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動画は縦型の時代 利用者100万突破「smash.」の戦略

日経ビジネス
コラム
2021/7/29 2:00
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バーティカル(縦型の)シアターアプリ「smash.」を立ち上げたSHOWROOMの前田裕二社長。その視線は、早くも世界に向いている。竹井俊晴=撮影

バーティカル(縦型の)シアターアプリ「smash.」を立ち上げたSHOWROOMの前田裕二社長。その視線は、早くも世界に向いている。竹井俊晴=撮影

日経ビジネス電子版

映像は、横長画面で見るもの――。果たして、そうだろうか。縦長画面で見たほうが、迫力も、臨場感も増すのではないか。そんな発想から生まれ、動画サービスの世界に、新風を吹き込んだサービスがある。

スマートフォンでの視聴に特化し、5~10分程度の短尺動画を配信するバーティカル(縦型の)シアターアプリ「smash.(スマッシュ)」だ。2020年10月22日のサービス開始から約8カ月、21年6月に100万ダウンロード(DL)の大台を超えると、同7月11日には約122万DLまで積み上げた。

「手のひらを特等席に」未知のBTSを独占配信

大台突破を後押ししたのは、韓国発7人組アーティストBTSのオリジナルコンテンツである。21年6月18日以降、毎週金曜日に最新動画を公開中。日本のみならず、韓国、米国にも同時配信しており、右肩上がりで視聴者数が伸びている。

人気の秘密は、そのコンテンツの中身にある。縦型のスマホ画面をフルに生かし、息遣いまで聞こえてきそうなほど、どアップでメンバーたちの素の表情を映し出した。ピンクやブルーのネオンがきらめく仮想都市「smash. city」で24時間、さまざまな時間軸でメンバーのプライベートをのぞき見るというコンセプトで、ライブやミュージックビデオで見るクールなBTSとは異なる、新しい魅力を引き出したのだ。

動画の公開に合わせて全国放映したテレビCMは、新しい視聴体験であることを前面に押し出した。「ここにはまだ知らないワクワクが詰まっている」。そんなナレーションとともに、BTSのメンバーたちが歩き出す。大ヒット中の新曲「Butter」に乗せて、休日を思い思いに過ごすメンバーたちを縦型で切り取った動画が、スライドショーのように流れていく。

仮想都市「smash.city」を舞台にBTSのオリジナルコンテンツの配信が始まった。写真はキービジュアル=代表写真

仮想都市「smash.city」を舞台にBTSのオリジナルコンテンツの配信が始まった。写真はキービジュアル=代表写真

このsmash.を仕掛けたのは、ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM」を運営するSHOWROOM(東京・渋谷)だ。前田裕二社長が目指したのは、手のひらを「特等席」に変えることだという。

そのために実装したのが、PICK(ピック)という機能だ。視聴中に2本の指先でスマホ画面をつまむだけで、お気に入りの瞬間を切り取れる。指でつまんだ時間だけ、最大15秒まで動画として保存でき、マイページからいつでも、好きなだけ再生できる仕組みだ。

切り取った動画はマイページからいつでも再生できる

切り取った動画はマイページからいつでも再生できる

「マイクロインタレスト」でつながる世界

PICKで切り取った動画にはコメントを投稿でき、SNSにもシェアできる。その結果、増殖しているのが「マイクロインタレスト(細かい趣味や嗜好)」(前田氏)でつながり合うコミュニティーだ。

例えば、「BTSが好き」「ジンという名のメンバーが好き」ではなく、「ジンの鍛え抜かれた二の腕のふくらみがたまらなくかっこいい」という、極めて細分化された話題で盛り上がり、該当シーンをPICKし合う現象が広がり始めている。

昔で言うなら、トレーディングカードを集め、友人同士で見せ合う感覚に近い。「ポケットの中に自分の好きなアーティストがいるという所有感があるのがポイント。デジタルトレカ、バーチャルトレカの世界を形にした」(前田氏)のが、smash.なのだという。

smash.は、BTS以外にも音楽、ドラマ、アニメ、バラエティーなど約3000の縦型動画を配信しているが、PICK数はその2000倍超の約637万回(7月11日時点)に達する。動画そのものだけでなく、PICKをきっかけに新しいコミュニケーションを生み出しているのが、他の動画サービスにはない特徴である。

配信動画数に対し、PICK数は2000倍以上に膨れ上がっている(2021年7月11日時点)

配信動画数に対し、PICK数は2000倍以上に膨れ上がっている(2021年7月11日時点)

