<訂正>「末吉竹次郎氏」とあったのは「末吉竹二郎氏」の誤りでした。(2022/7/1 12:57)
日本経済新聞社は、脱炭素社会の実現を後押しするNIKKEI脱炭素プロジェクト(2022年度)の第1回全体会議を5月に都内で開いた。開始から2年目となり、前年度にまとめた宣言に基づき企業がどう行動するか、社会にどう実装するか、次の段階に入る。また、幅広いステークホルダーと連携しながら関連する個別のテーマについて議論を深め、社会実装や行動変容につなげられるよう活動していく。
全体会議は3回に絞り、分科会で議論を深める(5月、都内)
全体会議には、新たにプロジェクトに参画した日本コカ・コーラ、ボストン・コンサルティング・グループのほか、21年度からの継続参加企業、NIKKEI脱炭素委員会(委員長・高村ゆかり東京大学未来ビジョン研究センター教授)のメンバーなどが出席した。
会議では出席者がそれぞれあいさつを兼ねた自社の取り組み、脱炭素に向けた意見や決意などを述べ、活動スケジュールも確認した。21年度は企業と委員が集まる円卓会議を中心に運営していたが、22年度は全体会議を3回に絞り、代わりに個別テーマを深掘りする分科会を複数回設定し、議論を重ねていく。
プロジェクトでは、11月にエジプトで開かれる第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)にあわせ、現地でシンポジウムを開き、企業トップらが英語で世界に情報を直接発信する。英国で開かれた21年のCOP26で実施した同様の取り組みを継続する。国内でのシンポジウム開催や表彰制度、調査なども続けていく予定だ。
ウクライナ情勢やエネルギー価格の高騰など、脱炭素の取り組みにかかわりそうな不確定要素も少なくないが、脱炭素化や再生可能エネルギーへの転換を加速すべきだとの方向感は一致している。
急激な気候変動の背景に温暖化ガス排出があることは間違いない。各国の排出削減目標を合算しても、産業革命前に比べ平均気温の上昇を1.5度以内に抑えることは困難との試算がある。50年に排出の実質ゼロを実現するため、国や企業だけでなく個人にも決意と行動が求められている。
新規参画企業
ジャパン&コリアオペレーティングユニット広報・渉外サスティナビリティー推進本部副社長 田中美代子氏
消費財を製造するメーカーとして、サーキュラーエコノミーや資源循環に深い関心を持っている。
パッケージや容器を簡素化すると同時に、いかにリサイクルを進めるか。このプロジェクトで様々な方のお知恵を拝借し、同じものから同じものに生まれ変わる水平リサイクルを促進していくにはどうすればいいのかなど、ご指導いただきたい。
日本は進んでいる点もあって、ペットボトルのリサイクルはその最たる例だ。日本のペットボトル回収率は今、96%以上といわれている。これはひとえに国民の皆さんが日ごろからラベルをはがしてキャップを取り、分別してくれているからこそ。若者ら消費者の意見を取り入れながら議論を深め、日本の先進的な取り組みをCOP27のような場で広く発信できればと考えている。
日本共同代表 内田有希昌氏
脱炭素の取り組みは、非常に複雑な方程式を解くようなものだ。企業のみならず政府や消費者の理解を得ながら解いていく必要があり、ロシアのウクライナ侵攻でさらに方程式がややこしくなった。特にサプライチェーンの再構築がより複雑になり、非常に重要なテーマになっている。
関心が高いのはスコープ3の部分。特に中堅・中小企業は開示の前に測定・測量から学んでいかなくてはならない。どのくらい排出していて、どれぐらい減らしていくのか。自治体や金融機関の理解も必要で、そういう点も含めサプライチェーンをいかに構築するのかを探っていきたい。
様々な見直しによってコストがかかる領域がでてくるが、この重い部分は社会全体として負荷を考えていかなくてはいけないと思う。
参画企業
経営企画部サステナビリティ推進チーム部長 沖宏治氏
今年度はステークホルダーと連携した取り組みをいかに実装していくかを考えたい。また、気候変動に加えて自然資本、地方創生を統合して進めることが重要だ。地方創生は産官学が様々な知見を結集しながら進め、日本全体に取り組みを浸透させていく必要がある。脱炭素アワードの表彰事例など、参考になるものを広めていくべきだ。
取締役専務グループ経営委員 進藤富三雄氏
