まつげの悩み 目元のおしゃれは健康的に
極端に本数少ないなら治療薬も
睫毛とはまつげの医学上の呼び方。まつげは髪の毛の"ミニチュア"のようにも見えるが、実は色々異なる。
まずは毛周期。髪の毛の寿命が5~6年なのに対し、まつげは数カ月と短い。成長と休止を繰り返しているが、髪の毛が9割の時間は成長期で伸び続けるのに対し、まつげの場合は4割。まつげが伸び放題の人がいないのはそのせいだ。
役割は明らかでない点も多いが、目に汗やゴミが入るのや紫外線を防いでいるとされる。もし、全くまつげがないか、極端に短ければ、目の表面が傷つきやすくなる。
本数や長さに差
一般的に上まぶたが90~160本、下まぶたが75~80本といわれるが、本数も長さも個人差がある。
長くてふさふさしたまつげに憧れる女性は多い。化粧文化研究家の山村博美さんは「女性がまつげにこだわるのは、目の輪郭を強調し、大きく立体的に見せたいから」と説明する。昭和初期には既にマスカラが海外から入ってきていた。

そんな女心の影で、まつげなど目元の美容に関する健康トラブルが増えている。その一つが接着剤で人工毛を自分のまつげに貼り付けるまつげエクステによるもの。エクステの健康障害を調査している、大森町眼科クリニック(東京・大田)の天野由紀院長は「実施者の半数近くに何らかのトラブルを起こしている」と指摘。揮発性の高い接着剤による刺激で目が充血する、アレルギーで目が腫れるなどだ。
エクステが原因とみられる結膜炎も多い。天野院長は「角膜が傷つくなどで一時的に視力が落ちることもある」と話す。まつげをカールさせる化粧道具による金属アレルギーなどのトラブルもある。まつげの健康のためには「何も余計なことをしないことが一番」と専門家は口をそろえる。
ただし一方で、まつげが極端に失われてしまったり、細く薄くなったり、短くなったりする症状に悩む人もいる。睫毛貧毛症と呼ぶ病気で、原因はいくつか挙げられる。
例えば、ある種の抗がん剤による脱毛の副作用だ。頭髪だけでなく、まつげが失われることもある。さらに、細菌感染で起きるトラコーマなどの眼病、甲状腺機能低下症、膠原(こうげん)病や円形脱毛症などの自己免疫病、アレルギーなども原因。抜いてしまう癖がある人もいる。
貧毛症について、2014年3月に国内で唯一の治療薬として、グラッシュビスタ(一般名はビマトプロスト)という薬が発売された。皮膚科を中心に眼科でも処方されている。健康保険は使えず、全額自費診療で、1瓶(5ミリリットル)が約2万円かかる。
まつげが豊かか乏しいか、困るかどうかは主観的な問題。困っていない人があえて増やす必要はないが、ひどく悩んでいる人には治療薬が登場したのは朗報といえる。
上まぶたのつけ根に1日1回塗布、1瓶を1カ月ほどで使い切る。同薬を処方している杏林大学医学部皮膚科学の大山学教授は「抗がん剤の服薬を終えた後でも、抜けたまつげが元通り伸びてこないと真剣に悩んでいる人などには、選択肢の1つとして知っておいてほしい」と話す。
薬の成分は、眼圧を下げる効果があり、もともとは緑内障の目薬として開発された。目薬として使用していた患者のまつげが伸びることが分かり、新たな薬効として承認された。

緑内障見逃さず
このため、まつげを伸ばすために使い続けると眼圧などに影響が出る場合がある。使用中は眼圧が下がり、緑内障だと適切に診断されなくなるリスクがある。また、1割の人でまぶたが黒ずむ症状が出ることも。さらに、大山教授は「円形脱毛症などの病状が落ち着かない時期に用いると、むしろ悪化することもある」と慎重な使用を促す。
貧毛症でなくても、まつげをもっと伸ばしたいなどと単に美容目的に使う女性もいる。自費診療とはいえ、健康を害するのは問題外。リスクがあることを知っておこう。おしゃれもほどほどに。異変を感じたら早めに医療機関を受診するようにしたい。
◇ ◇
逆さまつげ、重症なら手術を
エクステンションのトラブルと並んで受診する人が多いのが、まつ毛が外向きでなく目の側に生えてくる睫毛内反症(逆さまつげ)だという。生まれつきという人もいれば、加齢に伴う皮膚のたるみなどから起こることもあり、角膜を傷付ける原因になる。
定期的に逆さまつげを抜く対処法もあるが、天野院長は「重症の場合には積極的に手術を」という。ただし「安易に脱毛レーザーによる治療を行うと、まぶたの縁にある皮脂が出るマイボーム腺を潰してしまう恐れがあり、涙に脂分が少なくなり、ドライアイになる危険がある」と注意を促す。炭酸ガス・レーザーメスを用いる手術もある。
(ライター 塚崎 朝子)
[日経プラスワン2016年11月19日付]
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