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米中の巨大IT企業が狙う医療スタートアップ

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ヘルスケア
コラム(テクノロジー)
2019/11/15 2:00
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巨大IT企業が医療スタートアップに積極投資している。

巨大IT企業が医療スタートアップに積極投資している。

CBINSIGHTS
 米グーグルの持ち株会社米アルファベットや米マイクロソフトなどの巨大IT(情報技術)企業が、医療関連のスタートアップに積極投資している。彼らが商機を見いだしているのが、新薬開発から病院まで様々なところで無駄が目立つ医療業界の非効率性だ。そこに新興企業のデジタル技術でメスを入れ、新ビジネスにつなげる考えだ。どんな企業にITマネーが流れ込んでいるのか、大手IT企業の投資動向をまとめた。

ヘルスケアは規模が大きく、非効率的な業界だ。米国ではこの業界の規模は国内総生産(GDP)の19%に上るが、一部の研究によると支出の20~25%が無駄だとされる。

こうした効率の悪さは業界全体で目につく。医師や病院の報酬を計算する医療事務の従事者は17万5000人を超え、新薬が市場に投入されるまでの費用は平均で25億ドルにも上る。企業が拠出する医療費は今や年間2万ドルに達している。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

世界各地で市場が拡大し、無駄なコストがかさみ、より優れた医療への需要が高まっているため、この業界は世界の大手テクノロジー企業にとって格好の投資対象になっている。

2018年の米デジタルヘルス部門のスタートアップ企業への投資額は前年比16%増の110億ドルと過去最高を記録した。今年に入り、医療保険の米クローバーヘルス(Clover Health)がシリーズEで5億ドルを調達、遺伝子解析の米ギンコ・バイオワークス(Ginkgo BioWorks)がシリーズEで2億9000万ドルを調達して企業価値が42億ドルに、薬局の米カプセル(Capsule)がシリーズCで2億ドルを調達するなど、技術革新に取り組む企業が、多額の資金を調達している。

一方、世界第2の経済大国である中国は、高齢化やより優れた医療への需要を背景に国家政策としてヘルスケアに多額の資金をつぎ込んでいる。こうした取り組みは09年の新医療制度改革や(16年に発表された)「健康中国2030計画」により促進された。その結果、世界保健機関(WHO)によると中国のヘルスケア市場は年17%のペースで成長している。

デジタルヘルス市場の成長に伴い、医療関連以外の企業もこの分野に関心を抱くようになっている。19年の大手テクノロジー企業によるデジタルヘルス企業への投資件数はこれまでに38社に上っており、過去最高だった18年の49社に並ぶペースとなっている。

本稿では、デジタルヘルス部門への投資件数が最も多い大手テクノロジー企業上位10社について調べる。

■投資家の戦略のトレンド

大手テクノロジー企業で最も多くのデジタルヘルス部門のスタートアップに投資しているのは、米グーグル、米マイクロソフト、中国の騰訊控股(テンセント)だ。3社は大手テクノロジー企業によるデジタルヘルス部門への投資全体の7割以上を占めているが、投資先や戦略はそれぞれ異なる。

グーグル、マイクロソフト、テンセントの分野別投資タイムライン

グーグル、マイクロソフト、テンセントの分野別投資タイムライン

■グーグル(アルファベット)

グーグル(アルファベット)は誰もが認めるデジタルヘルス投資のリーダーで、投資件数は93件、投資企業は57社に上る。こうした投資の7割以上をコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のグーグル・ベンチャーズ、キャピタルG、グラディエント・ベンチャーズが担っている。

生命科学分野について研究する米ベリリー・ライフサイエンス(Verily Life Sciences)など、アルファベット傘下の「ムーンショット(野心的な研究に取り組む)」企業は、自社のプロジェクトに直接関連する企業に投資している。例えば、ベリリーは個人の健康記録を手がける米スタートアップ、シチズン(Ciitizen)に資金を投じている。

