の副作用のケースも
だるさを感じるもう1つの原因に薬の副作用がある。「多くの睡眠薬や精神安定剤に含まれているベンゾジアゼピンという成分は、体を非常にだるくする」と鈴木教授。
血圧を下げたり、心臓病を予防したりするのに使われるβ(ベータ)遮断薬も、かなりのだるさをもたらす場合がある。
また鈴木教授は「鼻水などのアレルギー症状や花粉症に有効な抗ヒスタミン薬も、だるさと眠気を感じることが多い」と話す。花粉症だけでもだるいのに、薬の服用により、だるさが増す。
診察を受ける際は、お薬手帳を忘れずに。全身の倦怠感があまりに強い場合は、医師に処方薬の調節を相談したい。
(ライター 松田 亜希子)
[NIKKEIプラス1 2017年1月28日付]
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