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パナソニックの歴代トップ、松下幸之助と終わらぬ対話

日経ビジネス
関西
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2023/1/30 2:00
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本社敷地内にある創業者、松下幸之助の像。経営陣や社員にとって大きな存在だ(写真=行友重治)

本社敷地内にある創業者、松下幸之助の像。経営陣や社員にとって大きな存在だ(写真=行友重治)

日経ビジネス電子版

パナソニックグループの精神的支柱となってきた創業者、松下幸之助。歴代のトップが、その存在に近づいては離れながら経営に当たった。停滞を脱しようとする中で、振り子は再び幸之助へと振れる。(文中敬称略)

2022年11月、旧松下電器産業の社長だった中村邦夫が亡くなった。00〜06年に6代社長に就いた中村は、歴代社長の中で、松下幸之助が築いた事業モデルを壊した人物とみられてきた。

中村の「破壊と創造」

中村が着手したのは事業部制の廃止。研究開発や製造現場の重複を解消するため、約70年続いた体制に終止符を打った。聖域とされていた雇用にも手を付けた。勤続10年以上、58歳未満の社員を対象に早期退職者を募集し、02年3月までに約1万3000人が退職した。これほど多数の社員が去ることは従来の松下にはなかった。

02年3月期には4278億円の最終赤字を計上、当時としては同社で過去最大の赤字額だったが、中村の構造改革によって2年後には黒字に転換。改革には、米国や英国の駐在が長かった中村の合理主義的な考えが色濃く出た。

中村の路線を継承した7代社長の大坪文雄は、08年に社名をパナソニックに変えた。「パナソニック」「ナショナル」など商品によってバラバラになっていたブランド名と社名を統一させ、結果として創業者、松下幸之助の色がない「パナソニック」を採用した。

「破壊と創造」を旗印にした中村と、それを継承した大坪。だが、00年代後半にプラズマテレビへ過剰に投資し、のちに2年間で1兆5000億円に上る最終赤字を計上することになった。創業者時代の経営と一線を画す取り組みは多かったが、残ったのは「破壊」で、「創造」にまで至ることはできなかった。

12年に8代社長に就いたのが、津賀一宏。当初は記者会見や社内で、幸之助やその理念にほとんど触れることはなかった。研究開発者出身らしく、何にもとらわれない独特の思考が特徴で、創業者さえも特別視しなかった。「創業者の枠組みから抜け出せないのは情けない」「我々の経営理念を築くべきだ」などと、時に幸之助の経営を否定しているかのような発言もあった。

だが、社長在任期間の半ばから、「次第に幸之助の理念や考えに立ち戻ることが増えた」とある幹部が話す。その時期は、プラズマテレビの事業失敗による巨額赤字からV字回復を果たしたのち、新たに打ち出した車載関連などの事業につまずき始めた頃と重なる。

津賀は「パナソニックとは何の会社なのか、自問自答している」と記者らを前に本音を吐露していた。在任期間の後半は創業者への思いをはせるような場面が増えた。日々新たな観点でものを考えて事をなす意味の「日に新た」や、物事の本質を見るときのあるべき姿勢を表す「素直な心」に言及した。

創業者へと振れる振り子

パナソニックホールディングス(HD)の経営者は幸之助の教えとの間で揺れてきた。そして、9代トップとしてグループをけん引する楠見雄規。持ち株会社制への移行で、事業会社の独自性が強くなり、いわば経営に遠心力がかかる中で、幸之助の理念を重視している。振り子は創業者へと大きく振れた。

「精神的な安定と、物資の無尽蔵な供給が相まって、初めて人生の幸福が安定する。松下電器の真の使命は、生産に次ぐ生産により、物資を無尽蔵にして、楽土を建設することである」

幸之助はこう考えた。全ての物資を水道の水のように価格を安くして社会を豊かにする「水道哲学」としても知られ、25年からなる1節を10回繰り返し250年で世の中を楽土にする「250年計画」と併せ、楠見が引き合いに出す考え方の一つだ。

