ワークマンが発売する冷暖房服。スイッチ1つで冷却と温熱を切り替えられる
服の下に着用してスイッチを押すとすぐに冷却、加熱が始まる。「着るエアコン」とも言えそうな冷暖房服を、作業服大手のワークマンが5月に発売する。共同開発したのはパナソニックホールディングス子会社のShiftall(シフトール、東京・中央)だ。異色のタッグが、日本の労働の風景を変えるかもしれない。
開発した冷暖房服は、電気を通すと電極の入れ替えで温度が変わる「ペルチェ素子」を使って温度調節する。服の背面に組み込んだアルミ板を冷却・加熱する仕組みだ。約1秒でアルミ板の表面温度が変わり始め、冷却は最大で10度ほど温度を下げる。温熱時は最大42度まで上昇する。高温を検知してやけどを防ぐ機能も組み込んだ。
ペルチェ素子を使ってアルミ板を冷却・温熱する仕組み
空調付きの服といえば電動ファンを組み込んだ製品が主流だ。外から空気を取り込むため「服が膨れ上がって見栄えが悪い」「動作音が気になる」などの課題があった。暖房目的で利用する場合は「ヒーター付きウエア」を別途購入する必要があるなど、使い勝手の面で改善の余地があった。
冷暖房服は、スイッチ1つで冷暖の切り替えができる。1年を通じて使えるだけでなく、薄い半導体を背面に装着するだけなので、服の膨らみも少ない。
定価は1万9800円。まずは1万着をテスト発売し、3年後には50万着を売り上げる青写真を描く。屋外で働く作業員だけでなく、野外フェスやスポーツ観戦など幅広い需要を取り込む狙いだ。
ワークマンがパナソニックグループという異業種と組んで新製品の開発に挑んだのは「社会的ニーズに取り組まないと、この先に成長を続けていくことは難しい」(ワークマンの土屋哲雄専務)と考えたからだ。
折からの円安により、外国人技能実習生の日本離れが進むと懸念されている。一方、国内では少子高齢化が進み、労働人口は減少していく見通しだ。働き手の減少はワークマンにとって顧客の喪失を意味する。作業服メーカーとして誰もがいきいきと働ける製品を生み出せないか――。
そのためにワークマンは2月に「快適ワーク研究所」を新設した。様々な企業や大学とコラボし、過酷な環境下でも快適に仕事ができる製品を生み出していく。目指すは、「労働寿命の延長」という社会的ニーズに取り組むソリューション型企業への脱皮だ。
国際フォーラムで開かれた23年春夏製品発表会では「快適ワーク研究所」のブースが設けられた
快適ワーク研究所が扱うカテゴリーは広い。2月には「アシストパワースーツ」の本格販売も始めた。軽量かつ、背筋の使用率を38%以上軽減できるといい、競合品の半額程度となる9800円で売り出した。初年度で2万着の販売を見込んでいる。
快適ワーク研究所の所長には、「アスレ」シリーズなどの大ヒットシューズを生み出した役員待遇製品開発部長の柏田大輔氏が就任した。特殊素材やセンサー、医療機器、メカトロニクス、化粧品のメーカーなどと協業し、医療やヘルスケア分野の研究も加速させる。売り上げ10億円以上に育つ大型製品を投入していく計画だ。
2月に本格販売を始めた軽量パワーアシストスーツ
快適ワーク研究所の対象カテゴリーは広く、医療やヘルスケア分野もターゲットだ
冷暖房服も進化を重ねていくという。人工知能(AI)と組み合わせて、天候や気温、室温を基に好みの温度へ調節したり、心拍や体温を計測して熱中症や低体温症といった不測の事態を検知したりできる「パーソナルなエアコンウエア」に挑む。
作業服市場で圧倒的なシェアを誇り、アパレルブランドとして認知されるようになったワークマン。労働寿命を延ばす画期的な製品を生み出すことができれば、衣料品メーカーという枠をも越える。
(日経ビジネス 酒井大輔)
[日経ビジネス電子版 2023年3月13日の記事を再構成]
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