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創業1100年「日本一高い」仏具店、京都の技で細く長く

日経ビジネス
コラム
サービス・食品
2021/6/30 2:00
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専門性の高い寺院用の仏具を手掛ける=宮田昌彦撮影

専門性の高い寺院用の仏具を手掛ける=宮田昌彦撮影

日経ビジネス電子版

田中伊雅佛具店(京都市)は平安時代の仁和年間(885~889年)の創業で、仏具の製造販売を手掛けている。1100年以上事業を続けており、製造業では日本屈指の業歴を持つ。寺院用の仏具が大半だが、在家の位牌(いはい)や仏壇なども扱う(登場する企業の創業年などには諸説ある)。

超長寿企業は旅館などのサービス業が多く、製造業は限られている。日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授は「旅館は温泉という自然資源を守ることで比較的維持しやすいが、製造業は技術の伝承や革新がないと生き残れない。仏具は寺との関係も大切になってくる」と指摘する。

70代にあたる田中伊雅佛具店の田中雅一社長=宮田昌彦撮影

70代にあたる田中伊雅佛具店の田中雅一社長=宮田昌彦撮影

田中伊雅佛具店の本社はJR京都駅から徒歩で20分ほどの市街地にあり、社員は10人ほど。社長を務める田中雅一氏は創業から数えて70代にあたる。68代の祖父、69代の父からの口伝によると、もともとは仁和寺の門前にあり、鋳物で仏具をつくっていた。「鋳物師は芸術家でなく職人だったため、仏具に名を入れることは許されなかった」(田中氏)。火災による焼失などもあり、創業期を伝える資料は残っていない。

はっきりした記録があるのは350年ほど前の江戸時代からだ。当時、納めた寺には今もそのときの仏具が残っている。もともと「伊雅」ではなく「伊賀」だったため、江戸期に納めた仏具には「田中伊賀」の銘が刻まれている。

田中伊雅の史資料調査などを行った静岡文化芸術大学の曽根秀一准教授によると、天保年間と嘉永年間に刊行の『商人買物独案内』に「御室御所(=仁和寺) 真言密教御佛具師 御用所」として「田中伊賀」の名前があり、仁和寺と深く関わってきたことがうかがわれる。当時から福井、徳島など遠方の寺の仏具も手掛けていた。

「伊雅」となったのは、明治の廃藩置県の頃。仁和寺の門跡から「雅」の字をもらい今の形になった。田中家は古くから関わるが、創業期からなのかは分かっていない。

所在地は仁和寺の門前から、江戸後期には五条通り沿いに移った。戦争中の疎開のため、やや南に移り、戦後には火事に巻き込まれていろいろな資料が焼けた。その後に現在の万寿寺通り周辺に移転している。

京都には島津製作所のように仏具の製造から製造機器メーカーに転身した大手もある。田中伊雅は事業を立ち上げてから、ずっと仏具に限定して取り組んできた。「なぜそれほど続いてきたのかと聞かれることがあるが、結局、仏具だけをずっとやってきたからではないか。ずっとこれしかやっていない」と田中氏は話す。業歴は長いが、家訓などはないという。

本堂内の仏具一式を扱う

扱うのは主に密教系といわれる真言宗、天台宗の寺の仏具だ。金属製の仏具から始まり、寺からの専門性の高いニーズに応えるうちに、いつしか木製の仏具も扱うようになり、今では「本堂内の仏具一式」を手掛ける。取引先を絞り込む一方、その専門的なニーズを深掘りしながら扱い品目を増やし、細く長く事業を継続してきた。

京都には宗派ごとに仏具を手掛ける会社があるが、密教系を中心とするのは田中伊雅だけだという。扱うのは弘法大師が中国から伝え、五つの煩悩を払う「五鈷杵(ごこしょ)」など、特殊性が強い仏具が多い。田中氏は子供の頃から祖父や父の仕事を見て育ち、知識を自然と身につけた。高校時代からアルバイトで家業を手伝い、大学を卒業すると家業に入った。1972年に法人化しており、田中氏が97年から社長を務めている。

