売上比率1割のゲーム事業で8兆円の買収に乗り出す(マイクロソフトのゲームサービスの看板)
【シリコンバレー=佐藤浩実】米マイクロソフトが25日発表した2021年10~12月期決算は、売上高が初めて500億ドル(約5兆7000億円)を超えた。同社は18日、8兆円の買収を発表。企業向けのクラウドサービスが生み出す潤沢な現金を元手に、「傍流」事業のゲームで勝負をかける。決算や関係者の発言から、その必然性が見えてきた。
「いつでもどこでも、好きな時にゲームを遊べるよう投資していく」。サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、18日に公表した米ゲームソフト最大手アクティビジョン・ブリザードの買収に自信を示した。買収額は687億ドルと、マイクロソフトの歴史で最大。全額を現金で支払う。
ゲーム事業の売上高は10~12月期に前年同期比8%増の54億4200万ドルだった。20年秋に新型「Xbox」を発売したため拡大基調にあるものの、3割を超えるクラウド事業の増収率に比べると緩やかだ。21年の通年の売り上げも160億ドル規模で、マイクロソフト全体に占める比率は10%に満たない。
ただゲーム市場の成長は著しい。オランダの調査会社ニューズーによれば、5年前に22億人だったゲーム人口は21年に30億人に達した。世界市場の規模は1803億ドルにのぼり、売上高から推計したマイクロソフトのシェアは9%ほど。既に市場の2割近いシェアを持つクラウド事業と比べて、伸びしろが大きい。
成長のカギとなるのが、ナデラ氏の指摘する「いつでもどこでも」遊べる仕組みづくり。ゲーム機の販売を主体としてきたマイクロソフトは、パソコンやスマートフォンなど端末の垣根を越えてゲームサービスを提供する企業への転換を進めており、ここに買収の必然が生じる。
代表例が月額サブスクリプション(継続課金)サービス「Xboxゲームパス」だ。約100作の作品を遊ぶことができ、12月末までに会員が2500万人に達した。ナデラ氏は「他にないコンテンツがサービスの成長をけん引した」と話す。
自社タイトル「Halo」や「Forza」の新作が利用者増を促した。買収を通じて1億人が遊ぶ「コールオブデューティ(CoD)」など有力ゲームを配信できれば、拡大に弾みがつく。
タイミングも絶妙だった。「セクハラや労働環境の問題を聞くようになってから、アクティビジョンのゲームでは遊ばなくなった」。米フロリダ州に住む20代のゲーム愛好家、コートニ・ピメンタルさんは明かす。
アクティビジョンは職場でのセクハラや暴行、差別といった問題が噴出していた。21年夏にカリフォルニア州が職場文化をめぐって同社を提訴し、従業員らのストライキが発生。ボビー・コティックCEOに対し、「問題を認識しながら適切な対処をしなかった」との指摘も上がっていた。
若い世代は「倫理的ではない会社の製品・サービスは使わない」という意識が強い。企業文化の問題は株式市場の評価にも表れた。21年2月に800億ドルを超えていた時価総額は、マイクロソフトによる買収発表の直前には約500億ドルに落ち込んでいた。人気作品を生み出してきたソフト大手の苦境は、放置すれば取引先であるマイクロソフトやゲーム業界にとってもリスクとなる。
マイクロソフトの手元資金は12月時点で1250億ドル。直近の株価に45%を上乗せした1株95ドルの買収額でも直近のピークより安く、十分に払えるとの計算が働いた。潤沢な資金を使い、問題解決と成長、ゲーム愛好家たちの評価を一気につかむ荒技にかけた。
IT(情報技術)大手の買収に対する規制当局の監視が強まるなかで、M&A(合併・買収)に踏み切れる有望分野が乏しくなっているとの指摘もある。
ゲーム業界は中国の騰訊控股(テンセント)やソニーグループといった大手から中小の専業までさまざまな規模の企業が割拠する。米ウェドブッシュ証券のダニエル・アイブス氏は「マイクロソフトの買収に独禁法上の問題があると証明するのは難しい」と話し、「80%の確率で成立する」と予測する。消費者向け事業の存在感の薄さが功を奏するとみる。
もっとも反トラスト法(独占禁止法)を所管する米連邦取引委員会(FTC)と米司法省はM&A審査の指針を改定し、IT大手が関わる取引をより厳しく審査する意向を示している。マイクロソフトの買収はサービス基盤を提供する企業がコンテンツも取り込む「垂直型」のM&Aにあたり、一筋縄ではいかないとの見方もある。
ゲーム事業を率いるフィル・スペンサー氏は20日、買収の成立後もソニーグループの「プレイステーション(PS)」向けに「CoD」を継続供給する考えをツイッターで発信した。独禁法審査を念頭に「囲い込み」と捉えられないような配慮が目立つ。23年6月期と見込む買収成立を待たずして始まった駆け引きは、ソニーグループをはじめゲーム業界全体を揺さぶる。
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