当社グループでは温暖化ガスの排出量削減とともに、国内外で植林面積を拡大してCO2を固定するプロジェクトを進めている。また、再生可能な木質資源に着眼し、プラスチックに代わる環境配慮型の素材や製品の開発を行い、グリーンイノベーションに取り組んでいる。生物多様性について対応策や技術などの情報を共有したい。
社長執行役員CEO 宮内大介氏
最近、理想と現実のギャップを切に感じる。経済性と社会貢献とのギャップであったり、エネルギーセキュリティーと環境問題のギャップであったり。そのギャップを埋めるには、そこに向かっていくパッションを醸成することが非常に重要で、少しでも具体的な一歩が必要になる。脱炭素が理想ではなく現実だということを浸透させたい。
サステナブルビジネス推進室サステナビリティ・チーフストラテジスト 伊井幸恵氏
脱炭素に取り組む企業活動の中で、金融は通常、脱炭素戦略の最後の部分である財務戦略の実行をサポートしている。ただ、それ以外にも、経営戦略へのサステナビリティーの組み込みについてサポートを強化していければと考えている。今後、移行戦略にかかわる資金調達をどうするのかなど、取引先と一緒に議論を進めていきたい。
理事コーポレートコミュニケーション部長 柴田修氏
昨年「独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」中長期ビジョンを打ち出し、今年は実践するための新組織を立ち上げた。カーボンニュートラルなどに寄与する新規事業で2030年に売り上げ1000億円以上を目指す「New Value1000」への体制を強化。50年のCO2ネットゼロ達成を加速する。
執行役員広報部長 藤岡千春氏
昨年のこのプロジェクトの議論も参考に「脱炭素社会の実現に向けたグループ行動計画」を策定した。今年度は行動計画実行元年、定めたアクションを着実に進める。課題はサプライチェーン全体での脱炭素化。特に川上の部分は当社だけではどうにもならない。実現には新たな技術、発想が必要で、参画企業の皆さんとも共創していきたい。
チーフ・サステナビリティ・オフィサー 滝沢徳也氏
当社は2025年までに「ネットゼロ」を目指しているが、コロナ下で減っていた海外渡航が回復しつつあるなか、7月の当社新年度を迎えるにあたり排出量のアロケーションを始めた。サプライヤーについても、新年度は実際の取引ベースで話をする局面を迎える。まさに正念場で、本当の意味での削減を行う必要があると考えている。
コーポレート戦略部門部長 松本一道氏
燃料高騰に加え、資源の争奪戦も起きて非常に厳しい様相を呈している。そんななか、安定供給と脱炭素との両立を目指し、時間軸を考えながら現実解を追求している。再エネの拡大はもちろん、原子力や火力、揚水、蓄電池の活用など総力戦で挑み、技術開発も進める。ディスクロージャーと金融、自然資本にも強い関心を持っている。
取締役副社長執行役員 奥田久栄氏
ウクライナ侵攻を受け、脱炭素とエネルギーセキュリティー両立の視点から戦略を見直している。脱炭素を進める上で重要なのが国際協調。アジアの新興国はエネルギー需要の伸びが大きく、簡単に脱炭素にはいけない。認識のギャップは大きく、こうした国々と協調しながら現実的かつ具体的な「トランジションパス」を描けるか議論したい。
NIKKEI脱炭素委員会メンバー
東京大学未来ビジョン研究センター教授 高村ゆかり氏
企業にとっては新型コロナウイルス感染症に加え、今年に入りウクライナ情勢に伴いエネルギー・食料など事業への影響が及んでいる。こうした状況下だが、脱炭素に向かう潮流は止まらない。むしろ加速している。企業の脱炭素に関するディスクロージャーを巡る動きも加速するだろう。
NIKKEI脱炭素プロジェクトでは、2021年11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)やシンポジウムで参加企業のトップ自ら国内外に発信したほか、会合の中でユース(若者団体)との交流をしてきた。2年目となる22年度は昨今の情勢を踏まえ、参加企業の関心の高い事柄や脱炭素に関する様々なテーマを深掘りしていきたい。
分科会ではまず2つのテーマを議論したい。1つ目は「生物多様性、自然資本」だ。22年は国連生物多様性条約の会合で30年、50年の目標について最終合意が見込まれる。
