「都市OS」という考え方が広がっている。コンピューターはかつて特定のメーカーのものには専用のアプリケーションが必要だった。今のように社会の隅々にまで普及したのは、様々なハードウエアやソフトウエアなど製造元が異なる製品でも共通の基本ソフト(OS)の上で動作するように標準化されたためだ。
これによって大量生産でコストが下がり、異なるアプリケーション上で作成したデータの互換性が生まれるなどの恩恵が大きかった。こうした概念を都市レベルにまで持ち込もうという考え方が都市OSだ。ビルや都市の様々なシステムもデジタル化が当たり前になってきているが、まだまだ異なる監視カメラシステムのデータは共通に使えないなどの課題も多い。
これからの時代は都市の中の様々なデータを犯罪防止、防災、交通管理、エネルギーの効率化、マーケティング支援などに生かそうとしている。異なるビル、異なる交通事業者、異なる都市が相互に簡単にデータを活用することが一層求められるようになるのだ。
そうした中で清水建設はゼネコンとしてビルのOSや都市OSの開発に乗り出している。東京・豊洲のビルでは「DX-CORE」というOSを導入した。例えば、掃除ロボットがビルのエレベーターと通信し、自動で乗り降りしてビル内を掃除することを実現している。異なるメーカーのロボットをOSを介して制御することで複数のロボットが同時にビル内を動き回れるようにした。
各フロアのカメラやセンサーから収集する人流データもOS上で管理しているため、様々な目的のサイネージやアプリを簡単に開発することが可能だ。オフィスの自分の席から別の階にある食堂の座席の混雑状況を確認したり、1階部分のキッチンカーのメニューを確認したりなどできる。
これまでは専用のアプリ開発の必要があったが、OSがあれば簡単に導入できる。豊洲のビルの下は道の駅でもあり、今後は周辺の様々な交通との連携も期待できる。豊洲の街全体が都市OS対応になれば、低速自動運転車が豊洲市場まで空いているルートを自分で探し、その日販売されているお弁当を買いに行かせたり、地域の高齢者住宅に配布したりするようなビジネスも実現できそうだ。
ふじもと・けんたろう 電気通信大情報理工卒。野村総合研究所を経て99年にフロントライン・ドット・ジェーピーを設立し社長。02年から現職
都市データ活用先進国の韓国ソウル市では、様々なデータを元にしたシミュレーションで施策を決めている。例えば、深夜バスの運行ルートを決めるのに、深夜タクシーの利用状況データを分析して最適ルートを決めている。市民の利便性を向上させるためにデータがどんどん可視化され、解放されれば、市民レベルの活動に様々な行動変容を起こすことが期待できる。
スタートアップなどが自らシステム開発しなくても簡単にデータ活用できるようになれば、少ない投資で社会課題解決のビジネスを次々と立ち上げる起業家も増加するだろう。
今後は国際的にも都市間競争が激しくなりそうだ。都市の魅力を高め、住民の幸福度を高めるためにはビルや都市インフラのデータ活用が必要となり、それには都市OSの普及が欠かせない。自治体も入札要件などに都市OSの考えを取り入れることが重要になる。
[日経MJ2023年3月17日掲載]
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