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牛の細胞でステーキ肉 日清食品、食料危機に挑む

コラム(ビジネス)
小売り・外食
2020/10/27 2:00
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

日清食品HDが作製した培養肉

日清食品HDが作製した培養肉

日清食品ホールディングス(HD)は牛の筋細胞からステーキ肉を作製する「培養肉」の研究を進めている。東京大学などと共同で研究し、2024年度中に基礎技術の確立を目指す。牛肉は生育に多量の温暖化ガスを排出し、環境負荷も高い。培養肉が実現すれば環境に負荷をかけずに牛肉を生産できるため、食糧危機の解決にもつながる。

東京都目黒区にある「東京大学駒場リサーチキャンパス」。この研究室の一室で世界初の「培養ステーキ肉」が生まれた。大きさはわずか10ミリメートル×8ミリメートル×7ミリメートル。この小さな一片が食の常識を変えるかもしれない。

食糧危機が叫ばれるなか、世界では代替肉に注目が集まっている。国連食糧農業機関(FAO)は新興国の経済成長などで食肉需要は50年に07年比で1.8倍に拡大すると予測する。

ただ、牛などの家畜の生産には餌となる飼料や水が多量に必要となる。温暖化ガスも多く排出するため、持続可能な生産が難しくなっている。

■ミンチ状の肉より難しい

現在では代替肉として実用化しているのは大豆などを使った大豆ミートや植物肉がほとんどだ。13年にはオランダの研究者が「培養ミンチ肉」を使ったハンバーガーをすでに実現済みだが、価格面などから実用化には至っていない。日清が目指すのは培養肉の中でも最も実現が難しいステーキ肉だ。

培養肉は牛の筋細胞を採取したうえで増殖させ、細胞同士をくっつけることで作製できる。だが、単純に細胞を結びつけただけの培養肉はバラバラの方向を向いた細胞の集合体でミンチ状の肉にしかならない。

研究を担当する日清HDの仲村太志氏は「日常の食生活ではミンチよりブロック肉を使うことが多い。塊の肉を作ることが培養肉では重要だと思っていた」と話す。

ステーキ肉を作るには筋細胞が一方向に整列して筋繊維を作る必要がある。ミンチ状の肉よりもはるかに作製は難しい。

試行錯誤するなかで出会ったのが東大の竹内昌治教授だった。竹内教授は筋肉の組織を体外で立体的に形成する研究に取り組んでいた。竹内教授は「日清と組めたのは良い機会だった。食品にするプロセスは日清が担う。東大だけでは培養肉は作れない」と語る。

ステーキ肉の食感を生み出すには筋繊維を作る必要がある。そこで考えたのが、薄い膜状の「筋芽細胞モジュール」を使う方法だ。筋細胞とコラーゲンゲルを混ぜた液体を等間隔に切れ込みを空けた型に流し込んでモジュールを作る。このモジュールを幾重にも積み重ねることで、モジュール同士が結びついて厚みのあるステーキ肉が出来上がる。

ただ、単純にモジュールを積み重ねるだけでは厚みが増すほど内側まで栄養が行き渡らない。切れ込みの位置を変えてモジュールを積み重ねることで内部まで液体が染み渡って栄養が届き、肉に厚みを持たせることができた。

42枚ものモジュールを重ね、1週間培養することで、ようやくサイコロステーキ状の培養肉が出来上がる。しかし、見た目はまだまだ牛肉にはほど遠い。

培養肉は筋繊維からなるため、色も真っ白で食紅をつけなければ肉の赤身は再現できない。血管や脂肪などを含まないため、見た目や味わいなども牛肉とは全く異なる。

味や見た目以外にも課題はまだまだ多い。まず必要なのは大型化だ。24年度中に7センチメートル×7センチメートル×2センチメートルのステーキ肉の実現を目指す。

実用化にはコストダウンも必要になる。オランダの培養肉バーガーは3000万円以上する超高級品。誰もが口にできるまでは量産化も含め大幅なコストダウンが不可欠となる。

■法律はまだ未整備

培養肉特有の課題もある。仮に実用化しても、どこまで消費者に受け入れられるかという問題だ。19年11月に弘前大学と実施した意識調査では「培養肉を試しに食べたい」という回答は27%にとどまった。

一方で食糧危機の解決につながるなど有用性を事前に説明すると、肯定的な回答は50%まで増えた。仲村氏は「ちょっとしたきっかけで受け入れてくれる人は増える。もっと培養肉を知ってもらうことが重要だ」と話す。

培養肉に関する法律も未整備だ。仮に何か問題が起きてもどう法的に対応すべきか、そもそも「肉」と表示することが可能かといったルール作りの議論は始まったばかりだ。

研究開始から1年半。ようやくここまでたどり着いた培養肉だが、まだ誰も口にしたことはない。竹内教授は「やるべきことはたくさんあるが、ビジネスとしては色々なチャンスがある分野になりつつある」と話す。研究室で生まれたステーキ肉が世界の食糧危機を救えるか。最初の一歩が踏み出されている。(企業報道部 逸見純也)

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