料金は月額550円(税込み)。中には無料のコンテンツや「プレミア公開」という生放送もある。プレミア公開中に友人とチャットするソーシャル機能も盛り込んだ。

前田氏がマイクロインタレストに着目したのは、コロナ禍の中、ネット上の誹謗(ひぼう)中傷が社会問題となり、オープンなSNSの限界が見えたからだという。

「心を痛めてしまうようなコメントが目に付く場所は、嫌だと思った。ファン同士が集う場所なら、誹謗(ひぼう)中傷は生まれないし、心理的安全性も担保される。オープンSNSが息苦しくなってきている今だからこそ、マイクロインタレストが共通する仲間と同じコンテンツを楽しむのが、すごくワークする(機能する)」と考えた。

前田氏によると、smash.は当初、20年4月にリリースする予定だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、思い切って半年後に先送りした。この「充電期間中」に開発したのがPICK機能だった。

PICKが増えれば、PICKそのものがコンテンツになると前田氏は読む。「PICKを目的にユーザーの滞留時間が延びれば、コンテンツのROI(投下資本利益率)も上がっていく」

アプリ内がにぎわえばにぎわうほど、smash.に出たいと考える著名人が増え、そのファンがさらにsmash.へとなだれ込み、新しいコミュニティーが生まれる。マイクロインタレストの連鎖が、成長のエンジンになっているのだ。

縦型だから表現できる「1対1」の没入感

smash.は、プロクオリティーであることを売りにしている。プロのクリエーターが制作し、プロのアーティストやタレントが出演する。誰でも投稿できるYouTube(ユーチューブ)やTikTok(ティックトック)と一線を画したのは「スマホでも、映画と同じぐらい人を感動させられる動画を作れるんだということを証明したい」(前田氏)という思いからだ。

徹底しているのは、画面を目いっぱい使った「1対1」の没入感。縦型動画ならではの強みは1人称、つまり、自分があたかもその世界の中にいる感覚に浸れる主観映像が作りやすい点にあるという。

BTSのオリジナルコンテンツもこの特徴を生かし、あえてメンバーと目線が合う構図で撮影した。

「メンバーの寝顔の撮影では『毛布がこすれる音すら聞こえる』というクオリティーをすごく大事にした。ヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着しなくても、メンバーが目の前にいるというバーチャルリアリティー(VR=仮想現実)を味わえる。電車の中だと恥ずかしくて開けない。家の中で、自分の部屋でじっくり見たいと思える映像に仕上げた」(前田氏)

この1対1の主観映像こそが、テレビや映画、ネットフリックスなど既存の映像メディアとの差別化になる。それに縦型で見ることは、ある意味で理にかなっている。

我々は基本的にスマホを縦で持つので、縦型動画なら画面を横に向ける動作が不要になる。それだけではない。「人って、そもそも縦型じゃないですか。モナ・リザをはじめ、人物画も基本的に縦で描かれていますよね」と前田氏は問いかける。

縦型動画が広がれば、エンタメ業界に変化が起きる。「クリエーターがどんどんスマホに流れてくる。テレビや映画など16対9の横長動画しか作ったことがなくても、縦型で作ってみようという発想になると思うのです」

実際にsmash.で縦型動画に挑むクリエーターは増えている。21年6月24日には、俳優の斎藤工が企画、プロデュース、出演する即興シネマ「Hitch×Hook(ヒッチホック)」を、7月2日からは人気ユーチューバー「だいにぐるーぷ」が手掛けた縦型ドラマ「人のスマホを見てはいけない」の独占配信を始めた。縦型のホラー動画「スマホラー!」を監督したのは、まだ22歳の西山将貴氏である。

縦型配信のアーティストが登場

そもそも前田氏が、縦型かつ短尺動画に可能性を見いだしたのは4~5年前だった。当時、ロックバンドnever young beach(ネバーヤングビーチ)の「お別れの歌」、ラップグループlyrical school(リリカルスクール)の「RUN and RUN」など、少数ではあるが、ミュージックビデオを縦型で配信するアーティストが登場し、話題を集めていた。

このジャンルに特化すれば、世の中にない動画サービスを提供できるのではないか。構想を温めながら、実際にsmash.の開発に着手したのは19年ごろ。20年3月にはKDDIと業務提携し、出資を受けた。

