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旭化成、続く一人旅 タイヤ用合成ゴム再編どこ吹く風

日経ビジネス
コラム
自動車・機械
環境エネ・素材
2021/6/2 2:00
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旭化成は合成ゴム「S-SBR」で世界シェア首位(旭化成のシンガポール工場)

旭化成は合成ゴム「S-SBR」で世界シェア首位(旭化成のシンガポール工場)

日経ビジネス電子版

JSRがタイヤ用ゴムを主力とするエラストマー(合成ゴム)事業に終止符を打つ。このほどENEOSに事業を売却すると発表した。売却額は1000億円規模の見通し。タイヤ用合成ゴムを巡っては住友化学日本ゼオンも事業統合するなど合従連衡が進んでいるが、順調に事業を進めているのが世界シェア首位の旭化成だ。電気自動車(EV)など次世代車のタイヤに求められる技術を的確に捉え、中韓勢との競争にさらされながらも一人旅を続けている。

エラストマーはJSRの祖業で1957年に官民出資で発足した。足元では売上高の3割を占める。代表的な材料は低燃費タイヤ向けの「溶液重合スチレン・ブタジエンゴム(S-SBR)」と呼ばれる合成ゴム。タイヤの接地面(トレッド)に使われる。

だが、エラストマー事業は2021年3月期まで2期連続の営業赤字で、前期は772億円の減損損失を計上した。「選択と集中」を経営の信条とするエリック・ジョンソン最高経営責任者(CEO)が、聖域なく事業を見直す一環で売却に踏み切った。

S-SBRは汎用の合成ゴムと違い、もともと日本勢が強みを発揮していた。先駆者は日本ゼオン。タイヤの耐摩耗性や転がり抵抗の低減などの研究開発で日本勢がリードし、ブリヂストンや仏ミシュランなど大手タイヤメーカーの需要を取り込んできた。

だが、アジア市場で中韓勢が価格競争を仕掛けたことで近年、市況が悪化。20年8月にはタイヤ用合成ゴムSBRの大口取引価格が17年ぶりの安値をつけるなど不調に陥り、S-SBRも余波を被った。特に錦湖石油化学やLG化学といった韓国勢は近年、高機能化と低コスト化を両立している。

次世代車向けで顧客離さず

S-SBR業界の再編は今回が初めてではない。口火をきったのが、日本ゼオンと住友化学が事業統合し17年に営業を始めた新会社、ZSエラストマー(ZSE、東京・千代田)だ。生産規模で見劣りし営業力も弱かった。営業と研究開発は一本化したが、製造は今も日本ゼオンと住友化学が担っている。いずれ統合する方針だが、収益力の強化は道半ばだ。

そのなかで一人旅を続けるのがS-SBRで世界シェア首位の旭化成。年産能力は国内8万9000トン、海外13万トンを誇る。19年にはシンガポールの設備を増強。生産能力は約15%増えた。

「顧客(のタイヤメーカー)としっかりとした関係を築けている」。旭化成の工藤幸四郎常務執行役員はこう強調する。理由の1つがJSRやZSEと異なる製造法だ。

旭化成の製造法は「連続重合」と呼ばれ、タイヤの耐摩耗性に特に力を発揮する。一方、JSRやZSEは「バッチ重合」と呼ばれる技術を得意としており、主に転がり抵抗の低減やウエットグリップ性能を引き出す設計になっている。

重量増に対応した合成ゴムの材料開発がカギ

EVや燃料電池車(FCV)など次世代車を見据えたとき、タイヤの転がり抵抗もさることながら耐摩耗性が一段と価値を持つようになる。なぜならEVはガソリン車と比べ一般的に2~3割重量が増すからだ。

FCVもガソリン車より重量は増える。重量増はタイヤが摩耗しやすくなるため、ゴム原料であるポリマーの最適な分子設計や練り込みなど高度な加工がしやすい材料開発のノウハウが求められている。旭化成の小堀秀毅社長は「顧客(のタイヤメーカー)も変わろうとしており、そこに追随できている」と話す。

もっとも、旭化成もプラントの新増設に走る中国勢や高機能化を進める韓国勢との競争が激しくなっており、「新規顧客の開拓には苦戦している」(小堀社長)。欧州に工場を新設する計画もあったが立ち消えになった。

ZSEの伊藤敬社長は「30年までは次世代車に対応したタイヤの材料開発が勝敗のカギを握る。ZSEはバッチ重合だが、耐摩耗性にも力を入れた開発を急ぐ」と説明する。ENEOSもS-SBRの原料のブタジエンについて技術の知見を有しており、旭化成への包囲網は強まる見通しだ。

S-SBR市場は10年から19年まで年率6~9%で成長。コロナ禍で20年に成長は途絶えたが、足元で自動車用タイヤの回復が目に見えて進んでいる。S-SBRの需要も盛り返してきており「21年には160万~170万トン規模とコロナ禍前に戻る見通し」(ZSE)だ。

ただ、市場が戻ってきても中韓勢を前に価格競争の波にのみ込まれかねないリスクもつきまとう。そうならないためにも旭化成のように、タイヤメーカーが描く自動車の姿を先取りした材料開発が生き残りの条件となる。JSRの祖業売却から浮かび上がるのは、「コモディティー(汎用品)化のわな」にはまらないよう技術で先を走り続けることを宿命づけられた日本メーカーの姿ともいえる。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2021年5月28日の記事を再構成]

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