「スマホ老眼」を防ぐ 仕事中も看板「チラ見」でケア
横浜市に住む小学5年生のA君。母親に連れられて近くの眼科「クイーンズアイクリニック」を訪れた。最近テレビや教室の黒板の字が見えにくくなったという。院長の荒井宏幸さんが検査をすると、目のピント調節をする筋肉の疲労度が高いことが分かった。
診察室でもスマホを見ていたA君。帰宅して寝るまでスマホゲームをすることもあるという。荒井さんは疲労を取る点眼薬を処方し、スマホはできるだけ使わないよう指導した。その後A君の症状は改善し、眼鏡を作る必要もなかった。
A君のようにスマホを長時間使うことで目のピントが合いにくくなる症状を訴える人が増え「スマホ老眼」と呼ばれている。若い世代が中心だが、中高年も無縁ではない。「本当の老眼が現れる時期と重なり、症状を加速する可能性がある」(荒井さん)という。

スマホ老眼は目のピントを合わせづらくなるという点では老眼と似ているが、その仕組みは全く異なる。
ピント調節にはレンズに相当する「水晶体」と、これを取り巻く「毛様体筋」と呼ばれる筋肉がかかわっている。遠くを見るときは毛様体筋が緩んで水晶体が薄くなり、近くを見るときは毛様体筋が緊張して水晶体が厚くなる。
通常の老眼は、加齢に伴って水晶体が硬くなり、毛様体筋が緊張しても水晶体が厚くなりづらくなることで起きる。早い人は40歳代に始まり、近くにピントが合いにくくなったり、小さい文字の読み書きがしにくくなったりする。
一方、スマホ老眼は、画面を近くで見続けることで毛様体筋が疲労し、ピント調節の機能が正常に働かなくなった状態だ。「水の入ったバケツを持ち続けると手の筋肉がしびれてしまうでしょう。これに似た状態です」(荒井さん)
テレビやパソコンよりスマホの画面は小さいため目を近づけがちで、疲労を加速する。荒井さんは「パソコンやテレビゲームが登場したときでも、このような症状を訴える人が今回ほど増えたわけではない。やはり画面の小さいスマホが原因だろう」と語る。
スマホ老眼は目の調節機能の一時的な不具合なので、スマホ利用を控えれば元に戻る。だが現実には、スマホ抜きの生活は考えられないという人も多いだろう。スマホを見る時間を減らすのが基本だが、それに加えてスマホ老眼を緩和する方法を教えてもらった。

まず、スマホを使うときはできるだけ顔に近づけないようにする。画面を目から30~40センチメートルほど離し、視線を少し下ろした角度(水平方向から約30度下向き)にすると目が疲れにくい。
日常生活のなかで毛様体筋をリラックスさせる工夫も重要だ。荒井さんが勧めるのは、仕事中などにできる「チラ見エクササイズ」。パソコンや書類から目を離し、窓の外の看板や離れた場所にある表示板など、かろうじて読めそうなものを意識的に見る。
普段の目のケアも大切だ。目をよく使う昼間は、冷たいおしぼりなどで目の周囲を冷やして筋肉の疲労を取る。逆に夜は目の回りを温めることで血行を良くするのがよい。入浴時に風呂のお湯に浸したタオルで目の回りを温めるのも有効だ。まつげの回りにあり、涙が蒸発するのを防ぐ「マイボーム腺」が健全に保たれ、ドライアイを防ぐ効果も期待できる。
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症状自覚者 寝ながら使用84%
参天製薬は今年6月、スマホ老眼の実態調査をまとめた。事前アンケートでスマホ老眼の自覚があると回答したスマホユーザー500人(10代から50代)に聞いたところ、初めて自覚した時期は「1年以内」(37%)、「半年以内」(31%)、「2年以内」(20%)と大半の人が最近になって症状に気づいていた。症状を自覚する頻度は「週1、2回」(30%)、「週に5回以上」(27%)、「週3、4回」(21%)の順で多かった。
スマホを長時間利用した後に目以外の場所にも不調を感じている人が51%おり、特に「肩こり」「頭痛」「全身の倦怠(けんたい)感」を訴える人が多かった。スマホの平均利用時間は平日3.4時間、休日4時間。「寝転びながら使用することがある」は84%、「歩きながら使用することがある」は52%いた。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2016年11月10日付]
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