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三菱航空機・元開発トップ、かなわなかった意思疎通

日経ビジネス
2020/7/3 2:00
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6月30日付けで三菱航空機を去った「スペースジェット」の開発責任者、アレクサンダー・ベラミー氏(写真:おおさきこーへい)

6月30日付けで三菱航空機を去った「スペースジェット」の開発責任者、アレクサンダー・ベラミー氏(写真:おおさきこーへい)

日経ビジネス電子版

三菱重工業傘下の三菱航空機(愛知県豊山町)で小型ジェット機「スペースジェット」の開発責任者を務めていたアレクサンダー・ベラミー氏(40)が6月30日、ひっそりと会社を去った。かつて「MRJ」と呼ばれた新型航空機の開発が遅れる中で4年前に合流。2018年から開発トップとして事業を引っ張ってきたが、三菱重工の日本人社員らと意思を通わせることはできなかった。

適切な規模の活動でスペースジェットM90の型式証明取得に向けて取り組むべく、段階的に組織・活動の見直しを実施する――。三菱航空機は6月15日、「今後の運営方針及び役員人事のお知らせ」とするニュースリリースでそう記した。

三菱航空機は90席級の「M90」と並行して、70席級の「M100」の計画を進めていた。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で航空機業界は甚大な影響を受け、三菱重工としてもスペースジェットに割く資金が従来のようには取れない。M100は事実上の開発凍結となり、計画を率いていたベラミー氏はお役御免となった。

ベラミー氏は三菱航空機に入社する前の5年間、競合のカナダ・ボンバルディアに籍を置いていた。ボンバルディアでは小型旅客機「Cシリーズ」の開発メンバーで、計7機の飛行試験機に携わり、商業飛行に必要な「型式証明」取得をリードした。それ以前は英国のBAEシステムズに勤務。いわゆる世界を渡り歩く「航空機開発のプロ」だ。

三菱航空機に加入したのは「今ゼロから造っている航空機は世界でMRJだけ。日本の新たな産業をつくるという意味でも魅力的だった」(ベラミー氏)から。ただ、入ってみると「1つのゴールに対しバラバラになっている組織だと感じた」という。当初は飛行試験のプログラムマネジャーだったが、当時の宮永俊一社長(現会長)にリーダーシップを評価され、18年に「CDO(最高開発責任者)」に昇格した。

■外国人技術者を一気に増やしたが……

宮永氏がベラミー氏に期待したのは開発面だけではなかった。MRJ開発が遅々として進まない根本には、航空機部門がある「名古屋」から本社に適切な情報が伝わらない「縦割り」の問題があると考えていた。そこで16年末以降、エキスパートと呼ばれる外国人技術者を数十人から300人規模に増やし、独善的だった名古屋の「開城」を試みた。

この仕上げがベラミー氏の開発トップへの起用だった。効果は確かに出た。宮永氏とベラミー氏とのホットラインで指揮命令系統は統一されて開発も軌道に乗り、18年半ばには宮永氏が「もやは晴れた」と言い切った。ただ、この状況も長くは続かなかった。開発、組織の両面で、新たな綻びが見え出したのだ。

■「事実上のクビ」

開発面では、スケジュールが再び遅れ始めた。飛行機の内部にはわせる電気配線の組み付け作業でてこずり、型式証明の取得作業が予定通りに進まなくなった。

組織面での混乱は、19年4月に宮永氏が三菱重工の会長となり、泉澤清次社長が就任したことに遠因があった。ベラミー氏が宮永氏を頼ったことで、泉澤氏のラインへの情報伝達がスムーズにいかない問題が発生したのだ。宮永氏は泉澤氏との連携を密にしたが、結果的に、ベラミー氏を中心とするエキスパートが「新たな縦割り組織」となってしまった。

三菱重工の業績は厳しく、20年度は本業のもうけがゼロとなる見通し。スペースジェットの予算は600億円と前期から半減し、M100の開発は「検討作業を見合わせる」(泉澤氏)ことにした。「型式証明だけなら日本人だけで十分」とある関係者は話す。そして「ベラミー氏と協議し、合意の上での退任となった」(三菱航空機)。

ただ、事情に詳しい複数の関係者は「ベラミー氏は事実上のクビ」と指摘する。スペースジェットは今年2月に6度目の納入延期を発表し、20年3月期には減損損失などで2600億円強の費用を計上した。「ベラミー氏はもともと飛行試験の担当にすぎず、エキスパートも大したことはなかった」。信頼関係の構築が及ばず、そんな声が社内に広がっていた。

「素晴らしい飛行機を世界に出せるチャンスだ」。そう語っていたベラミー氏にとって、志半ばでの離脱は無念だろう。ただ、世界を渡るプロの飛行機屋としてみれば「元スペースジェット開発トップ」という肩書は悪くはないのかもしれない。機体が完成すれば素地をつくった立役者、完成しなければ知らぬ存ぜずで通すこともできる。

むしろ、大変なのはスペースジェットの方だ。M100の凍結に伴い、400人近くいたエキスパートの多くが会社を離れるとみられている。現在までに約300ある受注の一部が、70席級を選択できないことを理由にキャンセルされる可能性もある。「止血」は必要としても、その先をどう描くのか。視界には再び「分厚いもや」がかかっている。

(日経ビジネス 北西厚一)

[日経ビジネス電子版 2020年6月30日の記事を再構成]

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