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世界で台頭「デジタル治療」 ソフトウエアで病を治す

CBインサイツ
スタートアップGlobe
コラム(テクノロジー)
2020/2/17 2:00
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CBINSIGHTS
 ソフトウエアを使って病気を予防、管理、治療する「デジタル治療」の分野で、有望なスタートアップが続々と誕生している。2型糖尿病や高血圧など、生活習慣の改善が予防や治療のカギとなる病気ではすでに利用が広がっており、大手の製薬会社との連携も増えそうだ。一方で、提携や資金調達に失敗する例も出ており、いまだ手探り感も残る。少子高齢化問題を抱える日本にとってもデジタル治療は導入機運が高まりそうで、今後の動向が注目される。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

「デジタル治療」が患者のケアの形を変え、一人一人に応じた個別治療を実現しようとしている。米オマダヘルス(Omada Health)や仏ボランティス(Voluntis)などの企業が、生活習慣を改めるツールから症状を管理するアプリに至るまであらゆる製品を開発し、患者が自分の健康を管理する方法に変化をもたらしつつある。

デジタル治療は最近、上場企業の決算発表の場で注目の話題となっている。糖尿病管理システムの米ダリオヘルスや医療管理の米マゼラン・ヘルスなどこの分野の中核企業がデジタル治療に言及している。

デジタル治療、決算発表に登場
決算発表で「デジタル治療」「デジタルセラピー」という言葉が登場した回数

デジタル治療、決算発表に登場
決算発表で「デジタル治療」「デジタルセラピー」という言葉が登場した回数

これは製品ラインアップの多角化を目指す製薬会社にとってもチャンスになりつつある。医薬・農薬大手の独バイエルは最近、末梢動脈疾患(PAD)を対象にしたデジタルプラットフォームを開発するため、ノルウェーのサイドキック・ヘルス(SideKick Health)と提携した。

一方、過剰ともいえる盛り上がりにもかかわらず、デジタル治療は提携の失敗や投資家からの懸念、患者や医療提供者の間で製品が受け入れられずに苦戦する企業の経営破綻など特有の問題に直面している。

■デジタル治療とは

デジタル治療とはソフトウエアを活用した治療のことで、従来の治療に追加したり、置き換えたりできる。個人に応じた腰痛エクササイズを提供するアプリや、過敏性腸症候群(IBS)の自己管理を支援するプログラムなどがある。

デジタル治療は通常、「病気の治療」「病気の管理」「健康改善」の3つのカテゴリーに分けられる。身体を傷つけず、使いやすく、カスタマイズされており、患者が健康を自己管理する際に直面する問題を解決しやすくなる。

病状や深刻度にもよるが、特に生活習慣や行動を変えることで管理が可能になる場合には、投薬治療よりも先にデジタル治療に取り組むこともある。こうした理由から、2型糖尿病やメンタルヘルス、睡眠管理などが主な対象分野となっている。

デジタル治療は症状や病気の痛みを管理する手段として、投薬治療と並行して使われる場合もある。これは一般的にはデジタルヘルスの一部であり、成長しつつある遠隔医療やIT(情報技術)医療の一角をなす。デジタル治療に参入するプラットフォームが増えれば、規制の改定や一層の明確化、有効性の向上につながる可能性がある。

■チャンスとなる分野

CBインサイツの業界アナリスト予想によると、世界のデジタル治療の市場規模は2019年の20億ドル弱から、25年には90億ドル近くに達するとみられる。デジタル治療は5330億ドルに上るデジタルヘルス市場の一部でもある。

デジタル治療はヘルスケアの成長分野
(アナリスト予想による25年のヘルステック市場の規模)

デジタル治療はヘルスケアの成長分野
(アナリスト予想による25年のヘルステック市場の規模)

デジタル治療はモバイルヘルスや遠隔医療など他のヘルスケアよりも市場規模は小さいが、こうした多くのテクノロジーを支える重要な役割を果たす可能性がある。

例えば、2型糖尿病の患者を対象にしたデジタル治療の製品は、アプリやインターネット機器、医療指導者や臨床医によるバーチャルな行動の指導などからなる。ここでは病気を管理するプラットフォームを実現するため、様々な健康関連のテクノロジーを融合している。