「250年計画がつくられたのは今から90年前。では、これから160年後の世界はどうなるのだろうか」。そう考えた楠見に浮かんだのは、資源不足など新たな貧しさにつながりかねない地球環境問題を解決しなければならない、ということだった。子孫に物心とも豊かな社会を残すため、それこそが使命だとの思いを強めた。

(写真=的野弘路)

(写真=的野弘路)

社長の楠見雄規は、1964年に制定された経営基本方針を約60年ぶりに改定。社員一人ひとりが力を発揮できる会社へと立て直しを図ろうとしている(写真=的野弘路)

社長の楠見雄規は、1964年に制定された経営基本方針を約60年ぶりに改定。社員一人ひとりが力を発揮できる会社へと立て直しを図ろうとしている(写真=的野弘路)

そして幹部たちにこう言った。「環境投資は短期的に利益と相反するなどとネガティブに考えている事業部長は退場してくれ」。パナソニックHDのグループCTO(最高技術責任者)である小川立夫は、楠見がこのようにサステナビリティーに言及したことを覚えている。古くから受け継がれてきた経営理念と現代の課題、そしてパナソニックHDの取り組むべきビジネスとの関係が見える。

理念を重視するために、1964年から配られていた社員読本「経営基本方針」を読みやすく改めた。2022年、初めて文章の表現を改定したのだ。七精神の一つとして知られる「産業報国の精神」には、「私たちの使命は(略)地球環境との調和に貢献することです」などと記した。幸之助の理念は、巻物などの形として職場に置き、社員が朝礼時に唱和していたが、新型コロナウイルス禍が発生してからは実施していない。

執行役員の森井理博は「多くの経営者が創業者の理念を学んでいるのに、本家の我々が最も実践できていないと楠見が強調していた」と振り返る。

楠見は、経営理念が重要であることをトヨタ自動車の動向にも見て取った。同社は19年、100年に1度の大変革期の中で、創業の原点を見失ったまま生き抜くことはできないと、創業者の教えなどを載せた社員手帳を作った。歴史文化コミュニケーション室の中西雅子は、楠見が経営基本方針改定に着手する際、何度もトヨタの手帳を手本に出したと振り返る。「我々もトヨタのように社員が認識を共有できる冊子を作ろう」と、楠見は中西に話した。

持ち株会社制という経営手法は、幸之助が始めた事業部制の特徴を持っている。同じように経営の理念としても、原点回帰を進める。

神格化してはならない

経営者にとって創業者は大きな存在だ。全社員を束ね、自分を誰も守ってくれない中で取捨選択を迫られるとき、その教えは重要なよりどころになる。しかし、頼りすぎれば自らを縛ることになりかねない。

楠見はそれを分かっている。「創業者が何を言ったかを強調すると神格化され、思考が停止する。何を言ったかではなく、何をどう考えたかこそが重要」と、中西に言った。言葉だけを追うと、自由な発想ができなくなるということだ。

戦後生まれた日本の有力企業の多くで、すでにトップは何代にもわたって交代を繰り返してきた。創業者の存在とその教えは、あるときは経営の柱として社員を支え、あるときは成長のブレーキになった。

幸之助と並んで、経営の神様と称された京セラ創業者の稲盛和夫が22年8月、亡くなった。アメーバ経営などとともに「選択と集中ではなく多角化」が必須、との哲学が受け継がれてきた。京セラはこれを守り、不況期に多くの企業が赤字に倒れる中でも黒字経営を続けた。

ただ、電子部品業界で他社との差が広がった。スマートフォン用部品などへの集中投資を続けた村田製作所が京セラの何倍もの利益を稼ぐ企業になった。村田の23年3月期の連結営業利益は京セラの2倍を超す見込みだ。同社社長の谷本秀夫は多角化の意義を認めつつ「選択と集中の考え方を取り入れる」と語り、半導体関連などへの投資を強化する。パナソニックグループも変えるべきところは変える姿勢が必要になる。

