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東芝買収案受け入れ 同床異夢の取締役会が出した答え

日経ビジネス
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法務・ガバナンス
2023/3/29 2:00
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東芝はJIPの買収案を受け入れ、経営危機からの再建プロセスは大きな節目を迎えた

東芝はJIPの買収案を受け入れ、経営危機からの再建プロセスは大きな節目を迎えた

日経ビジネス電子版

ほぼ2年かけて企業再編のドタバタ劇を繰り返してきた東芝。いったん投資ファンドが買収して経営環境を整えるという案は、あわや瓦解しかけたところで同社の取締役会による受け入れが決まった。金融機関が「最終列車」と見ていたプランを蹴れば、株価は急落しかねない状況だった。同社幹部の間では今回の案に異論も出ていたが、全てを台無しにはできないと、最後に合理的な方向性を見出した。

「ロード・オブ・ザ・リング」――。東芝社内で、経営権を巡る混迷はこう呼ばれている。英国の作家トールキン氏によるファンタジー小説は、不思議な指輪の持ち主が次々と支配欲に飲み込まれていく。東芝の取締役会も、様々な思惑が絡み、買収案を受け入れるまで曲折を経てきた。

投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が2月上旬に出した東芝買収の最終案は、エクイティ(出資)と融資を合わせて約2兆円でTOB(株式公開買い付け)を実施するものだ。東芝の社外取締役で構成する特別委員会は議論を重ね、どうにか3月23日の取締役会で受け入れを決めた。あと6営業日たって事業年度が変わってしまえば、買収資金に対する銀行の融資姿勢も再び変化しかねない瀬戸際のタイミングだった。

ここまで議論が紛糾した背景には、他の日本企業にとっても見過ごせない構造要因がある。東芝は取締役12人のうち10人が社外取締役で、外形的にはコーポレートガバナンス(企業統治)の先進企業だ。東証プライム市場が求める「3分の1以上」どころか、83%を占める。ところが社外取締役の思惑がバラバラだと、同床異夢のまま物事は決まらない。

複数の関係者によると、非上場化した場合の経営体制を巡って、役員という地位の保証を求める声が一部から出ていたという。社外取は、上場企業だと選任が義務付けられている役職だ。非上場企業でも設置が必要となるケースはあるが、今回のような買収案件では社外取を置かないほうが一般的という。

東芝は指名委員会等設置会社で、今までは取締役の指名を社外取がリードしてきた。社外取の報酬も自分たちで決めることができ、2022年3月期は単純計算(期中の人数変更は考慮)で1人あたり平均5300万円程度となった。「会社は誰のものか」というのは古典的なテーマだが、社外取がこれほど増えると社内で強大な力を持ち、オーナー経営者のように振る舞うことができる。

東芝の執行部と従業員にとっては、株主構成をシンプルにして経営の意思決定を迅速化する買収案にメリットがある。同社に影響力を及ぼしてきた物言う株主(アクティビスト)も、世界経済の変動を受けて早期のイグジット(投資回収)を目指すケースが増えてきた。一方、社外取にとっては権力基盤と高額報酬の源を失うことになるため、非上場化に疑念を示しやすい。

ただ、世界経済の振動が東芝の山を動かした。判断を先延ばしするとリスクが拡大する要因が大きく2つある。インフレ対処のため欧米は相次いで利上げしており、日本も政策的に抑え込んできた長期金利に上昇圧力がかかる。日銀の植田和男次期総裁は将来的に金融緩和を修正する可能性がある。東芝にとっては金利が上昇すると、ディスカウントキャッシュフロー(DCF)法で現在価値を出すための割引率が拡大。現在価値が縮小するため、現在の1株4620円という買い付け価格は割高になる。

もう1つは米シリコンバレーバンクの破綻や、スイス金融大手UBSによるクレディ・スイス・グループの買収などがもたらした金融情勢への不安だ。米当局が躍起になっているように、金融機関は流動性を厚めに備えておく必要性が増している。「とてもじゃないが巨額のLBO(レバレッジド・バイアウト)など向こう1年はできる雰囲気ではない」(金融関係者)。東芝が三井グループであるという縁もあって三井住友銀行がリスクの引き受けを覚悟したが、もし足元の機会を逃したら、次に資金を出せるようになるまで何年かかるか不明という声も聞かれる。

取締役会がもし現在の買収案を蹴った場合、代替案を一から練り直すのは現実的ではない。外為法の規制をクリアできる投資ファンドは限られているうえ、今の経済情勢ではバリュエーション(企業価値評価)が劇的に下がる。そのため株価が急落し、既存の株主は大幅な含み損を抱える可能性がある。責任追及の矛先が経営陣に向かいかねず、呉越同舟であっても買収案の受け入れしか道はなかった。

ガバナンス制度の欠陥

この混乱は「ガバナンスを強化するための社外取」という理想の限界を示している。

英オックスフォード大学経営大学院の院長を務めたコリン・メイヤー教授は、コーポレートガバナンスの役割について「経営陣の利益と所有者である株主の利益とを一致させて『エージェンシー問題』に対処すること」と定義している。エージェンシー問題とは、依頼主(プリンシパル)である株主が、代理人(エージェント)である経営陣に経営を任せるときの利害対立を指す。

株主と経営陣の意見が合わないなら、第三者である社外取を置けば調整できるのではないか。そんな発想で社外取の拡大を政府や東京証券取引所も推奨してきた。ところが社外取が取締役会で最大勢力となり、社外取の利益と株主の要望が必ずしも一致しない事態をどこまで想定してきたのか。今回の東芝の混乱は、新しい形のエージェンシー問題を突きつけた。

それが微妙な形で、買収案に対する東芝取締役会の意見表明にも表れている。TOBには賛同するが、現時点で株主に対して「応募を推奨することまではしない」と中途半端なスタンスも盛り込んだ。

複数の関係者によると「実際には多くの取締役が応募推奨をしても問題ないと考えていた。内部が決裂しないように変な書き方になったが、他に有力な策があるわけでもない」という。多くのアクティビストが保有株をさらに塩漬けするのを回避すれば、流れはTOB成立に傾きそうだ。3分の2の応募が集まれば、残りの株式をスクイーズアウト(強制買い取り)することで買収が完了する。

ようやく、15年に発覚した不正会計以降の混乱が落ち着くのかどうか。今後ひとまずは各国の独禁法当局による審査と、その後のTOBに対する株主の応募状況に視線が注がれる。

(日経ビジネス 東芝問題取材班)

[日経ビジネス電子版 2023年3月24日の記事を再構成]

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