【総合電機首位】技術力に定評。事業入れ替えで構造改革推進。
スタック社長は米アルミ大手でCEOを務めた(写真:吉成大輔)
合金製造に使う日本最大級の真空溶解炉を擁するプロテリアルの安来工場(島根県安来市)。スタック社長は就任前、製造現場を訪れ「あらためて技術力の高さを目の当たりにし、大きな成長の可能性を感じた」という。
同工場は旗艦拠点で、世界シェア首位の自動車用無段変速機(CVT)ベルト材や航空機エンジン用のニッケル合金などの合金を手掛けている。金属の材料設計や不純物を取り除くノウハウなど競争力の高さは折り紙付きだが、高い技術力の半面、低成長、低収益の事業を抱えて青息吐息になっているのもプロテリアルのリアルな姿だ。
旧日立金属は2022年、米ベインキャピタルや日本産業パートナーズなどの日米ファンド連合によるTOB(株式公開買い付け)後、12月に上場廃止となった。親会社だった日立製作所は日立金属株を放出。かつて日立化成、日立電線と並び「日立御三家」の一角を占めたが、名門の看板を下ろしファンドのもとで経営再建を進める道を選んだ。
社長に迎え入れられたスタック社長は、欧州の銀行大手を経て米アルミ大手アレリスの最高経営責任者(CEO)を5年間務めた。同じ素材業界に籍を置いていただけあって非鉄金属にはめっぽう強く、プロテリアルに対する問題意識は明快だ。
「企業文化が統一されていない。工場間だけでなく、工場内でも品質管理やメンテナンスなどが異なっている。操業システムの標準化を進め、タイや米国など海外を含めどこの工場にいっても同じ形式でものづくりができるようにする」と話す。
旧日立金属はここ10年、M&Aによって資産を増やしてきた。13年に日立電線と合併したほか、14年には北米の自動車用鋳物最大手のワウパカ・ファウンドリーを買収。航空機エンジンなど向け材料を手掛ける三菱マテリアル傘下のMMCスーパーアロイも子会社化した。
規模では有数の総合非鉄金属メーカーになり、15年3月期には売上高1兆円の大台に乗った。だが、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれる買収先企業の統合作業や、ポートフォリオマネジメントが追い付かず資産効率が悪化。売上高も1兆円から伸び悩んでいる。
19年には磁性材事業で多額の減損損失を計上したほか、21年3月期の連結決算は最終損益が422億円の赤字となり、2期連続で過去最大の赤字に沈んだ。
スタック社長は各事業が部分最適に陥っているがゆえに、全社的に生産性や収益性が低いと分析。22年3月期の投下資本利益率(ROIC)は3%と、7.5%という想定資本コストを大きく下回る。「ポートフォリオを考え直さなければならないが、逆にこれはチャンスでもある。まずは今あるリソースを活用して再び成長させたい」と話す。具体的にどの低収益事業が対象になるのか公にしていないが、自動車用鋳物などとみられる。22年にはワウパカの売却も業界内で浮上した。
もっとも、株主である投資ファンド連合が立て直しをどこまで待ってくれるかは分からない。「非上場化で自由裁量が増え、長期目線での経営ができるようになる」とスタック社長は言うが、一般的に経営再生支援を手掛けるプライベートエクイティ(PE)ファンドの投資回収期間は3〜5年といわれる。
しびれを切らしてドラスチックな事業再編を求める可能性もあり、それはスタック社長も覚悟しているはず。プロテリアルは企業価値を高めたうえで再上場を目指しているが、その道のりで大なたを振るう局面もありそうだ。
主力拠点の安来工場は世界でも有数の合金製造や加工設備が並ぶ
プロテリアルは自動車・家電向けのフェライト磁石や半導体用のリードフレーム材、リチウムイオン電池など向けのクラッド材など世界シェア首位の製品群が多い。旗艦拠点がある安来市では日本刀の鋼として名高い「玉鋼(やすき鋼)」が、日本独自のたたら製法で作られてきた。
1910年創業という伝統と技術に裏打ちされた日立金属が「日立」の看板を下ろし、外国人トップのもとでどういったメーカーに再生するのか。スタック社長はまず、各事業を一体運営する「ワン・プロテリアル」への道筋をつけることが重要になる。
(日経ビジネス 上阪欣史)
[日経ビジネス電子版 2023年1月30日の記事を再構成]
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