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広がる「産業のコメ」騒動 自動車に半導体不足の逆風

日経ビジネス
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自動車・機械
2021/1/15 2:00
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半導体不足による自動車生産への影響は世界に広がっている。写真は独フォルクスワーゲンのウォルフスブルクの工場(独北部)=ロイター

半導体不足による自動車生産への影響は世界に広がっている。写真は独フォルクスワーゲンのウォルフスブルクの工場(独北部)=ロイター

日経ビジネス電子版

「自動車メーカーのラインを止める原因となるな」──。新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に加速した2020年末も、自動車部品大手の調達担当は息つく暇がなかった。

理由はクルマをつくる上で欠かせない半導体の不足だ。すでに、独フォルクスワーゲンが半導体の供給不足を理由に生産調整を発表するなど問題は顕在化していた。ある部品大手の幹部は「市場を走り回ってかき集めているが状況は厳しい」と悲壮な表情を浮かべる。

クルマのサプライチェーン(供給網)でキモとなる半導体が、なぜ足りない事態となったのか。自動車産業にとって想定外だったのはまず、新車需要の急速な回復だ。

工場の稼働停止が相次ぎ、販売店の多くが営業休止を余儀なくされた20年春、新車の販売は落ち込んだ。中国では2月に前年同月比8割減、米国でも4月に同5割減となった。

ところが、4月から中国で前年比プラスに転じ、その後2桁成長が続いた。助成金や規制緩和など国が主導する形で需要創出が進んだためだ。米国でも夏から活気が戻り、9月に前年同月を上回った。コロナ対策で市場にあふれたマネーの受け皿となった。

だが、増産に欠かせない半導体への備えは万全ではなかった。

まず足りなくなったのが、クルマの「走る、曲がる、止まる」を制御するなど指令を出す「マイコン」だ。 半導体会社は一般的に、微細加工が必要な半導体を台湾積体電路製造(TSMC)など半導体受託生産(ファウンドリー)に発注する。自動車の生産が止まった20年春から夏、ファウンドリーには巣ごもりで需要が高まったパソコンなど消費者向け機器で使う半導体の注文が新規で舞い込んだ。

自動車の機能の複雑化に伴い、独コンチネンタルなど部品大手は汎用チップの活用を増やしている。つまり、これまでクルマ向けだったラインを民生品向けにシフトするのに支障はない。これと前後して「ファブレス(工場なし)企業などがファウンドリーのキャパシティーや材料の買い占めに走った」(取引関係者)。自動車会社が調達を元に戻そうにも、そこにはもう「余裕」がなかったというわけだ。

もう1つ、不足が顕著になっているのが、電力を効率的に使うのに必須のパワー半導体だ。この背景には、SDGs(持続可能な開発目標)をベースとした新たな市場づくりがある。コロナ禍を受け、欧州各国などの産業支援は、気候変動に関連する分野への傾倒が強まった。この「官製需要」が今、新たな産業の創生を強力に後押ししている。

例えば、欧州連合は官民で100兆円規模の資金を投じて洋上風力の発電能力を50年に3億キロワットと現在(1200万キロワット)の25倍に高める計画を持つ。先端の発電機においてカギとなるのがパワーデバイス。重機械産業もコロナを機に、半導体の調達を加速した。

EVで使う半導体はガソリン車の約2倍に

公的機関を相手にする産業は、自動車産業にとって強敵だ。「半導体メーカーからすると、長期的に安定した受注が計算できる上、チップ販売における利益率も高く取れる」(英調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクター)。製品メーカーとして、サプライヤーにより良いチップを安く求めるという方程式は成り立ちにくくなる。

そもそも、自動車産業の成長もSDGsありきで進んでいる。欧州、中国から排ガス規制が広がり、日本政府も30年代半ばまでに新車販売の全てを電動車とすることを検討する。電気自動車(EV)専業の米テスラの20年の新車販売は約50万台と前年から4割増え、直近の株式時価総額は7000億ドル超と過去1年で8倍ほどになった。

「機械」というより「電機」に近いEVは当然、既存のガソリン車よりも半導体を多く搭載する。英オムディアによると、ガソリン車1台あたりの半導体価格220ドルに対し、EVは450ドルと約2倍。ハイブリッド車(HV)はさらに多く、500ドル近くになるという。

不足しているなら生産量を増やせばいいのでは、という単純なものでもない。まず、マイコンをつくるラインは、ファウンドリーにとって最先端ではなく、その多くがスマホやゲームに使う高性能チップ向けの「お古」だ。そのため、マイコンは直接的な投資の対象になりにくい。

一方、パワー半導体は微細加工を必要としないものの、生産している会社の規模が小さく、投資を伴う増産は簡単ではない。仮に増産投資を始めたとしても、装置を購入してラインをつくるには一般的に9~12カ月が必要で、設計者が少ないという人材面での足かせもある。

前出の部品大手幹部は「通常より高い金額で買わざるを得ない」と話す。一部の半導体メーカーやファウンドリーからすると「人気者」となった今はめったとない価格交渉の好機。高速通信規格「5G」など新たな規格に伴い、通信領域でも半導体需要は高まっている。製品メーカーに堂々と吹っ掛けることはないとしても、その立場は強くなっている。

一橋ビジネススクールの楠木建教授は「(大正時代の)米騒動とは食糧危機ではなく、人間の本性がつくった騒動だった」と指摘する。20年はマスクの需給バランスが崩れて価格が上がる「マスク騒動」があったが、人の口は数が限られていた。今回の事態から見えるのは、新産業の勃興と投機の側面。産業のコメ不足は今後、騒動の色合いを深めて長引くかもしれない。

(日経ビジネス 北西厚一)

[日経ビジネス電子版 2021年1月12日の記事を再構成]

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