グーグルが運営するスタートアップ向け育成・起業支援プログラム「グーグル・ローンチパッド・アクセラレーター」はデジタルヘルス企業17社に投資している。

グーグルの主な投資分野は「遺伝子解析」(18件)、「臨床研究」(15件)、「保険&福利厚生」(12件)だ。

遺伝子検査サービスの米23andMe、がん解析ソフトなどを手がける米フラットアイアン・ヘルス(Flatiron Health)、がんの早期発見を目指す米フリーノム(Freenome)などグーグルから出資を受けている企業は、患者のデータを大量に収集し、最先端の人工知能(AI)や機械学習を使って有意な知見を得たり、商業化を推進したりしている。これはグーグルが検索帝国を築いたのとよく似た戦略だ。

グーグルはさらに、オンラインで医療保険を提供する米オスカーヘルス(Oscar Health)と米クローバーヘルスという米国で最も企業価値の高い未上場の医療保険スタートアップにも出資している。両社は既存大手と差別化するため、最先端のデータアナリティクス(解析)と患者との革新的な関係構築モデルを活用している。

グーグルは以前は「患者の遠隔モニタリング」分野の企業に直接投資していなかったが、19年に米フォッシル・グループのスマートウオッチ研究開発部門を4000万ドルで買収し、この分野に初めて投資した。この分野はグーグルのヘルスケア、特に臨床研究戦略を進める上で極めて重要になるだろう。ベリリーは既に自社開発したウエアラブル機器「スタディーウオッチ」を複数の研究で使っている。

■マイクロソフト

マイクロソフトの投資の大半はグーグルとは違い、「マイクロソフト・スケールアップ」や「マイクロソフトAIファクトリー」といった育成・企業支援プログラムから出ている。これらのプログラムは草創期のデジタルヘルス企業を対象としたもので、プログラムを修了したデジタルヘルス企業は35社に上る。

AIを活用した理学療法ツールを提供するポルトガルのスウォード・ヘルス(SWORD Health)、遺伝子解析の米ジノークス(Genoox)、医療データプラットフォームの米ケンサイ(KenSci)、医療システムの開発を手がけるインドのシグタプル(SigTuple)など多くの企業はその後、追加の資金調達を受けている。

一方、マイクロソフトのCVC「M12」は、慢性疾患を管理する米リボンゴ・ヘルス(Livongo Health)のプレIPO(新規株式公開)ラウンドや、医療データプラットフォームの米イノベーサー(Innovaccer)のグロースラウンドなど、中後期段階のスタートアップの資金調達ラウンドに参加している。

マイクロソフトはヘルスケア部門の戦略を個人の健康データから、大手ヘルスケア企業によるこうしたデータの保存・活用の推進へと転換しており、投資先も変わっている。16年以降の投資の大半は「データ管理&アナリティクス」「遺伝子解析」企業に向けられている。

■テンセント

中国のテンセントはデジタルヘルス部門で3番目に活発に投資している大手テクノロジー企業だ。投資件数は52件、投資企業は40社に上る。そのうち31件の投資を同社の顧客基盤がある中国で実施している。

注目すべきなのは、18件が米国企業への投資である点だ。これはテンセントが海外展開を狙っていることを示している。残りはインド企業への投資だ。

テンセントは広範な企業に投資していることで知られており、18年時点での投資件数は700件以上に上る。テンセントによるデジタルヘルス投資のうち、テンセント本体による投資は84%で、残りはAI育成支援プログラムを通じて実施している。

テンセントは事業対応力の強化を目標に掲げ、「臨床研究」と「管理ツール」に積極投資している。一方、同社は「医療コンテンツ&マーケティング」への投資額が最も多い企業でもある。対話アプリ「微信(ウィーチャット)」だけで月間利用者が11億人に上るため、投資企業に貴重な顧客獲得ルートを提供している。

■その他の企業

10年以降に5社以上のデジタルヘルス企業に出資したその他の大手テクノロジー企業は、米インテル、韓国・サムスン電子、中国のネット通販最大手のアリババ集団、米アマゾン・ドット・コム、米メディア大手コムキャストだ。

デジタルヘルス部門への投資件数上位5社の投資分野

デジタルヘルス部門への投資件数上位5社の投資分野

コムキャストは通信会社として唯一このリストに登場するユニークな投資家だ。同社は22万5000人に上る従業員と家族のために、医療費に年約13億ドルを費やしている。そこで、従業員の医療体験を改善し、医療費をより適切に管理するために、医療システムを手がける米アコレード(Accolade)、健康アプリの米Kヘルス(K Health)や米シャイン(Shine)などのスタートアップに出資している。