楠見は幸之助の経営手法と理念をよりどころにして、自ら考える組織づくりへ動き出し、さらに事業の選択へと進む。打破するのは、日本の多くの組織にはびこる思考停止の悪弊。パナソニックHDが成長できるかどうかは、これからの日本の進路を占うものにもなる。

パナソニックHD・冨山和彦社外取締役 改革の成果は一朝一夕には出ない


(写真=北山宏一)

(写真=北山宏一)


2022年に亡くなったソニー(現ソニーグループ)元社長の出井伸之氏は電機業界でデジタル化、グローバル化の根源的なゲームチェンジが起きていることに初めて気付いた経営者だ。

出井氏は在任中には評価されなかったが、彼の打った布石がその後の経営者にも継承され、25年かけて今のソニーグループになっている。日立製作所は川村隆、中西宏明の両社長の時代から改革がスタートしている。

一方、パナソニックホールディングス(HD)がデジタル化の改革に着手し始めたのは今から4〜5年前の津賀一宏社長時代。ソニーの出井氏と同時代に松下電器産業(現パナソニックHD)社長だった中村邦夫氏はリストラによって在任中に成果を出した。中村氏も立派な経営者だったが、電機業界を見渡した時、大きな意味で歴史的な仕事をしたのは出井氏だった。

デジタル化に向けた改革の成果は一朝一夕に出ない。自分の在任中にちょこちょこと結果を出すものでもないと津賀氏にも言ってきたし、楠見雄規社長にも言っている。

大切なのはお客様が何に価値を認めるか。創業者の松下幸之助氏は、世の中に役立つ仕事をしなさいと言っている。米グーグルの元幹部がパナソニックHDに来てくれたのは、そうした幸之助氏の考えに感銘を受けたからだ。

だが、パナソニックHDはある意味、その視点を失ってきたといえる。楠見氏は社員に、お客様にどう役立てるかを虚心坦懐に見つめよと言いたいのだろう。だから、創業の原点にも立ち戻っている。手段は問わない、もっと自由な発想になれということだ。

一橋大学ビジネススクール・名和高司客員教授 市場を創造し「W字回復」脱せ


(写真=的野弘路)

(写真=的野弘路)


パナソニックHDの強みが生かせるのは、技術革新よりむしろ市場創造ではないだろうか。同社は、松下幸之助氏の水道哲学の精神のもと、日常の暮らしに貢献してきた。社会実装力こそ同社の強みである。

十数年前、ソニーグループや米アップルは技術革新によって非日常の領域を攻めていた。当時の松下電器産業の経営陣も、同じ方向を目指したいと思ったようだ。

私は、たとえ「マネシタ」と言われようとも、日常をターゲットにするのが役割ではないかと思う。0から1にするのはソニーグループ。1から10にするのがパナソニックHDということだ。

多くの日本企業が誤解しているが、イノベーションとは技術革新のことだけを指しているのではない。イノベーションは、経済学者のシュンペーターが言い出した言で、その意味はむしろ価値創造、市場創造。パナソニックHDはそこに着目すべきだ。

また、パナソニックHDは典型的な「W字回復」の会社だ。V字回復をしてもそこで止まってしまう。満足してしまうのだろう。これは典型的な日本企業の病状でもある。再びぜい肉がたまればまたV字回復をするので生き残りはするが、成長はしない。

例えば、富士フイルムホールディングスは2000年代前半が危機中の危機だったが、当時トップだった古森重隆氏からすると、そこからV字回復した後が最大の危機だったと後に振り返っている。10年以降も投資を緩めず利益を更新している。

いったん業績を回復させた後にも次の手を打っていけるか。V字回復を繰り返す企業と、その後も成長し続ける企業の分かれ目になる。

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス電子版 2023年1月25日の記事を再構成]

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