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乏しい「脱モノづくり」思考 グリーン戦略に構造転換の意識を
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

コラム(ビジネス)
2021/1/15付
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞 日経産業新聞 Earth新潮流

暮れも押し迫った2020年12月25日、第6回成長戦略会議の席で「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が報告された。経済産業省が関係省庁と連携して策定したもので、「2050年カーボンニュートラル宣言」を「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策だと銘打っている。

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洋上風力産業の推進などを目指す点は評価できる(福島県沖の浮体式洋上風力発電所の風車。後方は福島第1原発、2014年3月)

洋上風力産業の推進などを目指す点は評価できる(福島県沖の浮体式洋上風力発電所の風車。後方は福島第1原発、2014年3月)

経産省は「14の重要分野ごとに、高い目標を掲げた上で、現状の課題と今後の取組を明記し、予算、税、規制改革・標準化、国際連携など、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画を策定しています。この戦略を、着実に実施するとともに、更なる改訂に向けて、関係省庁と連携し、目標や対策の更なる深掘りを検討していきます」と説明している。

「洋上風力産業と蓄電池産業を成長戦略として育成していく」や「水素発電を最大限追求していくため、水素産業の創出が必要である」とした点は賛同できるし、「2030年で年額90兆円、50年で年額190兆円程度の経済効果が見込まれる」と言及した点は興味深い。

ただし、産業政策と銘打ちながら、産業構造の転換という色彩が薄いのはやや気がかりである。脱炭素への道筋は、次の4つの要素から構想されるべきだというのが、筆者の考えだ。

(1)国の産業構造において炭素集約型産業から炭素非集約型産業への移行を進める、(2)ある産業セクターに属する企業が炭素利益率の低い製品ジャンルから高い製品ジャンルに事業構成比率を変えていく、(3)生産活動と消費活動において省エネの徹底を図る、(4)それでも残される需要に応え、脱炭素と呼べるエネルギーを供給する――という4つである。

今回のグリーン成長戦略においても、環境保全と結びつけるというのなら、炭素集約型から炭素非集約型へ産業構造の重心を移行させるというマクロ的な発想がもっと前面に出て良かったのではないだろうか。

諸富徹・京都大学大学院教授は「資本主義の非物質主義的転回」が先進国を中心に進展していることを指摘。その分析を通じて、日本企業の産業競争力低下の理由を説明しようとしている。

財務省も数年前から、長い間日本の経常黒字のけん引役であった「モノの輸出」に代わり、「投資や観光・ロイヤルティー収入」が経常黒字を押し上げている構造が定着してきており、「貿易立国」から「投資立国」への転換が鮮明になっていると指摘している。

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「経済と環境の好循環」を目指す産業政策としては、欧州委員会が19年12月に発表した「欧州グリーンディール」と題するコミュニケーション文書に一日の長があるだろう。

その冒頭では「欧州連合(EU)を50年に温暖化ガスの正味排出量がなく、経済成長が資源の使用から切り離された、時代に即した資源効率の高い、競争力のある経済と公正で繁栄した社会へと変革していくことを目指した新たな成長戦略です」と規定している。

特に注目したいのは「資源の使用から切り離された」としている部分で、資本主義の非物質化が明確に視野に入っている。さらに「自然の生態系の保護と復元に与えられる価値を高め、資源の持続可能な利用と人間の健康を改善することが不可欠で、そのために経済には、全く姿を変えるほどの変容が最も必要とされる」とも述べている。

経済構造の転換を前提としているため、衰退産業や雇用縮小の発生を前提に配慮も怠らない。このため、欧州グリーンディールでは「欧州委員会は、誰もとり残さないために、公正な移行基金を含む公正な移行メカニズムを提案する」と明記している。脱炭素と非物質化を進めていく政策で割を食う人たちに、十分な支援を行うことを約束しているのだ。

さらに欧州グリーンディールは、「気候変動と環境悪化によって引き起こされる課題に対応し、現在及び将来の世代の生活の質を改善する、公正で繁栄した社会へのEUの移行を支援する」と結ばれる。「将来の世代の生活」を見据えている点が特徴で、ティメルマンス・欧州委員会上級副委員長は常に「将来の世代への我々の責任」を強調している。

こうした視点から、日本政府が示した今回の「グリーン成長戦略」を読み直すと、(1)経済の非物質化、(2)公正な移行のための手当て、(3)将来世代への責任という3つの要素には何も触れていない。そして、掲げられた14の重要分野も、製造業を中心に「モノづくり」に特化した実行計画になっている。

確かに、国内では「カーシェアリングを普及させて、自動車の保有台数を半数以下にすれば、資源も使わず、駐車スペースとしての土地も有効活用できる。自動車メーカーにはMaaSの発想で成長に舵を切ってもらう」という発想は評判が悪い。であれば、わが国は他の先進国や一部の新興国と違い、あくまでも「モノづくり」を中心に今後も経済を回していくのが基本方針だと冒頭に書いておくことが、海外からの正確な理解を助けるためにも良かったのではとすら思う。

1997年夏の行政改革会議の議論(いわゆる橋本行革)では、環境庁を大幅に拡充発展して、新たに『環境安全省』(仮称)を創設するという合意があった。環境庁の既存部門ほか、厚生省の廃棄物部門に加えて、通産省の環境立地局、農水省の林野行政などを統合・一元化するという構想だった。

しかし、その後、猛烈な反対の火の手が上がり、この行政改革会議の合意は幻となった。歴史に「もし」が許されるなら、環境を軸に多様な知見を持つ官僚たちが集まっていれば、今どんな成長戦略を描くことができたかを想像してみることも、あながち無駄とは言えまい。

[日経産業新聞2021年1月15日付]

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