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ゼロゼロ融資の後遺症 不良債権化に身構える銀行

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2022/9/29 2:00
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日経ビジネス電子版

新型コロナウイルス禍に苦しむ企業を救ってきた「ゼロゼロ融資」というカンフル剤。返済が始まれば、経営改善が見通せず「ゾンビ」となった企業があぶり出される。不良債権化が続発する事態を避けようとする、支援機関の闘いは新たな局面に入る。

「今まではやや甘い見積もりも通したが、難しくなってきた。目いっぱい切り詰めて、ギリギリの最低限まで精査してもらえないか」──。

新型コロナウイルス禍の第7波に収束の兆しが見えてきた2022年8月末、関東地方で飲食店チェーンを展開する社長は、地方銀行の融資担当者からこう告げられた。

このチェーンが実質的に無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」を受けたのは20年夏だった。売上高が前年に比べ4割減る時期が続き、資金繰りに窮して約1500万円を借りた。

21年10月から返済を始められる程度まで、経営は何とか立て直すことができた。新型コロナの感染が再び広がっても、店舗の営業は強く制限されずに済みそうな状況を感じた社長は、「今こそ反転攻勢のチャンス」と考え、7月に入って新たな融資を模索してきた。店舗の一部改装や、提供するメニューのリニューアルに資金の用途を絞り、銀行側に約1000万円を打診した。

しかし事業計画は差し戻された。審査の最終段階ではねつけられたのだった。「このタイミングの拡大路線はまだリスクが相当に高い」。そんな銀行の回答を、社長は「消極的な貸し渋りに遭った」と振り返る。

政府は外国人観光客の受け入れ制限を緩和したり、感染者や濃厚接触者の自宅待機期間の短縮を打ち出したりしている。経済活動の正常化が着々と進む一方、金融機関は「ゼロゼロ融資の後遺症」(メガバンク幹部)に身構えている。

民間金融機関は20年5月~21年3月にゼロゼロ融資の申し込みを受け付けた。その総額は約23兆円まで膨らんだ。融資先の返済が焦げ付けば信用保証協会が肩代わりするし、利子も都道府県が企業の代わりに支払う。「懐を痛めずにじゃぶじゃぶと貸せる、打ち出の小づち」(関西地方の地銀幹部)だから、審査が緩くなっても不思議ではない。

日銀の金融緩和による低金利環境で、金融機関は収益の柱だった融資による利息収入を大きく減らしてきた。預貸を中心とした「本業」が赤字から抜け出せなくなった。

そこに降って湧いたゼロゼロ融資の恩恵は大きかった。21年9月中間決算では、8割を超える地銀が最終損益で増益になった。20年度の貸出金残高は283兆円と前年度比で11.5%も伸びた。

個々の契約ごとにばらつきはあるが、地銀では「今年9月までに約5割の返済が始まっている」(全国地方銀行協会の柴田久会長)状況だ。ただし、売り上げが思うように回復していない企業には、返済できずに破綻に追い込まれる懸念がくすぶる。

企業の再生事業承継を支援するPMGパートナーズ(東京・新宿)が3月、ゼロゼロ融資を受けた中小企業の経営者1007人を対象にアンケートを実施すると、返済に不安を抱える回答が74.6%を占めた。

「日々の資金繰りに充てていて返済できない」「返済が始まっているが、売り上げが下がり続けていて今後は分からない」といった声が相次いだ。返済のめどについては、「立っていない」との回答が32.3%に上った。

避けたい引当金かさ上げ

市場から消える企業が増えていく兆候は既に出ている。全国信用保証協会連合会によると、代位弁済(企業が諦めた融資返済を保証協会が肩代わりすること)の件数は、7月に前年同月比で4割増えた。保証債務残高は7月時点で約41兆円。コロナ前(19年度)の約2倍だ。

西日本のある県では、保証協会による代位弁済の件数が22年1~6月だけで21年全体の9割に達した。全国信用協同組合連合会の会長を務める広島市信用組合の山本明弘理事長は「これから代位弁済や倒産が増えていくのは間違いない」と話す。

ゼロゼロ融資自体の破綻は、確かに代位弁済でカバーされる。ただゼロゼロ融資を受けた企業には、既に保証協会がカバーしない「プロパー融資」も受けているケースが多い。

つまり代位弁済が実行されると、連動してプロパー融資も返済の見込みがない不良債権になる。金融機関にとって、それは貸倒引当金のかさ上げに直結する。ゼロゼロ融資の返済開始が、金融機関にとって収益悪化の引き金になる恐れがあるという構図になっている。

金融機関にとって、融資先の支援策でまず浮上するのはゼロゼロ融資をプロパー融資に置き換える「借り換え」だ。金利や元金の返済条件を改めれば、企業にはビジネスを仕切り直す余裕が生まれる。

しかし、ある地銀の幹部は「既にゼロゼロ融資を受けた企業の2割程度はゾンビ化している」と明かす。借り換えに頼るだけだと、苦境を打開できない企業が続出しかねない。

赤字ビジネスにアクション

東京都が地盤のきらぼし銀行は、1万社以上の企業にゼロゼロ融資を実施した。返済が始まるタイミングに合わせて、ヒアリングの結果や資金繰りのデータを基にした元本返済の延期や新規融資などで対応している。山口光好融資管理部長は「返済条件の緩和に踏み切っても、本業回復が追い付かない企業が出てきている。最近は、小規模な企業ほど事業継続を諦める傾向が強い。倒産件数の増加が心配だ」と話す。

きらぼし銀行が融資管理部を設立したのは、ゼロゼロ融資が始まって間もない20年7月だった。融資した後の企業について、現場の状況を把握するだけでなく、損益や資金繰りがどのような経緯をたどっていくか。モニタリングを通じて問題点を捉え、経営陣に対処を促す狙いがあった。

