私は過去15年ほど公職という形で政府の様々な委員を務めているが、女性という視点で日本の抱える問題を考えるのは前回紹介した内閣府の男女共同参画会議が初めてである。これまでの自分の優先順位は女性よりも企業の成長戦略や競争力やITであった。この委員会の指名を受けた時も、どうせ女性問題とは男女の給与格差や女性取締役の数を増やすことくらいだろうと高をくくっていた。
1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年よりネットイヤーグループ社長兼最高経営責任者(CEO)を務め、21年から現職。
そんな自分の反省は日本の反省でもある。委員会に入ってみて、女性問題がいかに根深いものか、いや、いつの間にか、根深いものになってしまった、その現実を思い知った。
1970年の婚姻件数は約100万件。離婚はわずか10万件だった。現在は、婚姻は60万件に及ばす、一方の離婚は20万件、つまり3人に1人が離婚している計算になる。年配の方に、この話をすると「いや、僕の周りにはそんなに離婚した人はいないけどね」と、いかにも信じがたいという反応だ。自分ごとになっていない、この感覚のギャップがあるが故に、女性問題の議論が盛り上がらない。
母親が30代になって離婚をするケースが多い。就学前の子供を持って離婚に至っている。そして、統計をとってみると、ひとり親世帯の約半数が相対的貧困となっている。シングルマザーの貧困問題は限られた人の問題ではなく、普通の人が陥る問題なのである。
人生100年時代の到来だ。女性の半分が90歳まで生きる。3割が95歳まで生きる。半分も3割も「普通」と呼んでいいのだろう。普通の女性が寿命までに経済的困窮に陥らない用意ができているだろうか。
女性問題とは、給与や管理職の話だけでなく、離婚、シングルマザー、寿命など、以前は問題ではなかったことにメスを入れなければいけない状態となっているのだ。だから、この委員会では様々な観点から女性問題を論議している。
結婚と家族、コロナの影響、アンコンシャス・バイアス、旧姓の通称使用、女性の生理と妊娠、STEM、税・社会保障、DV、入試や教育のあり方、教育現場の女性管理職の割合、法曹界での女性の地位、国会議員の女性比率などなど。
日本の仕組みが変わってきてしまったゆえに、先進国との比較の中で新しい議論がなされている。男性の活躍の場を家庭や地域社会に広げよう。大臣や官僚こそ、ご自身の家庭でリーダーシップを発揮すべきだ。
伝統的な家族というものを維持すべしという意見を持っている人たちもまだ多い。その是非を議論する前に、すでに維持できない状態であることを私たちは知るべきだと思う。社会の仕組みが50年前と大きく変わってしまった。従来の考え方で、これからの女性問題は語れない。新たなフレームワークの中で議論する時、女性問題に、もはやタブーはない。
[日経産業新聞2022年5月23日付]
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