いろいろな寺に仏具を納めている=宮田昌彦撮影

いろいろな寺に仏具を納めている=宮田昌彦撮影

田中伊雅が仏具を納める寺は京都だけでなく、日本中に広がる。社員は全国を回りながら注文を聞く。長く仏具を納めてきた寺のほか、新たに付き合いのできる寺もある。

扱う仏具は7000から8000アイテムと幅が広い。カタログを用意しているが、納めるのは規格品よりもオリジナル品が多い。宗派の規則に沿いながら、デザインなどに住職の考えを取り入れて仏具をつくる。寺から注文を受けると、自社で設計図をつくることからスタートするため、製作には時間も手間もかかる。「日本で値段が一番高い仏具屋と言われることもあるが、その分、品質にはこだわっている」と田中氏は胸を張る。

製造は先代の頃までは職人も一部抱えてものづくりをしていたが、現在は外部の職人に任せている。例えば、鋳物で仏像をつくる場合、通常の鋳物のように鋳型から取り出せば完成、というわけにはいかない。彫金を施すなどの細かな加工を経て、ようやく完成する。京都には多様な分野の職人がいて、田中伊雅は伝統工芸の集積地に立地する強みを生かしている。職人の中には数代にわたる付き合いの人もいるという。

職人から仏具が届くと社員が自社で組み立てを行い、寺に納める。「図面から始めて納品のときにようやくすべてが完成する。絵に描いていたものが実際に設置されるときは、やはりわくわくする」と田中氏は話す。仏具は新たにつくるだけでなく、修理なども手掛けている。

組み立てなどは社員が行う=宮田昌彦撮影

組み立てなどは社員が行う=宮田昌彦撮影

父の代までは寺の新築や建て替えは時々あり、特に戦後の復興期には再建に合わせて仏具一式を納めることも多かった。このため、「お堂1カ所分の仏具などを年1、2カ所手掛けることで生活ができていた」と田中氏は話す。しかし、最近では木造の寺の建て替えや新築は減り、規模の大きい仕事は少なくなっている。一方、修理は定期的に必要なため、培った信頼関係を生かしながら細かなニーズを集めている。

一昔前まで、天台宗や真言宗の仏具は専門性が高く、公開された資料が少なかった。このため、田中伊雅は寺などでそれまで使っていた仏具を実際に見て、住職らの声を丁寧に聞きながら仏具をつくってきた。戦後に需要が急増したときにも粗製乱造には一切走らなかった。

専門性の高い仏具も最近は写真などで手軽に見られるようになり、密教系の仏具を手掛けたことのないメーカーによるものも出回っている。「本来の意味を理解しないで形だけ似たものをつくっている」と危機感を持つ田中氏は「しっかりした仏具をつくっていくのが自分たちの仕事だと思う」と静かに話す。

気になるのは信仰に対する考えが変わってきていること。仏壇がない家が増え、仏教への関心や信仰心が次第に弱くなっていると田中氏は感じている。檀那寺との接点が少ない人も多く、このままでは仏具のニーズが減り、職人が育つ環境を維持するのが難しくなりかねない。

コロナ禍の影響は伝統工芸にも及ぶ

田中氏は京都府仏具協同組合の理事長を務めているほか、伝統工芸22業種29団体の集まりである京都伝統工芸協議会の会長も務めている。「伝統、文化の問題としてこれまで以上に考えていく必要がある」と、伝統工芸を活性化するためにいろいろな手を打ってきた。職人に向けては「永続的に仕事が与えられるかどうかは分からないからこそ、腕をしっかり磨いて、それぞれが発信することが大切」と話す。

扱う仏具は多岐にわたっている=宮田昌彦撮影

扱う仏具は多岐にわたっている=宮田昌彦撮影

コロナ禍の影響は伝統工芸にも及んでいる。特に観光客の激減によって土産物を手掛けているところは影響が大きい。オリジナルの仏具が多い田中伊雅の場合、3年先くらいまでの仕事は入っているが、参拝者が減少するなど寺への影響から、注文が後ろ倒しになってくるのではないかと心配する。

「1100年続いてきたからといっても、つぶれるときは一代でつぶれる。1000年企業であっても商売を守るのに必死だ」と田中氏は話す。社内では娘が一緒に働いており、将来71代として引き継ぐ考えだ。

(日経ビジネス 中沢康彦)

[日経ビジネス電子版 2021年6月28日の記事を再構成]

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