経営や財務の現状調査を絡めて積極的に対話し、赤字が出ている部門の存在を把握してもらう。「赤字のビジネスを見つけ、そこにアクションを仕掛ける。取りやめも選択肢になるが、黒字化できれば企業の再生につながる」と山口部長。債務過剰に陥っている企業が返済できる力を復活するには、貸した側の金融機関による愚直な支援が欠かせない。

金融機関が用意する融資先企業の再生支援策は多様化している。例えば傘下や外部のファンドと組んで、融資先の資本を増強して前向きな投資を促したり、人材を派遣したり、M&A(合併・買収)先を紹介したりして、融資先の収益力を向上させる手立てもある。

足元で注目を集めているのが債権回収業者、いわゆるサービサーの活用だ。全国各地で企業再生を手掛ける中小企業活性化協議会とサービサー業界は9月、共同で企業を支援する体制を打ち出した。

これまでサービサー側は、案件ごとに参加を検討する仕組みにとどまっていた。情報の共有などで緊密に連携することで、再生案件の処理スピードを上げることが可能になる。中小企業庁がサービサー各社の意向を尋ねたところ、8月下旬時点で全国サービサー協会の4割に当たる約30社が名乗りを上げた。

新型コロナ禍による過剰債務で経営環境が厳しい企業を融資先に抱える金融機関は、債権管理業務を強化する上でサービサーのノウハウを大いに参考にしている。

きらぼし銀行は10月3日付で、大阪や福岡など全国に拠点があるエイチ・エス債権回収(東京・港)の全株式を取得し、完全子会社化する。これまでも、山口フィナンシャルグループ愛媛銀行が共同出資する、にしせと地域共創債権回収(にしせとサービサー)が21年8月に営業を開始したほか、池田泉州ホールディングスも22年4月に完全子会社のサービサーを設立している。

不良債権処理能力に疑問符

こうした動きの背景には、金融機関で不良債権処理の担い手が不足しているという事情も絡む。

債権を投資対象の中心にするファンドを運営するキーストーン・パートナースの堤智章社長は「バブル崩壊後よりも不良債権案件が多くなるのは確実だが、バブル崩壊後に不良債権を処理した人材はもう銀行本体を去っている」と指摘する。メガバンク関係者も「後ろ向きの業務に人員を割く余裕はない」と声を潜める。

様々な金融サービスを手掛ける金融機関と異なり、サービサーは債権回収・再生の専門業者だ。「銀行に比べてしがらみが少ないのが特徴。どういうスキームを組むか、自由度が高い」(山田サービサー総合事務所の山田晃久社長)。事業を立て直せば回収率も上がるため、少なくないサービサーが再生支援も担っている。

広島市信組の山本理事長は「M&Aや再生支援のような複雑なことはできない。なるべく自力回復に向けて支えるが、その後はバルクセール(債権売却)する」と明言する。債権売却、いわゆる「損切り」に踏み切ってでもサービサーに任せた方が再生・廃業が円滑に進むと見ている。

ただし、サービサーを「債権回収の万能薬」のように位置づけるのは危うい。そもそも金融機関が損切りを決断しない限り、動けないからだ。

一方、政府はゼロゼロ融資の返済開始がピークを迎えるのを機に、中小企業の支援策を次のステップに移行しつつある。

経済産業省と財務省、金融庁は9月8日、「中小企業活性化パッケージNEXT」を策定。低利融資の対象となる貸付限度額を3億円から4億円に引き上げたほか、日本政策金融公庫による低利(中小企業は0.16%)・無担保融資を23年3月末に延期した。

さらに、中小企業活性化協議会と連携し、サービサーを生かした支援スキームを創設。経営者自身の破産を避けるため、個人保証に依存しない融資システムも年内に取りまとめる方針を掲げた。

一方、ゼロゼロ融資と並んで企業が頼ってきた「特例リスケ」制度は22年度に原則廃止された。既存の債務について金融機関への元本返済を1年猶予できるもの。20~21年度に4353件分を支援した。

また4月には「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が施行された。中小企業版「私的整理に関するガイドライン」とも呼ぶべきもので、従来の再生型と並び、廃業型の私的整理手続きについても触れている。金融業界にはこのガイドラインを「事業再生が難しい企業に廃業を選択肢に入れるよう、政府が事実上の圧力をかけている」(九州の地銀幹部)といぶかる声が広がっている。

政府系金融機関のうち、商工組合中央金庫(商工中金)のコロナ関連融資の実績は9月の終了までに3.7万件で2.6兆円以上に達する見込みだ。今後は複数の借入金をまとめ、長期で返済する借り換え保証などの仕組みを検討することになる。

宮本達郎経営サポート部長は「リーマン・ショックでは、今なら救えるはずの企業がかなり倒れていった。再生支援策が当時より整備された今、経営破綻する企業が続出する事態にはならないだろう」と予測する。

5月末には、商工中金や日本商工会議所など14団体が参加して「経営力再構築伴走支援推進協議会」も発足した。宮本部長は「企業は負債の返済をいったん凍結し、収支の黒字化に集中してほしい。停滞感が漂う環境より、危機の方がビジネスのチャンスが転がっていると考える経営者は多いはず。しっかり支えたい」と語る。

多くの企業が新型コロナ禍に体力と気力を奪われた。容易に再浮揚できる材料は、今なお見当たらないのが現実だ。そして中小企業だけでなく、規模が比較的大きな企業にも、その苦しみが広がってきている。

(日経ビジネス 鳴海崇、三田敬大)

[日経ビジネス電子版 2022年9月22日の記事を再構成]

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