2つ目のテーマが「ディスクロージャーと金融」だ。IFRS(国際会計基準)財団傘下の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が開示の気候変動基準案を公表した。同時に自然資本について企業のディスクロージャー作成も検討が進む。
またユースとの膝詰めの交流会を持ちたい。エネルギー安全保障や資源循環、サプライチェーン、自社以外の排出であるスコープ3などについても議論を深めたい。
国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問 末吉竹二郎氏
差し迫る気候危機に対しての危機感と切迫感に違いがあれば、脱炭素に向けた対応策のあり方について議論がかみ合わない。対応策のレベルやスピード感にずれが生じかねない。科学的データに基づいた危機感の共有をもっと進めるべきだ。
グリーントランスフォーメーション競争は産業構造の転換やビジネスのあり方の変革を求める。日本社会全体がどう受け入れるか、念頭に置くべきだ。
CDP Worldwide─Japan ディレクター 森沢充世氏
脱炭素に向けて世界はものすごい勢いで動いている。日本になかなか伝わってこない。企業は自社排出量だけでなく、供給網全体で排出するスコープ3の開示を求められる。日本の大手企業は取引先にあまりプレッシャーをかけていない。動き出さないと日本の中小企業は訳も分からず、国内外の取引先を失う。気候変動と同時に生物多様性も焦点で、日本は独自の対策を編み出さないといけない。
アセットマネジメントOne運用本部責任投資グループシニア・サステイナビリティ・サイエンティスト 田中加奈子氏
脱炭素は良心やモラルに訴えるだけで済む時代は過ぎ去った。やはり「やったもん負け」ではなく「やったもん勝ち」になる社会の仕組みが必要だ。技術開発やイノベーションは脱炭素に向けた非常に重要な要素だ。少し先に見える使えそうな技術に立脚したシステムが国や企業による技術・研究開発投資を促す。脱炭素と脱炭素以外を含めた将来像を描き、ウィン・ウィンになる取り組みが要る。
高崎経済大学学長 水口剛氏
東京証券取引所プライム市場の上場企業に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と同等の開示が義務付けられた。3月期決算企業は今夏東証に初めて報告する見通しだ。形だけの開示や帳尻合わせが広く起こると想像する。「開示のための開示」では制度化した意味がない。開示を通して正しい意思決定を行い、その結果として脱炭素へ社会が変わる。評価手法を含めて議論が必要だ。
東京大学大学院工学系研究科 准教授 田中謙司氏
地球という共有資源を借りながら社会は動いており、生物多様性や自然資本について議論を深掘りしたい。エネルギーについては、ウクライナ危機があり注目を集める。サプライチェーンと資源循環は切り離せない。あらゆる分野はイノベーションが関係する。開示によって課題を定量化し、その差分を課題として認識し、技術的なイノベーションを促す。そうした議論を深めていきたい。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング フェロー プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高まり氏
ウクライナ危機に伴うエネルギー安全保障と脱炭素について経営者から必ず質問が出る。カヌーにたとえて答えている。カヌーは蛇行しながらしか前に行かない。カーボンニュートラルの道に対して蛇行の制約が多くなり蛇行の幅が変わってきている。今年11月のCOP27はエジプトが議長国で、途上国の論理が強くなるだろう。脱炭素への公正な移行を今まさに考え始めるべきだ。
自然エネルギー財団常務理事 大野輝之氏
ロシアによるウクライナ侵攻とエネルギー安全保障について、4月掲載の日経新聞で日欧まったく正反対の受け止めがあった。日本の識者は脱炭素化に偏り過ぎで、もっと化石燃料を大事にすべきだという。欧州の識者は化石燃料の転換が脱炭素化のみならずエネルギー安全保障の観点から大事だという。日本が苦労しているのは、国内産資源である自然エネルギーの活用が遅れているからだ。
再エネへの転換の重要性は高まる(北海の洋上風力発電所)
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