米アップルはヘルスケア業界への投資件数が少ないため、10位以内には入っていない。だがこの分野では買収を重視する戦略をとっており、これまでにデジタルヘルス企業3社を買収している。

買収したのはいずれも「個人の健康データの管理&モニタリング」分野の企業で、アップルがヘルスケアで目指す方向に沿った事業を手がけている。例えば、個人の健康情報を管理する米グリンプス(Gliimpse)は、iOS端末に搭載されている革新的なアプリ「ヘルスケア」の土台になった。

グリンプスの最高経営責任者(CEO)はその後、シチズンを創業した。同社はグーグルの出資を受けている。

■分野別の投資トレンド

新たなテクノロジーの台頭や規制内容の変更に伴い、テクノロジー大手各社が注目するデジタルヘルスの分野も移り変わっている。

18年のテクノロジー大手によるデジタルヘルス部門への投資件数は過去最高に達した。18年に投資件数が最も多かった分野は「臨床研究」だったが、19年に入り投資ペースは減速している。18年には「慢性疾患の管理」への投資はわずか1件だったが、サムスン電子による出資が相次いだため、19年の投資額は増えている。

19年で投資額が最も多いのは「データ管理&アナリティクス」だ。中国のAI医療エアドック(Airdoc)、肺疾患の検出支援ツールを手がける米リバーレイン・テクノロジーズ(Riverain Technologies)、中国の万里雲(Wanlicloud)、イノベーサーなど画像を手がける企業が多額の出資を受けている。

一方、16年に投資額が最も多かったのは「遠隔治療」で、その直後の17年には遠隔治療の利用が急増した。利用が急増したのは保険の適用範囲の拡大といった制度変更などの追い風を受けたのが要因だった可能性が高い。

2社以上のテクノロジー大手から出資を受けている企業は8社だ。血液検査でがんを発見する米グレイル(GRAIL、グーグルとテンセント、アマゾンが出資)、インドの医師検索サイト運営プラクト・テクノロジーズ(Practo Technologies、グーグルとテンセント)、AIによる推論を可視化する米コグニティブスケール(CognitiveScale、インテルとマイクロソフト)などだ。

ヒートマップ:テクノロジー大手によるデジタルヘルス部門への投資の濃淡(各分野のスタートアップへの投資件数に基づく)

ヒートマップ:テクノロジー大手によるデジタルヘルス部門への投資の濃淡(各分野のスタートアップへの投資件数に基づく)

12年以降で世界のテクノロジー大手による投資企業の数が最も多いのは「データ管理&アナリティクス」「健康」「遺伝子解析」だ。

投資件数別では「遺伝子解析」が「健康」を上回り2位につけている。

テクノロジー大手は「データ管理&アナリティクス」「健康」「遺伝子解析」に注目している(10年以降にテクノロジー大手から出資を受けたデジタルヘルスのスタートアップの数)

テクノロジー大手は「データ管理&アナリティクス」「健康」「遺伝子解析」に注目している(10年以降にテクノロジー大手から出資を受けたデジタルヘルスのスタートアップの数)

「コンテンツ&マーケティング」分野の企業はコミュニティー構築やコンテンツ生成(利用者が生成することも多い)に取り組んでおり、ヘルスケア企業へのウェブアクセスの商業化を最終目標に掲げている。この分野の企業には中国の美容整形医療プラットフォームの新氧(SoYoung)、中国の外科医向けサイトの唯医骨科(Weiyi)、教育用医療コンテンツなどを手がける米アウトカムヘルス(Outcome Health)などがある。

「補助&リハビリツール」分野のスタートアップは、テクノロジーを使って身体障害者を支援したり、患者の機能回復を助けたりしている。例えば、マイクロソフトの「スケールアップ・プログラム」を修了したスウォード・ヘルスは、デジタル理学療法ツールを販売している。

「医薬品の配送」には薬局のサプライチェーン(供給網)に注目しているスタートアップなどが含まれる。

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