もっとも、この分野はまだ比較的新しい。18年には4月に米リボンゴヘルス(Livongo Health、現在は上場)がシリーズEの資金調達ラウンドで1億500万ドルを調達するなど、資金調達額は過去最高に達した。その後投資は減少し、19年の調達件数は50件余り、調達額は6億ドルにとどまった。とはいえ、この分野はなお有望だ。

デジタル治療の18年の調達額、過去最高を記録
(公表ベースの資金調達活動、14~19年)

デジタル治療の18年の調達額、過去最高を記録
(公表ベースの資金調達活動、14~19年)

■2型糖尿病、デジタル治療市場を支配

デジタル治療の主なカテゴリーは慢性疾患の管理だ。糖尿病や高血圧などの疾患が、投資家からの注目度が最も高い。例えば、リボンゴは糖尿病を中心とした慢性疾患向けのデジタルプラットフォームを手がける。08年創業の同社は公表ベースで2億3700万ドルを調達した後、19年7月に上場した。高血圧や糖尿病の予防、行動に基づく健康支援も提供している。

同社はネット接続機器(例えばグルコースセンサー)や、個人に応じたデジタル指導、医療の専門家へのアクセスを駆使し、患者が自宅にいながらにして慢性疾患を管理できるよう支援している。

この市場にはオマダヘルス、米ウェルドック(WellDoc)、米バータ・ヘルス(Virta Health)などもいる。いずれもネットに接続されたプラットフォームと個人に応じたライフスタイルの指導を組み合わせている。

バータ・ヘルスは自社プログラムの栄養指導により、投薬治療を使わなくても糖尿病を改善できるとしている。昨年5月には米退役軍人省との提携を発表し、退役軍人を対象に2型糖尿病のプログラムを提供した。この実証実験の結果、90日間で退役軍人の患者の84%の血糖値が下がったことが示された。

米国では今や糖尿病を抱える国民は3000万人以上に上るため、こうしたデジタル治療は公衆衛生上の懸念の増大に対する新たな解決策となっている。

■デジタル治療の新たな活用分野

この市場で最も注目度が高いのは糖尿病と高血圧だが、新たな治療分野や手段も広がりつつある。

例えば、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)などの神経学的疾患ではデジタル治療の製品が登場している。

米アキリ・インタラクティブ・ラブズ(Akili Interactive Labs)はこうした疾患を持つ青年を対象にしたデジタルセラピーとして、ビデオゲームを開発した。現在は米食品医薬品局(FDA)による審査を受けている。同社はASDや大鬱病性障害(MDD)、多発性硬化症を対象にした製品も開発している。

アキリは19年3月、塩野義製薬との提携を発表した。アキリの2つのデジタル製品を日本と台湾で販売する。

この分野のもう一つの主要企業は米コグノア(Cognoa)だ。ASDを対象にしたデジタル診断・治療プログラムは19年2月、FDAの「画期的治療(薬)」に指定された。これらのプロダクトは個人に応じたケアを提供し、ASDを抱える子どもを支援する。

リハビリや痛みもデジタル治療が対象にしようとしている新たな分野だ。例えば、多様なアプローチを使って慢性的な腰痛や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のデジタル治療を手がける米カイア・ヘルス(Kaia Health)は19年7月、800万ドルを調達した。

もう一つの例はポルトガルのスウォード・ヘルス(SWORD Health)だ。同社はネットにつながったセンサーを活用し、患者が自宅にいながらにして臨床的な監修に基づいた理学療法を受けられるプログラムを提供している。同社のこれまでの調達額は1400万ドルに上る。

さらに、腸内フローラと健康全般との関係について理解を深めようとする企業が増えているため、消化器疾患に対する関心も高まっている。各社は認知行動療法(CBT)を通じてIBSやクローン病などの疾患に対処しようとしている。

英ボールド・ヘルス(Bold Health)のアプリ「ゼメディ(Zemedy)」はその一例だ。IBSを対象にした10週間のCBTプログラムでは、同社のテクニックを使って利用者が自分の症状や関連ストレスを管理できるよう支援する。 

ボールドは炎症性腸疾患(IBD)や胃食道逆流症(GERD)、摂食障害向けのデジタル治療の開発にも取り組んでいる。

■製薬会社との提携は相次いでいるが、製品が受け入れられるかは不明

製薬業界はここ数年、主要スタートアップ企業に出資したり、こうした企業を買収したりすることでデジタル治療への参入を目指してきた。戦略的提携も2つの業界をつなぐ役割を果たしている。