注視していたのは、海の向こうの動向だ。20年4月、米国で「Quibi(クイビー)」というスマホ向け動画配信サービスが、鳴り物入りでスタートした。短尺動画を専門とし、縦画面での視聴に対応(縦でも横でも視聴可能)しているという点で、smash.とはコンセプトが似通っていた。

創業者は、米ウォルト・ディズニー出身の著名プロデューサー、ジェフリー・カッツェンバーグ氏。そこに米イーベイ、米ヒューレット・パッカードを率いたメグ・ホイットマン氏がCEO(最高経営責任者)に加わり、まさにドリームチームで世界の動画市場を席巻するはずだった。しかし、約2000億円もの資金調達に成功しながら、有料会員数を思うように伸ばすことができず、わずか半年でサービスを終了する憂き目にあった。

なぜクイビーはうまくいかなかったのか。「それを分析することから、サービスを磨いていったのがsmash.だった」と前田氏は振り返る。思い至ったのは「クイビーの戦略が、Amazon Prime(アマゾンプライム)的だったから」という仮説だ。

クイビーの失敗に学ぶ

アマゾンプライムの動画コンテンツは、既存の電子商取引(EC)有料会員の付帯サービスという側面がある。せっかく付いているサービスだから視聴しようという会員は多いだろうが、動画があるからアマゾンの会員になろうというユーザーは少数派だ。クイビーも同じで「どうしても見たいと思わせるコンテンツが少なかったから、初期の会員獲得に苦戦したのではないか」と分析した。

そこでsmash.では開始当初から、音楽プロデューサーの秋元康氏やジャニーズ事務所と組んだ。人気アイドルグループ「乃木坂46」や「Hey! Say! JUMP」のオリジナル動画を独占配信することで、根強いファンを味方に付ける作戦に出た。

そして世界に広げていくための切り札として白羽の矢を立てたのが、世界中にファンを抱えるBTSだった。21年5月、所属事務所の「ハイブ(HYBE)」と資本業務提携した。ハイブはSEVENTEEN(セブンティーン)やENHYPEN(エンハイプン)など他にもグローバルアーティストを抱えており、BTS以外での連携も視野に入る。

「グローバルを目指すことは、もうハイブに伝えてある。K-POPファンが多いということで、まずは米国と韓国に進出したが、他のアジア、欧州各国にも徐々に広げていきたい」と前田氏は語る。ハイブの時価総額は約1兆1400億円(7月20日の終値時点)と、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、二人三脚で世界市場を開拓していくことになる。

まずは既存のsmash.のコンテンツをそのまま翻訳して配信する。「ネットフリックスで配信されている『梨泰院(イテウォン)クラス』が韓国語のドラマでありながら、日本ではやったように、僕らのオリジナルコンテンツが、海外で見られるケースもあり得ると思っている」(前田氏)

オリジナルコンテンツで「逆輸入」も

前田氏は、今後、制作していくコンテンツの方向性が2つあると言う。

1つ目は、BTSのように既に多くのファンを抱えているアーティストと組み、「主観、1対1、没入感、バーチャルリアリティー、デジタルトレカといったsmash.の強みをうまく入れ込みながら、ファンの方々が本当に幸せを感じるような主観コンテンツを作る」(前田氏)こと。

2つ目は、挑戦的なオリジナルコンテンツをどんどん制作すること。7月6日に配信を始めたアニメシリーズ「暗黒家族 ワラビさん」は、俳優の山田孝之、声優の花江夏樹、三森すずこなど豪華キャストを起用しながら、「薬物や宗教、テレビ局のやらせ問題など、世の中の暗部にふたをしない」(前田氏)ことをテーマに掲げた。

バラエティーシリーズ「ハライチのYAMi」も、お笑いコンビのハライチが、元・テレビ東京の名物プロデューサー佐久間宣行氏と組んで、テレビでは放送できない"闇の部分"を表現する予定だ。

縦型の短尺動画は安く早く制作でき、トライアルしやすいメリットもある。smash.のオリジナル動画として視聴者の反応を確かめ、話題になればテレビや映画などに「逆輸入」していく展開もあり得るという。近い将来、smash.からデビューし、スターになる人材が現れるかもしれない。

当面の目標は、アクティブユーザー(利用者)数で月間100万人。「早々に達成できると思っている。ここまでくれば、収益を再投資して事業を大きく育てていける」(前田氏)。エンターテインメントには国境を越える力がある。手のひらから未来を切り開く挑戦は、まだ緒に就いたばかりだ。

(日経ビジネス 酒井大輔)

[日経ビジネス電子版2021年7月26日の記事を再構成]

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