例えば、ボランティスと英製薬大手アストラゼネカは15年、卵巣がんの治療を受けている女性を対象にしたデジタル治療の開発で提携した。両社の提携は18年8月に延長された。

ボランティスはその後も製薬大手と手を組み続けている。直近では19年12月、スイスの製薬大手ノバルティスと提携した。

スタートアップと製薬大手との提携は相次いでいるが、この分野の最近のニュースの一部はこの初期段階の市場の難しさを示している。

・19年12月―仏製薬大手サノフィは米ベリリーとの合弁会社オンデュオ(Onduo)から手を引く方針を明らかにした。オンデュオはテクノロジーを活用した糖尿病管理プラットフォームを手がける。

・19年10月―ノバルティス傘下のサンド(Sandoz)は、医師の処方箋の発行を必要とするデジタルセラピー「リセット(reSET)」(薬物依存症患者向け)と「リセット・オー(reSET-O)」(オピオイド依存症患者向け)を提供する米ピア・セラピューティクス(Pear Therapeutics)との提携を解消した。

最近のデジタル治療に関するニュースはこの業界の不確実性を示している
(19年10月~20年1月16日の主なニュース)

最近のデジタル治療に関するニュースはこの業界の不確実性を示している
(19年10月~20年1月16日の主なニュース)

デジタル治療を手がける米プロテウス・デジタル・ヘルス(Proteus Digital Health)が18年10月、大塚製薬と5年間で8800万ドルの契約を締結したのは、こうしたデジタル製品の有望性を表していた。だが、製品が患者の間でいまひとつ受け入れられていないとの観測が、20年1月に提携を解消した主な理由となった可能性がある。

19年12月には、一時は13億ドルの企業価値を誇っていたプロテウスが1億ドルの資金調達に失敗したとも報じられた。

一連の事態は製品の実現可能性や、医療提供者や保険会社、患者に受け入れられるかを巡る懸念を浮き彫りにしている。

こうした不確実な状況では、各製品が患者の健康に付加価値をもたらすことを証明し、医療提供者や保険会社のワークフローに統合できると納得させることが重要になる。

■地域特有の問題の新たな解決策に

デジタル治療のスタートアップの多くは米国に拠点があるが、様々な治療分野で新しい解決策を編み出す企業が世界各地で増えている。

例えば、日本のキュア・アップは19年5月、ニコチン依存を対象にしたデジタル治療のランダム化比較研究の結果を発表した。結果は改善したことが示された。

各国特有の問題に狙いを定めている企業もある。

例えば、カイア・ヘルスは19年2月、COPDのデジタル治療の事業化試験を日本で実施する方針を明らかにした。日本では高齢化に伴い、COPDが大きな健康問題になっている。

デジタル治療を手がける米企業と海外の製薬会社との提携は別のメッセージを示している。直近の例は以下の通りだ。

・19年11月:ウェルドックと日本のアステラス製薬は、ウェルドックの糖尿病デジタル治療製品をアジアで販売する。

・19年3月:アキリ・インタラクティブ・ラブズと塩野義製薬は、神経学的疾患を対象にしたアキリの2つのデジタル製品を日本と台湾で販売する。

さらに、予防医療が重視されるのに伴い、この分野への関心が世界的に高まっている。この現象の一環として、デジタル治療は世界各地でより総合的で包括的な治療を築く大きな役割を果たす可能性がある。

今では様々な疾患の治療を補強するテクノロジー製品やサービスが増えている。もっと多くの企業が慢性疾患をはじめとする新たな治療分野にデジタル治療を拡大するようになる可能性がある。製品が市場にあふれれば、様々な治療分野で業界の主要企業による再編が増えるかもしれない。

さらに、健康や予防医療に力を入れている企業の関心が高まる可能性もある。この分野には新興ヘルスケア企業も参入しようとしている。

現時点では、デジタル治療は定義や使用事例、利用を巡って様々な議論がある。だがこのテクノロジーを最善の慣習に従って適切に活用するという点については、なお詳細を詰める必要がある。そのためには、業界各社とFDAなど規制当局との連携が不可欠だ。

臨床研究が増え、規制が進展することで市場の開拓が進むため、デジタル治療は未来の医療で不可欠な要素になる可能性がある。

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